表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/227

彼、去りしあと その1

 一騎打ちの翌日。


 ラーサーは紅蓮の竜騎士ことシャルルの都市追放処分を発表した。


 世間の口には戸は立てられぬという言葉があるように、シャルルが公子の邸宅に押し入った事やラーサーとの一騎打ちは既に噂になり始めている。


 この事実は程なくしてリベランドの他の都市はもちろんの事、他国にも知れ渡るだろう。


 そんな状況下でなんの処分を下さないとなると対外的にも示しがつかない。


 そこで既に立ち去った者に対しては意味の無い形だけの処分ではあるが、とりあえず実現可能な処分を下したというだけの事である。


 とはいえこれは暫定的な処分に過ぎない。


 なぜなら事件の調査は始まったばかりなのだから。




 今回の事件は単に無許可で貴族居住区に進入した者が、公子邸宅に押し入り強盗を働いたというような単純なものではない。


 シャルルの主張は連れ去られた家族を取り返しに行ったというもので、それが認められれば無許可で貴族居住区に侵入した事や公子邸宅に押し入った事も、ある程度は正当化される。


 誘拐犯から家族を取り戻すためという止むを得ない事情があるのなら、そのために行った違法行為も多少であれば許されてしかるべきだと考えられるからだ。


 今回シャルルに必要以上の暴力行為は認められず、怪我人は多数出たものの治療が不可能な大怪我や死亡した者は一人もいない。


 彼の行為が止むを得ない行動だったと認められた場合、彼のやった明確な違法行為は警察権を持つラーサーの事情聴取に応じなかった事くらいだろう。


 しかし、それさえも事件の相手が公子という高位権力者であった事を考えれば、その権力によって法を捻じ曲げられる事を危惧しての行動とも考えられる。


 したがって法的にはともかく、世間一般の感情的に考えれば止むを得ない行動であり、ある程度の減刑はあってしかるべきだと言えなくもない。


 だが、マリオンの主張はそれに真っ向から反発する。


 連れ去った娘は遺跡に安置されていたアーティファクトであり、自分はそれを盗み出した犯罪者から取り返すという正当な行為を遂行したに過ぎない。


 ゆえにシャルルが邸宅に押し入ってそれを持ち去ったという行為は単なる強盗であるという主張だ。


 彼はこうも主張した。


 貴族居住区に強盗の進入を許したのはマギナベルクの警備に問題があり、その責任は領主であるラーサーにある。


 更にラーサーは犯人を取り逃がしただけでなく追跡を禁止した。


 これはもはや領主として治安維持の責任を放棄しているに等しく、相応の処分があってしかるべきであると。


 一方ラーサーの主張はこうだ。


 シャルルの主張は調査中であり現時点ではなんともいえないが、この事件はマリオンが警察権を持つラーサーに報告せず、勝手に動いた事によって引き起こされたものである。


 もし報告があり最初から自分が動いていれば事件になっていなかった可能性が高いと考えられるため、責任の大半はマリオンにあるというものだ。


 また、マリオンが主張する治安維持の責任についても真っ向から反論している。


 シャルルの貴族居住区侵入を防ぐ事は彼の能力を考えると物理的に不可能であり、不可能な事を実現できなかったとしてもそこに責任は生じない。


 シャルルの追跡を禁止したのも彼を拘束できる可能性があるのは自分だけで、他の者が行っても実現不可能だからだ。


 無論、自分には領主として他にもやらねばならぬ事があるため彼を追い続ける事はできない。


 つまり実現可能である事はやっているのだから、マリオンの主張する責任の放棄にはあたらないという主張だ。




 本来、鉱山都市マギナベルクで起きた事件を裁く権限は領主であるラーサーにあるのだが――


 この事件は公子であるマリオンやアーティファクトが係わっている事――


 マリオンがラーサーの責任問題を王に訴えている事――


 マリオンとラーサーの主張が真っ向から対立している事――などもあり、当事者の一人であるラーサーの裁量で裁くのは問題があるとされる。


 そこで、この件については国王と四人の大公爵が話し合うリベランド最高の権威、リベランド最高貴族会議で審議される事となった。


 それに伴いラーサーは、審議が終わるまでマリオンの遺跡調査許可の停止を決める。


 調査の許可は国王が出したものではあるが、その要請を受け領主であるラーサーが承認したものだ。


 したがってラーサーにも止める権限がある。


 これにマリオンは反発したが、ラーサーが王の了承を得た事を示すと彼はしぶしぶ海洋都市シーランに帰って行った。




 ラーサーが遺跡調査停止の了承を得るため国王に出した親書には、今回の事件について判明している事や、それにより生じた問題なども書かれている。


 そこには今回の件でマギナベルクのハンターギルド所属であった紅蓮の竜騎士というドラゴンから都市を守れる防衛力が無くなった事――


 それによりラーサーがマギナベルクを離れている間にドラゴンの襲撃があった場合、現在の防衛力では守りきれず都市が滅亡する危険があるという事――


 したがってラーサーはマギナベルクを離れる事ができず、自分が居なくてもドラゴンから守りきれる防衛力が整わない限り、今後は他の都市からの要請を受けてもドラゴンの討伐をする事ができなくなった事――なども書かれていた。


 無論、ラーサーがドラゴン討伐を請け負うようになる前からドラゴンも都市も存在していたし、要請を出せば一瞬で飛んでくるわけでもない。


 なので当然どの都市もドラゴンの襲撃に耐えうる防衛力は保持している。


 だがラーサーが来るのと来ないのでは被害が雲泥の差であるため、それが無くなるというのは非常に困る事となった。


 とはいえ自分の領地を滅亡の危険にさらしてまで要請を受けろとは王であっても言えない。


 そこで国王と他の大公爵たちはラーサーが他の都市に遠征できるようにするため、自分たちの保持する戦力を融通しマギナベルクの防衛力強化に協力する事を決めた。





 例の事件から約半年。


 この間、国王と大公爵が領有するリベランドの各大都市は、段階的に騎士や兵士、そしてハンターギルドに要請して有力なハンターをマギナベルクに移籍させた。


 これによりマギナベルクはドラゴンに対抗しうる防衛力を得る。


 そしてマギナベルクを空ける事が可能となったラーサーはドラゴン討伐要請の受付を再開し、王都ヴィクトリウスでの開催が法で定められているため保留となっていたリベランド最高貴族会議の開催も決定した。


 会議には国王と四大公爵の他に重要参考人としてマリオンも参加。主張が真っ向から対立するラーサーと激しい舌戦を繰り広げる。


 だが最終的にはラーサーの主張が認められ、シャルルの都市追放処分は解除となり、マリオンは公子としての資格を失う事となった。


 これは国王と大公爵たちが、英雄、紅蓮の竜騎士の報復を恐れたためで、彼に敵対した者を処分する事でリベランドが彼に対して敵意を持っていない事を示すという狙いもある。


 また、真王の血筋でないラーサーにも領内の遺跡調査権が認められる事となり、マリオンを派遣したシーラン大公と国王が権利を放棄したため、マギナベルクの遺跡で発見されたアーティファクトの全権利をラーサーが有する事となった。


 これには今回の件の引き金となったマリオン派遣に対するラーサーへの謝罪の意味と共に、この件にはこれ以上係わりたくないという彼らの心情が関係している。


 そして最高貴族会議の終了後、マリオンの処分とシャルルの処分解除は国内の各都市に公布され、リベランドはもとより近隣諸国にも知れ渡る事となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この話と同一世界で別主人公の話

『小さな村の勇者(完結済)』

も読んでみてください

よろしければ『いいね』や『ポイント』で本作の応援もお願いします

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ