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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード1 マギナベルクの新英雄
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ハンターギルド その1

 大都市。それは国の中心であり国そのものと言って良い存在。


 国境線という概念のない大陸では、基本的に国王の支配する大都市を中心に貴族が領有する中小都市やシティ(準都市)があり、それらに属する町や村で国が構成されている。


 だがそれは大陸南部の話であり、大陸北部では少々事情が違う。


 大陸北部。そこは三つの大勢力により統治されている。


 一つは聖王教という宗教で繋がる国家群、聖王連合。


 もう一つはいくつもの大都市や属国を抱える魔導帝国。


 最後の一つは、遥か昔に魔導帝国から分離独立し、複数の大都市を持つ王国リベランド。


 そんな三大勢力のうちの二つ、リベランドと魔導帝国の間にマギナベルクという大都市がある。


 大陸有数の魔石鉱山を有するこの都市の価値は高く、かつて二国はその領有をめぐって激しく争った。


 しかし大陸最強の怪物であり『災害』とさえ言われるドラゴンの度重なる襲来により二国とも領有を諦め撤退。その後100年以上放置されたその都市は、長らくドラゴンの棲みかとなっていた。


 だが約5年前、リベランドの一人の貴族によってその都市は再び人類のものとなる。


 その貴族、名をラーサーという。


 一介のハンターであったラーサーは、その実力を認められリベランドの軍に入ると瞬く間に成果を挙げ騎士となる。


 そして第三王女クローディアの護衛として帯同した海洋都市シーラン訪問時、出現したドラゴンを単騎で撃破し王女を救うと、その功績により男爵を叙され英雄を意味するヒイロの家名を与えられた。


 ヒイロ男爵となったラーサーは、小規模ながら本来は大都市の領主にしか許されない騎士団の設立を許され、その家名を冠したヒイロ騎士団を率いて鉱山都市マギナベルクをドラゴンから人類に取り戻す事に成功する。


 この功績によりラーサーは鉱山都市マギナベルクの領有と第三王女クローディアを妃として迎える事を許され、リベランドでは王に次ぐ権力を持つ大都市の領主、大公爵の一人となった。


 その後もラーサーとヒイロ騎士団はリベランド内のマギナベルクを含む複数の都市に現れたドラゴンを討伐し、その名は英雄大公(通称、英雄公)の二つ名で大陸全土に知れ渡っている。



 現在も復興中である鉱山都市マギナベルク。


 この大都市は、英雄公こと、ラーサー・ヒイロ・マギナベルク大公爵が領有する、リベランド所属、マギナベルク大公爵領である。





 マギナベルクのハンターギルド。そこは現在この都市で唯一通行ができる門、南門からすぐの場所にある。


 建物はいたって普通で大都市のハンターギルドとしては少々小さいが、そもそも開放されてから5年しか経っていないマギナベルクはまだまだ復興の真っ最中。人口もシティよりは多いものの小都市より少ないという状況だ。


 だが、それでも小都市のハンターギルドよりは大きく所属するハンターも多い。


 これは別に大都市だからという理由ではなく、単純にこの都市がハンターを必要としているからだ。


 ハンターとは隊商の護衛や森の奥で取れる薬草の採取など、危険を伴う様々な仕事を請け負ういわばなんでも屋だが、主な仕事はその名の通り野獣や魔獣を狩る事である。


 そして今、マギナベルクはその野獣や魔獣といったいわゆる人類に害をなす害獣の対策に追われていた。


 通常、一般的な人類の生息域に強い獣はあまり出ない。


 これはハンターや兵などによって駆除されるからという事もあるが、一番の理由は生活圏の違いだ。


 獣にとっては人里離れた森の奥ほど生活のしやすい豊かな土地であり、縄張り争いの激しい土地でもある。


 したがって、森の奥に行くほど縄張り争いに勝利した強い獣が棲み、外に行くほど豊かな土地を追われた弱い獣が多い。


 しかし、100年以上放置されていたこの都市の周辺はいわば森の奥と言って良いような場所。当然、生息する害獣も森の奥と同じで強い。


 だが都市として機能させるには街道を整備し、街道や都市の付近に強い害獣が出ない状況にする必要がある。


 そこでこの都市では害獣駆除の報酬をほかの都市よりも高くして、多くのハンターを集めていた。


 一人、また一人、腕に覚えのあるハンターがこの地を目指しやって来る。


 今まさにこの都市は、大ハンター時代を迎えようとしていた。





 空が茜色に染まり始めた夕刻。ハンターギルドの受付嬢パメラは、ぼんやりと併設されている食堂兼酒場スペースを眺めていた。


 食堂スペースではほかのメンバーに比べ質の落ちる装備をしているパーティの下っ端らしき少年が、テーブルとカウンターをせわしなく動き食事や酒を運んでいる。


 それを見てパメラは今朝害獣狩りに出かけたアルフレッドたちの事を思う。


「あの子たち遅いなぁ……」


 あの子とは言うが、パメラとそれほど年が離れているわけではない二人。


 出身地は違うものの、彼女と同じで近くの村(廃墟であったマギナベルクの付近には町や村はないので、ほかの都市に比べればという意味)から大都市での暮らしに憧れてこのマギナベルクに来た、ある意味同志みたいな子たちだ。


 本来経験のないハンターはプロハンターがいるパーティに、さっき食事を運んでいた少年のように見習い――つまり雑用係として入り、ハンターとしての基礎を学ぶ。


 当然、同じパーティで二人受け持つ事なんてほとんどないので見習いは一つのパーティに一人となるのだが、あの二人は離れ離れになる事を(特にアルフレッドが)嫌がり、結局二人でパーティを組んでハンターをしていた。


 とはいえこのマギナベルクでは近隣の町や村出身者の場合、同郷の初心者だけで組んでいるパーティも珍しくはない。


 そもそもハンターになろうという者たちだ。当然それなりの実力もあり害獣駆除なんかも故郷ではやっていたのだろうし、自信もあるのだろう。


 だが――パメラはそういうパーティで、ギルドに顔を見せなくなった者たちを何組も知っている。


 ハンターを辞めるのに許可は必要ないので、もしかしたら黙って故郷に帰ったという事も考えられなくもないが……それは希望的観測だろう。


 しかし、いつもならもっと早い時間に帰ってきて、ここで少しおしゃべりをして行く二人がまだ帰ってこない。


「まさか……」


 首を振り嫌な予感を振り払う。


 今日は成果がなかったからここにはよらず宿に戻ったのかもしれない。


 成果がなくても来る事が多いが、こういう事がなかったわけでもないしたぶんそうだろう。


 そうこう考えているとギルド入り口の扉が開くのが見えた。


「さて、仕事、仕事」


 営業スマイルで入り口の方を見ていると――入ってくるのは少年ぽさの残る赤髪の青年と赤みがかった金髪の女性。二人の無事を確認しパメラは胸をなでおろす。


 ほっとしたのと心配させないでよとの思いで笑いながらちょっと頬を膨らますが、続いて入って来た人物を見て再びその表情を変えた。


 赤を基調とした装備を身に着けているその人物は、竜の頭を模したような兜をかぶり、全身鎧はど事なく竜を連想させ、左腕につけている盾は竜の鱗の一枚を磨き上げたような感想を抱かせる。


 そして極めつけは真紅のマント。


 なにあれ!? ちょっと派手すぎでしょ!


 パメラは思わず心の中で突っ込みを入れた。


 受付に向って歩いてくるアルフレッドはパメラに向って軽く手を挙げ、斜め後ろにいるローザもにこやかに微笑んで言う。


「ただいまー」


「ただいま」


「う、うん。おかえり……」


 パメラが彼らに言う次の言葉。それは『遅かったわね』『心配したんだから』『大丈夫だったの?』本来はそんな事を言うはずだった。


 だが、彼らの後ろに控える人物のインパクトにすべて持っていかれてしまい実際に言った言葉は――


「そ、その派手……騎士様は?」




「し、新規ですかっ!?」


 二人に紹介され、パメラはその騎士風の派手な男はハンター登録をしに来たのだと知る。


 彼に二つ名をつけるとしたら『赤竜の騎士』とか『紅の竜騎士』と言ったところだろうか? はっきり言って物凄く派手な格好ではあるが……まあ、ハンターには自己顕示欲の強い人も少なくない。


 例えば超一流ハンターの証でもあるシルバープレートを持つハンターの戦士なんかは銀を基調とした騎士風の格好を好む人が多いし、このギルドに所属する『金獅子』の二つ名を持つハンターなんか金を基調とした全身鎧を愛用している。


 だが、彼らだって最初からそんな格好をしていたわけではない。実績、実力があるからこその自己顕示だ。


 だからパメラもこれだけ派手な格好をしているのならどこかですでに実績を上げているハンターなのだろうと思い、ハンターの身分証、ライセンスプレートの提示を求めた。


 しかし返って来た答えは『それは何だ?』だ。


 首をかしげ頭の中が『?』になっていたパメラはローザに「この人、未経験者らしいので新規登録です」と教えられたのだが――


「何か問題でも?」


「あ、いえ。えっとですね……」


 男の問いにパメラは口ごもる。


 この都市は今、一応のチェックはあるが身分証無しでも出入り可能なフリーパス状態。


 だからこそどこの国にも所属していない村出身のパメラやローザたちもここに住んでいられるし、この人がハンターになる事にもなんの問題もない。


 問題はないが――ちょっと怪しすぎる。


 貴族や騎士の子弟が修行と社会勉強のために数年間ハンターを経験するなんて事もあるらしいし、そういう場合は最初から良い装備で身を固めている場合もあると聞く。


 確かにハンターは油断せず自分のレベルに合った仕事をこなしている限り、怪我をする事も死亡する事も少ない。


 あらかじめある程度の実力がある者であれば良い経験になるだろう。


 しかしここは普通の都市と違い、そういう事に適しているとは言いがたい場所。


 つまり、その男の格好は派手さを除いたとしても異常な事なのだ。


 騎士くずれ、元兵士や元傭兵などなら特に問題はないが、野盗が盗んだ装備を着こんできたとかだと大問題。


 その辺の判断は数年前まで単なる村娘だったパメラにはわからない。


 わからないならどうするべきか?


「少々お待ちください」


 わからないならわかる人に聞く。基本である。


 パメラは頭を下げると奥にある階段を上り、三階のギルドマスターの部屋に向った。

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