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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード3 それぞれの立場と譲れないもの
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一騎打ち その3

 ぼんやりと月明かりが照らす草原で、少し距離を取って対峙する二人。


 しばし沈黙が続くが、それを破りラーサーが語りかける。


「あの日……私が留守にしていたあの日。君がマギナベルクをドラゴンの脅威から救ってくれた事には本当に感謝している。このような事になって残念だ」


「私とてお前と遣り合うのは望むところではない。だが互いに譲れないものがある以上、致し方あるまい」


「そうだな……」


 そしてまた、しばしの沈黙。


 森の近くまで行ったブルーノが手に持った明かりを振る。


 それを見てラーサーは剣を抜きオーラを張ると言った。


「そろそろ、始めようか」


 暗闇に輝くラーサーのオーラ。


 その濃さに見ていた者たちから感嘆の声が漏れる。


 一方シャルルはまだ剣を抜かずオーラを張る様子も無い。


「どうした? オーラを張らなくても良いのか?」


「私には私のやり方がある」


 そう言ってシャルルはフッっと笑う。


「そうか……」


 何か策があるのだろうか?


 ラーサーが警戒しつつシャルルを見ると、その周りにはうっすらと湯気のようなものが見えた。


 それはまるで低レベルの者が纏うオーラのように薄く、装備の色のせいか――赤みがかって見える。


「ところでラーサー、一つ教えておいてやろう。お前は知らないだろうが……次元の扉は一種類ではない。誰かがその先に居るドラゴンを倒すと前の扉が消え、新しい扉が現れるのだ」


「ほう、そういう仕組みなのか……だが、なぜ今それを?」


 首をかしげるラーサー。それを見て、シャルルは軽く笑いながら話を続ける。


「私はお前の攻略ブログを見て次元の扉クエストの存在を知った。私がここに居るのはお前のおかげと言えなくもない。自分がドラゴンロードを倒したあと、どうなったのかは気になるだろ?」


「それはそうだが……」


 確かに興味深く、気になる話である事は間違いない。


 だが、これから一騎打ちをする相手とするような話ではないだろう。


 なにか意図があるのだろうか? と思いつつも、ラーサーは聞き入ってしまう。


「話の続きだが……新しい扉が現れるとその先にいるドラゴンも変わる。私が倒したドラゴンは――ドラゴンロードではないぞ」


「なに!? では君が倒したドラゴンは……」


 シャルルはラーサーの言葉を待たず右手を真っ直ぐに上げる。


 するとシャルルの手の先――上空に、小型の太陽が形成され、辺りは昼間のように明るくなった。


「ばかな……ダークナイトが魔法レベル10の魔法だと!?」


 ラーサーはこの魔法を知っている。


 小型の太陽を作り出しそれを放つ広範囲攻撃魔法『プロミネンス』。


 ゲームで何度も見た事があるそれは、魔法使い系最上位、レベル100マジックマスターでなければ使えない魔法だ。


 そして彼はようやく気づく。


 さっきの会話はこの魔法の詠唱時間(正確には詠唱ではなく、発動までの時間)を稼ぐためのものだったのだと。


「お前なら問題なく防げるはず。だが、避ければ後ろの奴らは跡形も無く消し飛ぶぞ」


 シャルルの手がゆっくりと前方に向って下ろされ、それと同時に小型の太陽がゆっくりと降下する。


 避けるのは簡単だ。


 だが、そうすればこの魔法はラーサーの後方に向って飛んで行く。


 十分に距離があるマギナベルクにはなんの被害も無いだろうが――シャルルの言う通り馬車の辺りに居る者は、消し飛ぶかまではわからないがほとんど助からないだろう。


 無論、一騎打ちの余波で死んだとなればそれは自己責任ではあるのだが……マギナベルクで、それもラーサーの目の前で公子が死んだとなると大問題になる。


 それに、こんな事で大切な部下を失うわけにはいかない。


 ラーサーは動かず迫り来る小型の太陽に向って左腕のやや蒼みがかった銀に輝くの盾を向けると防御スキルを展開する。


 広範囲防御スキル『アルティメットシールド』。


 使用者を中心に広範囲にフォースの盾を展開し、フォースとオーラの続く限り攻撃を防ぎ続ける。


 ドラゴンとの戦闘で仲間や兵を守るために編み出したラーサーオリジナルのスキルだ。


 次の瞬間シャルルは走り出し、ステラのもとに行くと彼女を小脇に抱える。


 そして唖然としていたブルーノたちに「余波に気をつけろ。じゃあな」と言うと全身にフォースを纏い疾風のように森の中に消えて行った。


 呆然とそれを見送るブルーノたち。


 彼らはシャルルの脇に抱えられたステラが「ばいばーい」と言って手を振るのが見えた気がした。


 直後、地響きと共に衝撃波が走る。


 カーチスは用意していた防御壁の秘術を展開し、ブルーノとヨシュアは防御スキルで衝撃を防ぐ。


 馬車の付近はラーサーのおかげでほとんど影響が無かったが、揺れる大地と衝撃波に馬はいななき人はその身を硬くした。


 そしてそれが治まった頃、辺りはまた暗闇に戻る。


 ふう――


 ラーサーは大きく息を吐くと、小型のクレーターができ所々が赤く溶岩のように溶けた目の前の大地を見ながら思う。


 フォースをかなり消費し、オーラも少し削られた。さすがに魔法レベル10の魔法を正面から防ぐとなると骨が折れるな。


「閣下、お怪我は?」


「問題ない」


 駆け寄ってきたスコットにラーサーは答える。


 他の騎士たちもやってきてラーサーの無事に安堵すると、シャルルの放った魔法でできたクレーターを見て驚愕した。




 ヒイロ騎士団の騎士たちに遅れること数分。離れて様子を見ていたマリオンが、部下を引き連れラーサーのもとにやってくる。


「奴はどうした?」


「どうやら立ち去ったようだ」


 ラーサーがやれやれといった態度でそう答えると、マリオンは憤慨し叫ぶ。


「に、逃げられたのか!? アーティファクトは、エトワールはどうした!?」


「あの娘を保護していたのは彼らだ。あそこにいないのだからシャルルが連れて行ったのだろう」


 近づいてくるブルーノたちの方を見ながらラーサーがそう言うと、マリオンは慌てるように言った。


「なっ!? バカモン! 追え! すぐに追いかけてエトワールを回収してこい!」


 その命令に騎士たちは顔を見合わせ、マリオンの部下たちは馬の方に向かおうとする。


 だが――


「追うな!」


 ラーサーの一喝に、全員がその動きを止めた。


「き、貴様。アーティファクトを盗み、この私を……真王の血を引くこの私を辱めたあの犯罪者を、おめおめと逃がすというのか!? そんな事は断じて許さん!」


 マリオンは顔を真っ赤にしてラーサーに迫ってくる。


 ラーサーはマリオンの服の襟首をつかみ顔を近づけると言った。


「マリオン卿、口の利き方に気をつけろ。卿は公子の身分でありながら、国王陛下より大公爵を叙されたリベランド四大公爵が一人、このマギナベルク大公爵に命令するのか?」


「わ、私は真王の――」


 マリオンの言葉をさえぎり、ラーサーはシャルルが作ったクレーターを指して言う。


「で、誰が彼を追い捕まえるのだ? 彼はドラゴンを倒し、こんな魔法を使う者だぞ? そんな事できる者がいるのか? 私は一人を追いかけ続けていられるほど暇ではない」


「ぐ……ラーサー……卿。この件は……真王の血筋である私に牙を向きアーティファクトを強奪した者を、卿が追いもせず逃がしたという事実は陛下に報告させてもらうぞ」


「好きにしろ。私も今回の件、誰のせいでマギナベルクを救った英雄、紅蓮の竜騎士と敵対する羽目になったのかを詳細に調べ上げ、陛下に報告させていただく」


 マリオンはラーサーを視線で殺そうとしているかのようににらんだが、ラーサーは相手にせず騎士たちに向って言う。


「事後処理は明日以降だ。マギナベルクに戻る。準備しろ」


「はっ!」


 指示を受け騎士たちは撤収の準備を始め、しばらくにらみ続けていたマリオンも指示を出しその場から全員が撤収する。



 そして翌日。


 貴族居住区及び公子邸宅の不法侵入と器物破損及び傷害の罪で、紅蓮の竜騎士ことシャルルの都市追放処分が発表された。

ブックマークしてくださった方、評価ポイントを入れてくださった方、ありがとうございました。


血湧き肉躍る一騎打ちを期待してくださった方、申し訳ないのですがこれはそういう話ではありませんのであしからず。


参考にさせていただきますし今後に反映できるかもしれませんので、ご意見などございましたら感想のほうにお願いします。

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