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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード3 それぞれの立場と譲れないもの
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一騎打ち その2

 ラーサーとシャルルの一騎打ちが決まり、二人と関係者が決戦の場に向かう事になった。


 シャルルは立会人としてハンターギルドのギルドマスター、ブルーノを指名。それは了承されハンターギルドに使いが出される。


 ラーサーは一騎打ちの間ステラを保護する事を申し出たがシャルルは了承せず、ブルーノの護衛として来るであろうハンターにステラの保護も任せるという事に決まった。


 現地には馬車で向かう事になり、シャルルの乗る馬車には監視としてラーサーと、マリオンの要請でルーカスが乗る。


 シャルルのひざの上にはステラが座り、疲れとシャルルに抱かれているという安心感からか静かに寝息を立てていた。


 本当の親子みたいだな……と、ラーサーは思う。


 それは容姿が似ているからというのもあるかもしれないが、それだけではなく、この娘はシャルルを本当の親のように信頼しきっているように見える。


 シャルルはこの娘を家族だと言った。


 確かにこの娘を高レベルまで育てれば、レベル100のシャルルと二人ならラーサーさえも超える戦力となり大陸を支配できるくらいの力となるかもしれない。(もっとも戦力など支配に必要な力の極一部に過ぎないという事を、ラーサーは骨身に沁みてわかっているが)


 だが、少なくとも現時点では彼にそういう野心があるようには見えず、ただ保護者としてこの娘を守りたいだけのように見える。


 十分に話し合う時間さえあれば、この戦い(一騎打ち)は避けられるのではないだろうか?


 ラーサーがちらりと横に座るルーカスを見ると、彼はじっとシャルルが抱く娘を見つめていた。


 この男が居る以上、下手な会話はできんな……。


 誰も口を開く事は無く、静まり返った馬車はガタガタと揺れる音だけをさせながらゆっくりと夜の街を進んで行く。


 シャルルはステラの頭を優しくなでつつ、所々に明かりがつく夜の商業地区をぼんやりと眺めていた。





「シャルルが英雄公と一騎打ちだと!?」


 騎士の話を聞きブルーノは思わず声を上げる。


 すると、それを聞きつけたハンターやギルド職員が、カウンター前で話していたブルーノと騎士を取り囲むように集まってきた。


「なんだ、なんだ?」


「なんでシャルルが英雄公と?」


「いくらシャルルでも英雄公が相手では……」


「何がどうなってるんだ?」


 理由を知る者、知らぬ者、それぞれが好き勝手に疑問や感想を述べ騒然とするが、ブルーノがそれを両手で制し静めると騎士は再び口を開く。


「シャルル殿は立会人としてハンターギルドのギルドマスターであるあなたを指名した。現地までご同行願いたい」


「もちろんそれはかまわんが……」


 この騎士は英雄公の腹心とも言えるヒイロ騎士団の騎士。ヒイロ騎士団が出てくるとなると、英雄公とシャルルの一騎打ちは冗談や何かの間違いだとは考えられない。


 再び騒然とする中ギャラリーの間からヨシュアが進み出る。


「英雄公と紅蓮の竜騎士、英雄同士の一騎打ち。その立会人ともなると危険があるかもしれん。俺たちが護衛につこう」


 ヨシュアの言葉に彼の後ろに控えるパーティメンバーたちは頷き、ブルーノも頷く。


「ああ、よろしく頼む」


 そのときギャラリーの中からアルフレッドが進み出て言った。


「俺も連れて行ってくれ!」


「私も行くわ」


「私も……お願いします!」


 アルフレッドに続きローザとソフィも言うが、彼らを制しながら騎士は言う。


「現地までは馬車で向う。ギルドマスターの護衛は二人までとさせていただきたい」


 それを聞きブルーノがヨシュアを見ると、彼は頷きアルフレッドたちに言った。


「お前らでは力不足だ。あの二人が遣り合うとなるとこの俺とて安全とは言えん。俺とカーチスで行く」


 ヨシュアが後ろを振り向くと、聖職者風のローブを纏った優男――カーチスが軽く頷く。


「みんなへの報告はあとで必ずする。おとなしく待っていてくれ」


 ヨシュアの言葉にアルフレッドたちは唇をかみつつも無言で頷き、それを見て準備が整ったと感じた騎士は言った。


「では、立会人と護衛の方々を現地へ案内する。参られよ」


 騎士を先頭にブルーノ、ヨシュア、カーチスがギルドを出る。


 アルフレッドたちはただそれを見送るしかなかった。




 マギナベルクの南方に広がる草原。そこはかつてシャルルがマギナベルクに迫りつつあったドラゴンを倒した場所。


 数台の馬車や馬、そしてヒイロ騎士団の騎士とマリオンやその部下たちがいるその場所に、これから一騎打ちを行う予定のラーサーとシャルルを乗せた馬車が到着した。


 馬車の前にヒイロ騎士団の騎士たちが整列し、馬車から降りるラーサーを出迎える準備をする。


 そしてラーサーが馬車から降りるとヒイロ騎士団副団長のスコットが進み出て、片ひざを突き礼をした。


「お待ちしておりました閣下。準備は整っております」


「ああ。ご苦労」


 ラーサーに続きシャルルとルーカスも馬車を降り、ルーカスは騎士たちを一瞥すると素通りしてマリオンのもとへ行く。


 シャルルはその場に留まりラーサーの前に並ぶ騎士たちを見て改めて思う。


 ラーサーと遣り合うには『あれ』を使うしかないが……そのあとにこいつらと遣り合うのは無理だな。


「しゃるぅ? ひっ」


 降りるときに揺れたせいかシャルルに抱きかかえられていたステラが目を覚まし、騎士たちを見て怯えるようにシャルルにぎゅっと抱きつく。


「大丈夫だ」


 そう言ってシャルルはステラを優しくなでながら、これから決戦の場となる都市とは逆の南方に広がる草原に目を向ける。


 すると、少し離れた場所にぼんやりと白っぽい光が見えた。


 あれは? そう問いかけようとスコットを見ると、その言葉を発する前に答えが返ってくる。


「あの光は要請に応じて来てくださった立会人のブルーノ殿とその護衛の方々です」


「そうか」


「では、参りましょう」


 歩き出したスコットを先頭に、ステラを抱きかかえたシャルル、そしてラーサーが続く。


 光のもとに到着すると、そこにはスコットの言う通りブルーノと護衛で来ているヨシュアとカーチスがいた。


「大変な事になったな」


 ヨシュアにそう言われ、シャルルはフッと笑う。


「成り行き上、仕方ないさ。それよりマスターやお前たちをこんな事に巻き込んでしまって悪かったな」


「なに、我々が戦うわけでもなし。この程度かまわんよ」


「だな」


 苦笑しつつブルーノが言うと、他の二人も苦笑しつつ頷く。


 シャルルが抱きかかえていたステラを下ろすと、彼女は心配そうにシャルルを見上げた。


「しゃるー……」


「大丈夫だ。少しだけこの人たちと待っていてくれ」


 シャルルは右手でステラのパッツン前髪を上げ、おでこにキスをする。


 そして右手でステラをなでながら、左手で東側に見える森を指してヨシュアたちに言った。


「しばらくこの子を預かっていてくれ。危険だからなるべく離れていた方が良い」


「勝てるのか?」


「さあな。だが、この子は必ず迎えに行く」


 それを聞き、ヨシュアは口角を少し上げ軽く頷く。


「準備は良いかな?」


「ああ」


「問題ない」


 ブルーノの問いにシャルルとラーサーが答えると、スコットはラーサーに「ご武運を」と言ってから馬車のある場所の方へ向かって歩きだし、ラーサーも北に向って少し歩いてシャルルから距離を取る。


 そしてブルーノとヨシュアたちも、ステラを連れシャルルがさっき指した森の方へ向って歩き出した。


 シャルルはラーサーが十分離れた事を確認するとカーチスを呼び止める。そして呼びかけに歩みを止めたカーチスのもとへ行き耳打ちした。


「方向からして大丈夫だとは思うが――私が手を上げたら一番強い防御壁を準備しろ」


 何か考えがあるのだろう。


 そう思ったカーチスは無言で頷くと先を行く三人のもとに戻り、シャルルももとの場所に戻った。

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