表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード3 それぞれの立場と譲れないもの
57/227

一騎打ち その1

 突如現れたラーサーに、その場にいた者たちの視線が集まる。


 彼はその視線を見返しつつ、ゆっくりと部屋の中を見回した。


 部屋にいるのはシャルルと彼が抱きかかえる幼女、マリオンとそれを支えるルーカス、そして呆然と立ち尽くす兵士が一人と手足などを押さえながらうめき声を上げる騎士風の男が六人。


 その中に死者はもちろんの事、欠損など完治が困難な大怪我をしている者は見当たらない。大きな怪我をしているとしても、骨折など治療すれば完治が可能な程度だろう。


 ラーサーがここに来るまでに会った警備も同程度の怪我しかしていない事を考えると、シャルルは十分な配慮をしており絶対的な敵対心を持ってはいないという事が伺える。


 無許可で貴族居住区に入り公子の邸宅に押し入ったのだ。無罪放免というわけにはいかないだろうが――正当な理由があるのなら、微罪で済ます事ができるかもしれない。


 まずはなぜマリオンが娘を連れ去ったのかを知る必要がある。


 そう考えラーサーはマリオンに理由を尋ねようと思ったが、彼が口を開く前にマリオンは言った。


「ラーサー。こいつはアーティファクトを盗んだ犯罪者。しかも真王の血筋であるこの私にこれだけの事をしたのだ。どちらも許しがたき蛮行。即座に斬り捨てよ!」


「アーティファクトを盗んだ? そうなのか?」


 ラーサーの問いにシャルルは『さぁ?』といった感じで肩をすくめる。


 それを見てマリオンは激昂し叫ぶように言った。


「ふざけるな! 貴様が抱える娘。それこそがアーティファクト、エトワールではないか!」


 それを聞いてラーサーはステラにアナライズをかける。


 なるほど……『マジックマスター 3/100』か。


 確かに最大レベルが100の人類がこの世界に普通に存在するとは思えない。


 だが、現在レベルや年齢を考えるとプレイヤーとも考えづらく、マリオンがアーティファクトと呼ぶからには、恐らく遺跡で発見された者なのだろう。


 となると、シャルルは遺跡であの娘を見つけ保護したといった感じだろうか?


 仮にそうなら罪になるかどうかは保護したときの状況次第といったところだが、これはなんの裏づけも無いラーサーの憶測に過ぎない。


 正確に調べるにはそれなりの時間が必要で、その間シャルルと娘は拘束しておく必要がある。


 素直に応じてくれれば良いが……ラーサーは説得を試みる事にした。


「私はまだ状況が把握できていない。もちろん公子の屋敷でこれだけの事をしたのだ。無罪放免というわけには行かないだろうが――シャルル、君に正義があるのなら、身の安全を保障し寛大な処置を約束しよう。おとなしく投降してもらえないか?」


 ラーサーのレベルはシャルルより高い120。装備もシャルルより数段上だ。


 それにここにはヒイロ騎士団も来ている。


 抵抗してもどうにかなる状態では無い以上、彼は訴えに応じてくれるだろう。


 ラーサーはそう考えていた。


 だが、そんな事を許すはずも無い者がいる。


「ふざけるな! 奴は盗人、正義など無い! 私にこれだけの事をしたのだ。寛大な処置など絶対に許さん! すぐさま斬り捨てろ!」


 ラーサーは忌々しいといった目でマリオンを一瞥したあとシャルルを見る。


 シャルルはそのやり取りを鼻で笑うと言った。


「その男はこの国ではかなりの権力者だろ? そいつが許さんと言っているのに、お前の一存で寛大な処置とやらができるのか?」


「権力で言えば公子であるマリオン卿より大公爵である私の方が上だ。特にこの都市において私は絶対的な権限を持つ。その権限において可能な限り努力する事を約束しよう。だが、どうしてもと言うのなら――力ずくで従ってもらうしかない」


 ラーサーとその後ろに控えるヒイロ騎士団の騎士たちを見ながらシャルルは考える。


 投降すれば身の安全は保障されるだろう。


 それに拘束されようとも自分だけならなんとでもできる自信もある。


 だが、その場合ステラがシャルルのもとに返される事は恐らく無く、その状況からステラを奪還するとなると困難を極めるはずだ。


 では抵抗した場合はどうだろうか?


 ラーサーの後ろに控える騎士たちには見覚えがある。


 恐らく城に召喚されたとき、謁見の間でラーサーの横に控えていた者や横に並んでいた者たちだ。


 一人はレベルだけならハンターレベル7であるヨシュア以上、他の者もそれなりのレベルだったはず。


 一対一でも普通に戦った場合、シャルルがラーサーに勝つのはかなり難しい。


 だが奥の手を使えばたぶん勝てるだろう。


 しかし、多対一の場合はその限りではなく、ラーサーを倒したとしても彼らが残っていれば勝てるとは言い切れない。


 それだとステラを守る事ができないかもしれないので、遣り合うとしても他の者が手を出せない状況を作る必要がある。


 ラーサーはシャルルと遣り合っても被害が出るだけで、それに見合うだけの得るものは無い。


 ステラの能力を知ったとしても、甚大な被害を出してまで欲しいとは思わないのではないだろうか。


 それでも見逃すという事ができないのは、この都市の領主、そしてリベランドの大公爵としての立場があるからだ。


 ならば逆にそれらをうまく利用すれば、他の者が手を出せない一騎打ちという提案を飲ます事ができるかもしれない。


「力ずく――か。今までなるべく被害を出さないようにと思ってやってきたが……お前が相手となると加減はできん。私たちがやりあえば『ドラゴンが暴れる程度』の被害では済むまい。この部屋、この屋敷はもちろんの事、貴族居住区だけでなく、都市全体に被害が及ぶ事になるぞ」


「……だから見逃せと?」


 ラーサーは鋭い視線をシャルルに向ける。


 それを見て、そこにいる者たちはラーサーは覚悟を決めたのだと思った。


 だが、実際にラーサーが考えていた事は全然違う。


 ラーサーはこう考えていた。


 戦った場合、負けるとは思わないがかなりの被害が出るだろう。


 勝っても特に得るものが無い以上、正直、見逃す事ができるのなら見逃してしまいたい。


 行動や言動から考えるに、見逃してもわざわざ復讐に来るとは考えられず、その方が失うものも少なくて済む。


 だが公子の邸宅を襲撃した者を無条件で見逃したとなると大きな問題になる事は避けられない。


 特にラーサーに恨みを持つマリオンは、ある事ない事を言って大騒ぎするはずだ。そうなればリベランドにおけるラーサーの立場が悪くなるのは必至。


 なんとか被害を最小限に食い止められないものか……。


 そこにシャルルから魅力的な提案があった。


「私が祭りの日に言った事を覚えているか? 私はこの都市が気に入っている。 できれば巻き込みたくないとも思っているが――それは家族を守る事より優先される事ではない。 お前にも立場というものがあるだろう。 だからこのまま見逃せとまでは言わん。 私とお前の一騎打ちで決着をつけるというのはどうだ? 場所は……そうだな。 私がドラゴンと戦った辺りなら都市への被害も出ないだろう。 私が勝てば無罪放免、お前が勝てば私を好きに裁くが良い。 無論、その場で斬り捨ててもらってもかまわん」


 シャルルはこう考えていた。


 この場で遣り合えば大きな被害は避けられず、提案を飲めば少なくとも都市に被害が出る事は無い。


 それにシャルルよりレベルが高く数段上の装備を持つラーサーは、一騎打ちでも負けるとは微塵も思わないはず。


 したがって、ラーサーがこの提案を受けないという事は無い。


 そしてこの場には公子であるマリオンやラーサーの腹心もいる。


 この状況で了承を得ればその約束はきっと果たされるはずだ。


 反故にすれば自身の信頼を大きく損なう事になるのだから。


 提案を受けラーサーは考える。


 一騎打ちでシャルルを抑えるのはそれほど難しい事でもない。


 もちろん何か策があるのかもしれないが――装備品も含めた私との差はそうそう埋められるものではないはずだ。


 もちろん全戦力でもって戦った方が確実ではあるが……その場合、甚大な被害はまぬがれない。


 特にこの場でやれば貴族居住区が火の海になりかねず、有力貴族に被害が出ればラーサーの立場はかなり悪いものとなる。


 となると……この状況を抑えるためには受ける以外の選択肢は無い。


「いいだろう。君と私で決着をつけよう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この話と同一世界で別主人公の話

『小さな村の勇者(完結済)』

も読んでみてください

よろしければ『いいね』や『ポイント』で本作の応援もお願いします

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ