奪還 その3
突然の来訪者にマリオンをはじめ、そこにいた全員が固まる。
そんな彼らを特に気にする様子もなく、入ってきたシャルルは悠々と部屋を見渡し――
そしてマリオンの座る玉座風のイスの横でひざを抱えて座るステラを見つけると、優しく微笑みながら言った。
「遅くなって悪かったな。迎えに来たぞ」
「しゃるー」
顔を上げ自分を見つめるステラに向かってゆっくりとシャルルは歩いて行く。
そこにいる誰もがその様子を見ていたが、突然の出来事にいまだ誰も動けずにいた。
シャルルが部屋の中ほどまで進んだとき、呆然とそれを見ていたマリオンはようやく我に返る。
そして近づいてくるシャルルに対し言った。
「き、貴様! なぜここにいる!? ハンターギルドで待機するよう命じたはずだ!」
「ああ、それは聞いている。だが私はハンターを辞めた。ハンターで無い者を拘束する権利など、ハンターギルドにあるはずもなかろう?」
一瞬だけマリオンに視線を向けると、シャルルはそう言ってフッと笑う。
「と、止まれ!」
なおも進もうとするシャルルの前に、両端に並んでいた騎士風の男たちが剣を抜いて立ちふさがる。
だが、ひるむ事なくシャルルは男たちに言い放った。
「道を開けろ! 私は家族を迎えに来ただけだ。おとなしく返せば見逃してやらん事もない。だが――それを邪魔するというのなら容赦はせん」
その言葉にマリオンは激昂する。
「なにが家族だこの盗人め! エトワールを遺跡から盗み出しただけでなく、奪い返されたエトワールを再び強奪しようなどとは言語道断!」
そしてマリオンはイスから立ち上がると、右手を前に突き出し号令をかけた。
「斬り捨てよ!」
その声に応じ、騎士風の男たちは剣を振りかざしてシャルルに襲い掛かる。
だが、次の瞬間、全員が吹き飛ばされた。
シャルルは剣を抜いていない。拳と蹴りで男たちを吹き飛ばしたのだ。
「き、貴様! どこまで罪を重ねるつもりだ! こんな事をしてただで済むと――」
目の前まで来ていたシャルルは片手でマリオンの胸ぐらをつかみ持ち上げる。
そして、優しい目でステラを見ると言った。
「このおじさんたちに何かされたか?」
「んとね。 いっぱいおこられた。 あと、えとわーるのこととかきかれたの。 でもしゃるーとやくそくしたから、すてらだまってよーって。 でも……でも……ゆわないとしゃるーをだだじゃおかないぞってゆうから……。 だから――ぐすっ……すてらやくそく……まもれなかったの。 ごぇ……ごえんなさい……」
そこまで言うとステラはぽろぽろと涙を流して泣き出す。
「大丈夫。大丈夫だ」
そう言ってシャルルが優しくなでるとステラは軽く頷いた。
見たところステラに怪我らしきものは無い。
シャルルは片手で持ち上げているマリオンをちらりと見て思った。
何かあればただでは済まさないつもりだったが――
命拾いしたな。
シャルルはマリオンを投げ捨てるとステラを抱き上げる。
「さあ、帰るぞ」
「うん!」
ステラはぎゅっと、強くシャルルに抱きつく。
そして悠々と去ろうとするシャルルに、ルーカスに支えられながら立ち上がりマリオンは言った。
「き、貴様……。この私に……真王リベリアスの血を引くシーラン公子であるこの私に。こんな事をして……ただで済むとは思うなよ? 貴様は大国リベランドを敵に回したのだ。我がリベランドの法では真王の――」
言い終わる前にシャルルは一喝する。
「ほざくな! 法とはそれに従わせる力があって初めて効力を発揮するもの。いくら法を盾にしようと貴様如きに私をどうこうできはしない」
マリオンは視線で殺そうとするかの如くシャルルをにらむ。
だが、シャルルはそれに冷眼で持って返す。
そして今度こそこの場を去ろうとシャルルが足を踏み出したそのとき、部屋の外から声が聞こえてきた。
「確かに法はそれに従わせるだけの力が無ければ何の意味も無い。マリオン卿の力では君を法で縛るのは難しいだろう。だが――私はマギナベルクの領主であり、リベランドの大公爵。国と都市の法という秩序を守り、守らせなければならない義務がある」
そして一人の男が部屋に入ってくる。
それは中央広場に置かれた銅像と同じ、シャルルが見た事のある装備を纏ったラーサーだった。
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