公子の命令 その4
音のした方を見ていたステラたちのところに騎士風の男たちがやってくる。
「黒いワンピースの魔族の娘……こいつだな」
そう言うと、男の一人がステラの腕をつかんだ。
「来い!」
「やー!」
抵抗するステラを男が無理やりイスから下ろすと、ぬいぐるみが床に転がる。
「何をするんですか!?」
「やめてください」
パメラが抗議の声をあげ、ソフィはステラのもとに行くと抱きかかえるようにして庇う。
騎士風の男たちに続いてやってきたギルド職員の男が戸惑いながら言った。
「手荒な事はやめてください」
「な、何事ですか?」
パメラが職員の男に尋ねると、代わって騎士風の男が答えた。
「ハンターシャルルにはアーティファクト窃盗の嫌疑がかけられている。この娘はその関係者だ。重要参考人として連行する」
「やー!」
「待ってください。この子は何も……それにこんな小さい子を――」
ソフィの抗議を最後まで聞かず男は言う。
「我々はただ命令に従うのみ」
「それは誰の命令ですか?」
パメラが問うと、それに答えたのはいつの間にか来ていたギルドマスター、ブルーノだった。
「シーラン公子マリオン閣下だ。彼らは正式な命令書も持ってきている」
「なら、わかっているな?」
騎士風の男の言い草に苦々しいといった表情でブルーノは答える。
「我がハンターギルドは――捜査に協力する」
「そんな……」
パメラが抗議の視線をブルーノに向けるが、彼は無言で唇をかみ締めるのみ。
「なら、私もついていきます」
「連れて来いと言われているのはこの娘だけだ。邪魔立てするなら貴様も罪に問われるぞ」
ソフィの訴えにも聞く耳を持たず、男たちはソフィとステラを引き離す。
騒ぎを聞きつけた食堂スペースに居たハンターたちも、ギルドマスターが協力すると言った以上、遠巻きに見ている事しかできないでいた。
「疑惑が晴れれば開放されるはずだ……」
ブルーノはそう言ったが、そうはならない事をここに居る全員が知っている。
もちろんブルーノもだ。
相手はただの貴族ではない。
リベランド最高峰の権力である大公爵家の公子。
その命令は絶対で、いかに理不尽な主張でも平民が覆す事は不可能だろう。
「やー! しゃるー! しゃるー!」
騒ぐステラの胸倉をつかみ男は言った。
「静かにしろ。お前がおとなしくついてこなければ、ハンターシャルルはこの都市どころか国を敵に回す事になる。奴が所属するこのギルドもだ」
どこまで理解できたのかはわからないが、ステラは押し黙り静かに泣き続ける。
「ステラちゃん!」
「マスター!」
羽交い絞めにされたソフィは抵抗しようとするがそれはかなわず、パメラの抗議にもブルーノは目を背ける。
ステラは男に抱えられて連れ出され、続いて残った騎士風の男たちもギルドから出て行く。
そして最後に残っていたリーダーと思われる男は言った。
「ハンターシャルルはこちらから連絡があるまでここで待機させよ。良いな?」
「……わかりました」
ブルーノがそう答えると、その男は開け放たれていたドアを乱暴に閉めギルドをあとにした。
「マスター! このままで良いんですか!?」
パメラの抗議にブルーノは答える。
「ハンターギルドは都市の……国の許可を得て運営されている。上には逆らえん。詳細がわからない以上うかつには動けんのだ」
できる事は何も無い。
そんな無力感が漂う中、ソフィは拾ったぬいぐるみを見て涙を流した。
日が沈みかけ空が茜色に染まりつつある時刻。
試験を終えたシャルルたちは南門に到着し、門で入場審査を受けていた。
審査といっても都市の住人なら身分証をちょっと見せるだけ。
三人が特に問題もなく門を抜けると、ステラと共にギルドにいるはずのソフィが彼らのもとに駆け寄って来た。
ギルドにいろと言ったのに……待ちきれずに迎えに来たのか?
シャルルはそう思ったが、それにしては様子が変だ。
ステラの姿は見当たらず、目を赤くはらしたソフィは悲痛な面持ちでシャルルを見上げている。
「ステラちゃんが……ステラちゃんが……」
最後まで言い切れず、ソフィは涙声で何かを訴えた。
「何があったんだ!?」
ただならぬ様子にアルフレッドがソフィの両肩をつかむが、ただ泣くだけでソフィはうまく答えられない。
「アル!」
ローザがアルフレッドの肩をつかむとアルフレッドはソフィをつかんだ手を離す。
そしてシャルルはゆっくりとした口調でソフィに尋ねた。
「何があった?」