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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード3 それぞれの立場と譲れないもの
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公子の命令 その3

 深緑の毛で覆われたその大きな熊は、こちらに気づく事なくゆっくりと歩いている。


 シャルルはその気配にとっくに気づいていたが、アルフレッドたちも姿が見える少し前には気づいていたような動きをしていた。


 姿を見る前に気づけているのだから索敵は合格だろう。


 ワイルドベアーは強いが臆病でもある。


 下手な攻撃では逃げられる可能性もあるので初撃が肝心だ。


 二人は無言で頷き合うと挟み込むように回り込み、左右から時間差攻撃を仕掛けた。


 ローザが先に姿を見せ両手と剣にフォースを込める。


 それに気づいたワイルドベアーが彼女を警戒している隙に、アルフレッドは背後から大技を叩き込んだ。


「ハイパワースラッシュ」


 両手、両足、そして剣にフォースを込めるその技は、威力は高いが貯めに時間がかかり隙もできる。


 一撃で仕留められなかったため、反転したワイルドベアーの爪がアルフレッドに向うが――


「パワースラッシュ」


 すかさず背後からローザのスキルがワイルドベアーの振り上げた腕を深く切り裂いた。


 そして二人は動きながら的を絞らせず、交互に絶え間なく攻撃を加え続けワイルドベアーを圧倒する。


 もはや戦闘というよりリンチに近いだろう。


 気配を消しつつそれを見ていたシャルルは感心する。


 アナライズで見たところ、ワイルドベアーのレベルは25。


 それに対して二人のレベルは20そこそこで、一対一ならかなり厳しく二対一でも正面から戦ったらそれなりに厳しい戦いになったはず。


 ハンターは能力的に自分より強い害獣と戦う事も少なくない。


 だが、戦略と連携でそれを克服する。


 出会ったばかりの頃とは違い、今は二人もそれをマスターしているのだ。


 シャルルは思う。


 確かに自分は強いが、それはレベルと戦闘技術プレイヤースキルというこっちに持ち込んだものの恩恵によるごり押しに過ぎない。


 彼らのように同等又はそれ以上の敵と対峙したとき、自分にそれと戦えるだけの戦略が立てられるだろうか?


 まあ、いざとなれば奥の手が……そんな事を考えているうちに戦闘は終わった。


 アルフレッドが動かなくなったワイルドベアーの首にフォースを込めた剣を突き刺して絶命を確認し、その間ローザは周囲を警戒する。


 そして討伐の証拠となるワイルドベアーの右手を切り落とすと、すばやく布にくるみ鳥のところまで戻った。


「強くなったな」


 帰り支度をしている二人にシャルルがそう言うと、二人は照れくさそうに笑って言う。


「お前とパーティを組んだ三ヶ月と、良く付き合ってくれた稽古のおかげだよ」


「そうよね。シャルルに会ってから強くなったって実感あるもの」


「それは何よりだ」


「シャルルとこの森で出会ってからもう半年か……」


「あっという間だった気がするわね」


「そうだな」


 二人のつぶやきにシャルルは思う。


 友や家族と過ごす平穏な日々。


 それは異世界に来てまでするようなものでもないかもしれないが――


 悪くないな。





 昼食の時間もとうに過ぎ、人もまばらでゆっくりとした時間が過ぎる午後の食堂スペース。


 ぬいぐるみをひざに乗せたステラは、ソフィが扇状に持つ数枚のカードをじっと見つめていた。


 カードはスペード、ハート、ダイヤ、クラブの四種のマークと1~10の数字が書かれた札、そして3枚の絵札とジョーカーからなる普通のトランプ。


 大陸でも最も有名なカードゲームであるそれは、子供から大人まで楽しめる多種多様なゲームがあり、五英雄の一人、白銀の聖騎士こと聖王が大陸にもたらしたものだと言われている。


 今やっているのはババ抜きで、ソフィは明らかに妖しく一枚のカードを持ち上げていた。


 意を決してステラはその妖しいカードを引く。


 そして見事ジョーカーを引き当てると、頬を膨らませながらソフィと同じようにジョーカーを持ち上げパメラにカードを向けた。


「うーん……これかなぁ?」


 パメラがジョーカーをつかもうとするとステラの顔は緩み、隣のカードにしようとすると顔をしかめる。


 そんな様子にソフィとパメラは苦笑しつつ、パメラがわざとジョーカーらしきカードを引こうとしたそのとき、受付の方で大きな音がした。




 昼過ぎのハンターギルド。


 この時間帯は暇なので、いつもは二人いる受付嬢も今はルーシーしかいない。


 そのルーシーもカウンターに立ってはいるものの、受け付け業務ではなく簡単な事務作業をしていた。


 秋の陽気に思わず大きなあくびをしていたルーシーだったが、入り口の前に立つ人影を見つけそれをかみ殺す。


 直後、ギルドの扉が乱暴に開け放たれ騎士風の男たちが入ってきた。


「な、なんですか!?」


 驚いたルーシーの問いにリーダーらしき男が一枚の紙を広げて言う。


「このギルドに所属するハンターにアーティファクト窃盗疑惑がかかっている。我々はその調査と証拠確保のために来た。協力せよ」


 それを合図とばかりに男たちは食堂スペースに向い、リーダーらしき男は職員にギルドマスターの所在を聞くと、共に三階の執務室に向った。

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