公子の命令 その2
ギルドの前。
そこで待つシャルルたちのところにアルフレッドとローザが借りてきた華鳥を引いてきた。
シャルルは抱きかかえていたステラを下ろすとアルフレッドから手綱を受け取る。
下ろされたステラは左腕にぬいぐるみを抱え右手でシャルルのマントをつかむ。
そして泣きそうな――いや、既に泣きながらシャルルを見上げていた。
「しゃるー……」
「すぐ帰ってくるはずだから、ちょっとだけ私とお留守番しましょ」
ソフィはステラの両肩に手を置き言うがステラは首を振る。
「しゃるー……」
「ごめんな。なるべく早く帰ってくるから」
「ちょっとだけソフィやパメラと待っててね」
泣き止まそうとアルフレッドとローザも言葉をかけるが、ステラはいやいやをし、しゃくりあげ始めた。
シャルルはステラの目線までかがむと軽く頭をなでながら言う。
「昨日約束しただろ? 今日、ちょっとだけ我慢できたら今夜は一緒に寝て明日はみんなで遊びに行こう。だから良い子で待っていてくれ」
シャルルの言葉にステラは今夜の、そして明日の楽しい情景を思い浮かべると、そっとマントから手を離す。
「……うん」
「良い子だ」
そう言うと、シャルルはステラのパッツン前髪を少し上げおでこにキスをする。
そしてシャルルたちが出発すると、ステラはソフィと共にその姿が見えなくなってもしばらく手を振っていた。
門を出て街道を進みながらアルフレッドは言う。
「なるべく早く帰ってこような」
「そうね」
ローザもそう答えるが――
「今生の別れでもあるまい。余計な事を考えながらこなせるほど甘くはないぞ。気にせず試験に集中しろ」
シャルルの言葉に二人は顔を見合わせると、表情を引き締め頷いた。
試験のためワイルドベアー討伐に森に向かったシャルルたち。
それを見送ったソフィは、ステラを連れてギルドに戻ると食堂スペースに行く。
そしてもとの席にステラを座らせ自分は対面に座った。
ステラはまだ目が少し赤いが既に泣き止んでいる。
ソフィはそれを見て胸をなでおろすと、手を開き握っていた二枚の金貨を見た。
この金貨、一枚は子守のお駄賃として、もう一枚はみんなで何か食べるようにとシャルルから渡されたものだ。
彼女は一枚を財布にしまうともう一枚を見ながら言う。
「ステラちゃん、何か食べる?」
「もうおひる?」
ステラは首をかしげながら答える。
「違うけど……」
「おひるのまえにたべると、おひるたべられなくなっちゃうから、たべちゃだめなんだよ。ねー」
ステラは自慢げな表情で言うと、同意を求めるように隣の席に置いてあるぬいぐるみを見た。
「そっか。ステラちゃんは偉いね」
「えへへ」
そう言って笑うステラを見てソフィは思う。
でも、さっきクッキー食べてたじゃん。
しかし食べ物が駄目となると、何で時間を潰せば良いだろうか。
暇そうに足をぶらぶらさせ始めたステラを見てソフィは考える。
一応ゲームとか持ってきたけど、それは切り札に取っておきたいし……とりあえずネタが尽きるまではお話でもしよう。
そう思いステラに話しかけた。
「明日、遊びに行くって言ってたけど、どこ行くの?」
「ひろば!」
「広場って中央広場?」
「うんっ。ひろばでねー、ぼーるであそんだりー、おいかけっこしたりー、しゃぼんだましたりー、えっと、えっと、それからねー」
ステラは嬉しそうに体を左右に揺らしつつ言う。
「それって、シャルルさんとするの?」
「いつもはそーだけど、あしたはみんなとする!」
興奮気味にしゃべるステラを見つつソフィは思った。
へー、シャルルさんってステラちゃんといつもそういう事してるんだ。
なんか想像つかないけど……見てみたいなぁ。
「明日って私も行って良いのかな?」
「うんっ。みんなであそぶの!」
「楽しみだね」
「うんっ!」
そう言うとステラは満面の笑顔を見せた。
南門を出て鳥で街道を進む事1時間と少し。街道から少し外れた草原と森の境目といった地点がワイルドベアーの目撃が多い場所。
目的の場所に到着した三人はとりあえず鳥を適当な木に結ぶ。
そして積んできたバケツにシャルルが魔術で水を出し鳥たちに飲ませていると、辺りを見回していたアルフレッドは言った。
「どうやら今日は森の中っぽいな」
「じゃあ、探しましょ」
ローザを先頭にアルフレッド、シャルルが続く。
そして三人は鳥を結んだ木を中心に扇形に範囲を広げながら捜索し、見つからなければ鳥と共に移動して再び捜索という事を繰り返す。
そうやってワイルドベアーの縄張りだと思われる場所を捜索した。
「三人でこういうのって、なんか久しぶりだよな」
「そうね。シャルルがパーティを抜けた日以来かしら?」
「そうだな」
そんな会話をしつつ捜索は続く。
そして捜索開始から3時間ちょっと。ついにワイルドベアーを発見した。