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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード3 それぞれの立場と譲れないもの
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公子の命令 その1

 朝の大通り。


 まだ店はほとんど閉まっているが、そそくさと職場に向う人が行き交い朝の賑わいを見せている。


 そんな通りをアルフレッドたちと共にシャルルはギルドに向って歩いていた。


 ステラは元々歩くのが遅いが、人が多いからなのか今日は特に遅い。


 試験のために宿を早く出たというのに意味がなくなってしまうな……そう思ったシャルルはステラに言った。


「抱っこしてやろうか?」


 シャルルが抱きかかえて歩けば早く行く事ができる。


 普段は歩かせた方が健康に良いとか、甘やかしすぎるのは良くないと考えあまりしないが、今日くらいは良いだろう。


 だが、いつもなら喜んで抱きついてくるはずのステラはシャルルを見上げると言った。


「いー。すてらじぶんであるく」


 それを聞いてシャルルは理解する。


 いつもより遅いのは人が多いからではなく、わざとそうしているのだと。


 ギルドに到着すると置いていかれるのでその時間を遅らせようとしているのだ。


 それを察してか、アルフレッドはシャルルの肩を軽く叩くと言った。


「俺たちは先に行って準備しとくから、二人はゆっくり来いよ」


「またあとでね」


「わかった」


「またねー」


 そしてアルフレッドたちは人混みの中に消えて行く。


 ステラは歩みを止めそれを見送っていたが、シャルルに手を引かれしぶしぶ歩き始めた。


「ギルドに着いたらジュースだけじゃなく、今日は少しならお菓子を食べても良いぞ」


 少しでもギルドに行きたいと思わせようとシャルルは言うが、それでもステラの歩みは変わらない。


 そして二人はアルフレッドたちよりかなり遅れてギルドに到着した。




 まだ早い時間のギルドには結構な人がいて、食堂スペースは打ち合わせやら朝食やらで賑わっている。


 受付カウンターも混雑し、とても挨拶などできる状況ではない。


 そんな様子にシャルルは、ここを歩かせるのはちょっと危ないな……と思いステラを抱き上げる。


 そして挨拶を交わすのは無理そうな受付のパメラたちに軽く手を振ると、食堂スペースに移動してソフィが確保している席に向かった。


「おはよう。ソフィ」


「おはようございます。シャルルさん、ステラちゃん」


「おはよ……」


 挨拶が終わるとソフィが置いておいてくれたのであろうステラ用の台がついたイスにステラを座らせシャルルも隣に座る。


 そしてすぐに「何か飲み物でも買って来よう」と言って立ち上がるが――ステラの右手がぎゅっとシャルルのマントをつかんでいた。


 それを見てソフィが言う。


「あ、私が買ってきます」


「悪いな。じゃあ、これで」


 シャルルは巾着から銀貨を数枚出すとソフィに渡す。


「えっと、何が良いですか?」


「私はコーヒー、ステラにはジュース。ソフィもそれで何か買ってくれ。それと適当な菓子を少し……で良いよな?」


 シャルルがステラを見るとステラは無言で頷く。


 そしてソフィが買ってきたコーヒー、ジュース、クッキーなどがテーブルに並べられた。


 クッキーはステラから見て右斜め前に置かれたが、右手でシャルルのマントをつかみ続けているためそれに手を出す事ができない。


 なんとか取ろうとシャルルにもたれかかりながら危なっかしく左手を伸ばすが、やはりその手は届かなかった。


 その様子を見てソフィははらはらしていたが、シャルルはフッと優しく笑うとクッキーを手に取りステラの口元に運ぶ。


 そして、それを口にしたステラは表情を少し緩ませると再び口を開け、えさをもらうひな鳥の如くクッキーをせがんだ。


 シャルルがクッキーを放り込むとステラはそしゃくしてからジュースで流し込む。


 しばらくそんな動作を繰り返しているとアルフレッドたちがやって来た。


 ソフィと軽く挨拶を交わしたあと、アルフレッドがシャルルに言う。


「マスターが試験の帯同について説明があるから来てくれってさ」


「わかった」


 席を立つとマントを握ったままのステラがバランスを崩す。


 それを受け止めつつ置いて行くとまた面倒な事になりそうだな……と思ったシャルルはステラを抱き上げ連れて行く事にした。




 ギルドマスターの執務室。挨拶もそこそこに、そこでシャルルたちは職員のハリソンから帯同に関する注意事項を聞く。


 ハリソンの話を要約すると――


 帯同者は依頼に関して一切の手出しをしてはならない。


 助言も極力控える必要があり、帯同者が手を出さなければならない状況になった場合は不合格となる――との事だった。


 とはいえ職員が帯同するわけではないので、帯同者か受験者の申告になるのだが。


 説明が終わるとブルーノが口を開く。


「ばれなければ良いという考えは捨ててくれ。試験の合格は自己責任の範囲を広げるという事。つまり余裕を持ってこなせるようでなければ、いずれ大きな危険に遭遇する可能性があるという事だ」


「なるほど」


 シャルルは軽く頷きながら思う。


 確かに実力が無いのに自己責任の範囲を広げれば危険は増す。


 手伝って嘘の申告をすれば一時的には感謝されるかもしれないが、それは結局二人を危険にさらす事になるだろう。


 シャルルが納得したと感じたブルーノはハリソンを見て軽く頷き、ハリソンも軽く頷くと言った。


「では、試験を開始してください」

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