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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード3 それぞれの立場と譲れないもの
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依頼制限の緩和試験 その4

 同日、夜のハンターギルド。


 カウンターの後ろにある席で書類の整理をしていた茶髪の中年男性職員が立ち上がり言った。


「ルーシーちゃん。僕はそろそろ帰るからあとはよろしく」


「あ、はい、お疲れ様です。でも珍しいですね。いつも遅くまでいるハリソンさんがもう帰るなんて」


「今日はちょっと用事があってね」


 ルーシーはニヤリとしながら言う。


「もしかしてデートですか?」


「ははは。だと良かったんだけどね。それじゃお先」


 苦笑いしながらハリソンはそそくさとギルドを出ると、商業地区を抜け中央広場の先にある貴族居住区に向った。


 貴族居住区の門に到着し、ハリソンは懐からハンターギルドの身分証と一枚の手紙を開いて門番に見せる。


「ハンターギルドのハリソンさんですか。通行許可は――はい確認できました。どうぞお通りください」


「ご苦労様です」


 互いに会釈をするとハリソンは門を通りマリオン邸に向う。


 そして邸宅の門番に手紙を見せ、門番が連れてきたメイドの案内で屋敷内の一室に通された。


 なんだか態度が悪いメイドだな……そんな事を思いつつ部屋を照らす魔法灯(光りを発する魔法道具)の光を眺めながら待つ事数十分、ノックのあと扉が開き一人の男が入ってくる。


 それを見て、ソファーに座っていたハリソンはすぐさま立ち上がり頭を下げた。


「お時間をいただき申し訳ございません。レイウッド卿」


「確か、ハンターギルドの――」


 そこまで言うと名前が出てこないのか、ルーカスは右手をあごにつけて少し考える仕草をする。


「ハリソンです。またお会いできて光栄です」


「そうだった。会うのは二度目かな?」


「はい。捜査への協力をご要請いただいて以来となります」


「そうか。まあ、かけたまえ」


 促されハリソンが再びソファーに腰掛けると、向かいのソファーにルーカスが座り言った。


「世間話をしにきたわけではあるまい? 早速、情報を聞かせてもらおう」


「はい。例の件ですが――」


 促されハリソンはルーカスに語る。


 シャルルと交流のある低レベルハンターに試験の話をした事。


 それにシャルルを帯同できるようギルドマスターの許可を取った事。


 それが明日実施され、シャルルは明日ギルドに例の娘を置いてそれに出かけ、少なくとも夕刻までは戻らないという事を。


「なるほど。つまり明日の日中なら、奴に邪魔されず例の娘を確保できるという事か」


「そういう事になります」


 情報を提供する程度の事しかできそうもないと思っていたが――


 自ら積極的に動き、こちらの欲する状況を作り出すまでするとは……思っていたよりは使える奴のようだな。


 そう思ったルーカスはハリソンの評価を上げる。


「ふむ、良くやった。成功の暁には約束通り、有用な人材としてシーランのハンターギルドに栄転できるよう取り計らおう」


「ありがとうございます」


 そう言うとハリソンは深々と頭を下げた。




 そして帰り道。


 ライトの魔法が付与された街灯を見上げつつ貴族居住区の門に向いながらハリソンは思う。


 これでよかったのかなぁ……。


 ハリソンはルーカスにこう言われていた。



 詳しくは話せないがシャルルは犯罪を犯している可能性がある。


 だが、状況証拠はそろっているものの物証が無く、問いただせば逃走や証拠隠滅の可能性があるため表立っては動けない。


 捜査の結果シャルルの連れている娘が物証のありかを知っている可能性が高い事がわかったが、四六時中一緒に居るのでそこから情報を得る事は困難だ。


 そこで娘とシャルルが離れる機会があったら知らせて欲しい。


 もし君が今回の件で有用な情報をもたらし事件解決に貢献したら、シーランのギルドに良い条件で移籍できるよう取り計らおう、と。



 マギナベルクのような新興都市ではなく、正真正銘の大都市のハンターギルドへの移籍。


 それは小都市のハンターギルドに長年勤めていたハリソンにとって憧れだった。


 特に平職員で安月給のハリソンにとって、これは又と無いチャンス。逃す手はないだろう。


 だが――


 なんとなく後ろめたさを感じるハリソンは、首を振ってそれを振り払おうとする。


 犯罪捜査の協力だ。何も悪い事をしているわけじゃない。


 そう自分に言い聞かせて。




 その頃ルーカスは、マリオンの執務室で準備が整った事を報告していた。


「――というわけでして、手はず通り進めば明日、エトワールと思われる娘をここに連れてくる事ができるでしょう」


「ふむ。やっとか。で、その娘は本当にエトワールなんだろうな?」


 ルーカスはその問いに淡々と答える。


「ほぼ間違いないと思われますが、以前ご報告致しました通り確定はしておりません。その確認を含めて娘を連れてくる必要があるのです」


「ふむ、そうであったな」


 マリオンはその体を座っていたイスの背もたれに預けると、赤ワインの入ったグラスを軽く回しながら言う。


「その件についてはすべて任せる。下がって良いぞ」


「仰せのままに」


 ルーカスはその場で礼をすると、扉の前でもう一度礼をして退室する。


 それを見届けたアト、マリオンはグラスに入ったワインを一気に飲み干すとつぶやいた。


「なんにせよ、明日……か」

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