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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード3 それぞれの立場と譲れないもの
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依頼制限の緩和試験 その2

 残暑もとうに過ぎ去り秋も深まったある日。


 ソフィの授業も終わりギルドの食堂で昼食を取っていたシャルルたちの席に、食事の載った盆を持ってアルフレッドとローザがやってきた。


「よう」


「よー!」


 アルフレッドが軽く片手を挙げて挨拶をすると、シャルルの隣で台で高さを調節したイスに座っていたステラも元気良く手を挙げまねをする。


「ここ、いいか?」


 アルフレッドがそう言うと、シャルルは一瞬ソフィを見て彼女が頷いたのを確認してから言う。


「ああ、かまわんぞ」


「いいよー」


「どうぞ」


 中央に座っていたソフィは軽く会釈をして席を一つずらす。


「ごめんね」


「わるいな」


「いえ」


 軽く頭を下げ空いた中央にローザ、そしてシャルルの対面にアルフレッドが座る。


 そして二人は食事を始め、しばらくするとアルフレッドは言った。


「実はシャルルに頼みがあるんだが……」


「とりあえず聞こう」


 シャルルが促すとアルフレッドは語り始める。



 ハンターギルドに来る依頼は依頼主からの指定が無い限り、レベル3以上のプロハンター(個人又は含むパーティ)には受けられる依頼の制限が無い。


 これはプロハンターなら達成可能な依頼かどうかを自分で判断できると考えられているからだ。


 だが、経験の浅いレベル2以下のハンターにその判断は難しいであろうと考えられているため、受けられるのは依頼書に『レベル2以上』とか『レベル1以上』と記載されているものに制限されている。


 しかしハンターレベルで一律に制限されているため、人によっては余裕で達成可能な依頼なのに受けられないという事態も発生してしまう。


 これはハンターとギルド、双方にとって大きな損失だ。


 そこでハンターの経験よりも戦闘能力が重視される討伐依頼に限り、ある程度の実績があるハンターなら個別に制限を緩和して受けられる依頼を増やす試験がある。


 試験の存在をギルド職員に聞いたアルフレッドは早速受験を申請したのだが――受験するには試験に帯同するプロハンターを受験者が用意する必要がある事がわかった。


 試験は実際の依頼をやってその成否を見るため、失敗防止及び受験者の安全確保を兼ねてプロハンターが帯同する事になっている。


 だが、アルフレッドたちには帯同してくれるプロハンターのあてが無い。


 無いものは仕方ないと諦めかけていたところ、試験の事を教えてくれた職員の口添えにより、プロハンターではないがシャルルの帯同でも試験を受けられるという事になった。



 アルフレッドの説明を聞いたシャルルは、デザートのゼリーをグーで持ったスプーンで不器用に食べているステラを見ながら言う。


「つまり、私にその試験への帯同を頼みたいと」


「まあ、そういう事だ」


「ところでその試験って私も受けられるのか?」


「受ける必要あるの? ドラゴン倒せるんだし――とっくに制限なんかないんじゃない?」


 ローザの発言に、皆『そうだね』といった感じの事を言いながら頷く。


 確かに制限の趣旨を考えるとシャルルを試験する意味はない。


 彼はドラゴンを単騎で倒し、ゴールドハンターを含むパーティですら失敗した討伐依頼を単独で成功させている。


 それに試験の帯同を許可しているのだから、やはり制限などないのだろう。


 それについては今度職員に聞いてみるか……などと思いつつシャルルは考える。


 協力してやりたいところだが、その間ステラはどうしよう? 帯同とはいえ討伐依頼。さすがに連れては行けない。


 となると誰かに預けるしかないのだが――


 ステラを見ると、あとひと口になってしまったゼリーを眺めながら、口元に持って行っては食べずに離してまた眺めるという謎の行動をしていた。


 食べたいけど食べるとなくなる。なくなるのは嫌だけど食べたい。といった感じなのだろうか?


 まどろっこしいなぁと思ったシャルルはとっとと食べさせようとちょっとしたいたずらをする。


「食べないなら私が食べてしまうぞ?」


 そう言ってシャルルがスプーンに顔を近づけると――


「だめー!」


 あろう事かステラはスプーンを持った手でシャルルを追い払おうとした。


 勢い良く振られたスプーンの上からは、当然ゼリーがこぼれ床に落ちる。


「あ……」


 そして床に落ちたゼリーを悲しそうに見つめるステラの目にどんどん涙がたまり――


「うぁーん! しゃるーがー! すてらのぜりー! すてらのなのにー!」


 声を上げて泣き出すステラの頭をなでつつシャルルは言う。


「すまん、すまん。また買ってやるから」


 だが聞こえていないのか泣き止む気配はない。


 うーむ面倒な事になったな……などとシャルルが思っていると、ステラの隣のイスに置いてあったぬいぐるみが宙に浮き、その手でステラの頬をつついて甲高い声で言った。


「泣かないで。ステラちゃんが泣くとボク、悲しいよ」


 当然だがぬいぐるみが自然に宙に浮いたり甲高い声でしゃべったりはしない。


 それを動かしているのはいつの間にかそこにいたパメラだ。


 ステラは泣くのをやめ、頬を膨らませてパメラに言う。


「しるふぃはおんなのこなの! ぼくとかゆわないの!」


「あら、そうなの? じゃあ、もっとシルフィの事教えてくれる?」


 するとステラは嬉しそうに語りだす。


「えっとね、えっとねー。しるふぃはねー」


「うんうん」


 そしてステラは自分が作ったシルフィの設定を一生懸命、意味不明な言葉を交えつつパメラに語る。


 もう完全にゼリーの事は忘れてしまったようだ。


 それを横目にシャルルはアルフレッドに聞いた。


「で、試験の内容とかかる時間は?」

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『小さな村の勇者(完結済)』

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