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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード2 希望の星(エトワール)は遺跡に眠る
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薬草採取の依頼 その3

 ソフィは荷車の端においてあった木箱(一辺が50cmくらいの立方体)を持ってくる。


「たいしたものじゃないんですけど……」


 そう言って箱を開けると、中にはふたのついたバスケットと水筒、それとコップが三つ入っていた。


 箱の内側には金属が張ってあり、中からは冷気が漂っている。


「冷蔵用の魔法道具……保冷具ってやつか?」


「はい。暑いから食べ物が傷まないようにってお姉ちゃんが」


「良いお姉さんだな」


「はいっ」


 シャルルの言葉にソフィは嬉しそうに答えた。


「はやくっ、はやくっ」


 ステラにせかされソフィがバスケットを開けると、色とりどりのサンドウィッチが現れる。


「わあー!」


 それを見てステラは嬉しそうにサンドウィッチに手を伸ばそうとするが、シャルルはそれを制して言った。


「ご飯の前は?」


 ステラはちょっと首をかしげてから言う。


「いただきます?」


「あ、はい。どう――」


 ソフィがどうぞと言いかけるが、それにかぶせてシャルルは再び言った。


「その前に?」


 再び首をかしげたステラは腕を組み考えたあと、両手を上げて嬉しそうに言う。


「てをあらう!」


「そうだ!」


 シャルルはステラの頭をなでると荷車から下ろし、彼女の目の前に魔術で水を出す。


 見えない蛇口から出るように水が流れ出て、ステラは両手を開いたままなんとも不器用に手を洗い、続いてシャルル、そして促されソフィも手を洗った。


 再び仕切りなおしてバスケットを囲み、シャルルとステラはソフィに向って声を合わせて言う。


『いただきます』


「はい。どうぞ」


 にこやかにソフィがバスケットを差し出すと、ステラは早速サンドウィッチに手を伸ばした。


「すてらはこのあかいの!」


「じゃあ、私はこのハムサンドを……」


 ステラは次々と甘いジャムが塗られているサンドウィッチに手を伸ばし、シャルルは具の挟まったものに手を伸ばす。


「いっぱいあるから急がなくても大丈夫だよ」


 ステラはソフィの言葉に頷きつつも、片手で食べつつもう片方の手で次のサンドウィッチをつかんでいた。


 そんな様子を見ながらソフィは思う。


 ちゃんと一緒にお弁当食べられて良かった……。


 ソフィは今日、午前中に出発するつもりでお弁当を用意していた。


 しかし細かく予定を立てていなかったので、シャルルに「魔術の授業の後で午後から」と言われて窮地に陥ってしまう。


 もちろん授業のあとにギルドの食堂で食事を取らず、馬車で移動中に食べるという手もある。


 だが、この流れだと言い出せず、結局お弁当は持って帰る羽目になりそうだとソフィは思った。


 お姉ちゃんが保冷具まで用意してくれたのに……。


 持ち帰りだけは絶対に避けたかったソフィはステラがお出かけにそわそわして集中できなさそうな事や、午後は暑くなる事などを理由に午前中に出発する事を提案。


 そしてシャルルの賛同を得る事に成功し現在に至る。


「そふぃのおべんとおいしい」


「そう? ありがと」


「本当にうまい。ソフィは料理が上手だな」


「そ、そうですか?」


 照れ笑いしながらソフィは再び思う。


 本当に、一緒にお弁当食べられて良かった……と。


 そしてほとんど食べ終わり、残るサンドウィッチはステラの手にある一つのみとなる。彼女はそれをじっと見つめながら言った。


「たべたい……でもおなかいっぱい……」


 水筒のお茶を飲みながらシャルルは言う。


「もう諦めてよこせ。片付かないだろ」


「だってー、あまくておいしーんだもん」


 ステラは小さい子なので量はあまり食べられない。


 だが、これが食べられない理由はそれではなく、ジャムのついた甘いサンドウィッチばかり食べていたせいで体が受け付けないのだ。


「ほらマギナベルクに戻ったらシャルルさんがパフェご馳走してくれるんだから、それ食べちゃったら食べられなくなるんじゃない?」


 ソフィの言葉にステラは胸をはって堂々と答えた。


「それはへーき」


「なんで?」


 ステラは嬉しそうに笑って言う。


「だって、みんなゆってたもん。あまいものはべつばらだから、おなかいっぱいでもだいじょーぶって」


 それを聞いてソフィとシャルルは顔を見合わせて同じ事を思った。


 今食べてるそれも甘い物だよ。



 その後ステラは一口だけサンドウィッチを食べるもそれ以上は食べられず、残りはシャルルが食べてしまう。


「すてらのさんどいっちー」と不満を漏らすも満腹のせいか程なくして寝てしまい、帰りはソフィの隣ではなく荷車でシャルルに寄りかかりながら眠っていた。



 帰り道、ソフィは何気なくシャルルに言う。


「なんだか……ピクニックみたいで楽しかったですね」


 だが、反応が無い。


 あれ? 私なんか変な事言っちゃった? とソフィがあせっていると、静かな声でシャルルは言った。


「私も楽しかった。たぶんこの子も……」


「またやりたいですね。こういう依頼」


「そうだな」


 シャルルは眠るステラの頭をなでながら思う。


 害獣狩りや野獣の討伐も嫌いじゃないが――こういうのも悪くないなと。

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