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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード2 希望の星(エトワール)は遺跡に眠る
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薬草採取の依頼 その2

 シャルルは背負っていた盾こそ外してはいるものの、マントの上にカゴを背負い鎧姿のままで薬草採取をしている。


 そんな彼を見て、やりづらくないのかなぁ……などとソフィが思っていると、ステラがソフィの手を引っ張りつつ言った。


「すてらはどれをとればいーの?」


「えっとね……」


 ステラに説明しても間違った草を持ってくる可能性が高く、それをあとでカゴから取り除くのは面倒だ。


 なので何もしないでいて欲しいのが本音だが、それだとじっとしていないであちこち動き回ってしまう可能性が高い。


 となると――


「ステラちゃんにはきれいなお花を摘んで欲しいな。で、必要なお花か調べるから、摘んだお花は私に見せてね」


「わかったー」


 これなら花を見せるためにソフィから離れないだろうし、間違った草をカゴに入れられる事も無いだろう。


 我ながら名案だと思いソフィは満足げに頷く。


 そして1時間ほど――


 ようやく薬草でいっぱいになったカゴを持ってシャルルが荷車に戻ると、既にカゴ二つ分の採取が終わっていたソフィはステラと一緒にステラが摘んだ花で花冠を作っていた。


「さすがにこの手の作業では勝てないな」


「村にいた頃良くやらされてましたから」


「すてらたちのかちー」


「だね」


 ステラは嬉しそうにソフィに笑いかけ、ソフィもステラに笑顔を返す。


 ステラはひたすら関係のない花を摘んでいただけなので何の役にも立ってない。


 とはいえ彼女の場合、邪魔にならなかっただけでもかなりの貢献とも言える。


 シャルルが荷車にかごを置くと、ステラは花冠を掲げて言う。


「しゃるーにあげる」


 精一杯背伸びするステラだが、当然立っているシャルルの頭に載せる事はできない。


 シャルルは黙って兜を取ると片ひざを突いて頭を下げ、ステラはシャルルの頭に花冠を載せた。


「ありがとう」


「えへへ」


 シャルルが優しくステラの麦藁帽子に触れるとステラは嬉しそうに笑う。


 なんだか戴冠式の絵画を見ているみたい……そんな事を思いつつソフィはステラに聞く。


「いつも優しいシャルルさんへのお礼?」


「えー、しゃるーはやさしくないよ。いじわるだもん」


「えっ? そうなの?」


 口を尖らすステラを見て、ソフィはシャルルを見る。


 すると彼は覚えが無いといった感じで首をかしげていた。


 そこでソフィは理由を聞いてみる事にする。


「シャルルさんはどんなところが意地悪なの?」


「えっとね、えっとね。にんじんたべないと、でざーとなしにするってゆーし、すてらはまいにちがいーのに、ときどきしかいっしょにねてくれないの」


「くっ、ぷっ……そう……なんだ」


 それを聞いてシャルルは苦笑いし、ソフィは思わず噴出しながら思った。


 や、優しすぎる……。


 そして少し落ち着いてからソフィは再びステラに聞く。


「じゃあ、シャルルさんの事嫌いなの?」


 するとステラは大きく首を振ってからシャルルに抱きついて言った。


「しゃるーすきー。だいすきー」


「どうしてそんなに好きなの?」


 ソフィが何気なくそう聞くと――


「えっとねー。しゃるーはねー。ひとりぼっちになったすてらにかぞくになろうって――」


「ステラ!」


 シャルルが厳しい口調でステラを呼ぶと、ステラはあわてて両手で口をふさぐ。


「えっ? それってどういう――」


 ソフィが聞きかけるとさえぎるようにシャルルは言った。


「ソフィはハンターの不文律って知ってるか?」


「えっと、ハンターの過去を詮索してはいけないっていうのですよね?」


 シャルルは軽く頷くと言う。


「それは正確にはハンターに対する不文律だな。ハンターの不文律は、ハンターは他人の過去を詮索してはいけないというのが正しい」


「あ……すみません……」


 シャルルの声は決して責めている感じではないが、ソフィが口をつぐんだステラに質問してしまったのはその不文律に反する行為。


 シャルルはそれを指摘しているのだとソフィは気づく。


「しゃるー……」


 麦藁帽子で顔を半分隠し、しょんぼりして泣きそうなステラの頭をシャルルは優しくなでながら言う。


「別に怒っているわけじゃない。ただ、ハンターの不文律は相手を思ってだけじゃなく、たぶんハンター自身が余計な事を知る事によってトラブルに巻き込まれるのを防ごうという意味合いがあるんだと思う。それを理解してくれればこれ以上私から言う事は無い」


「はい……」


 それは暗にステラには大きな秘密があると言っているようにも聞こえるが、仮にそうだとしてもこれ以上聞くなという事でもある。


 さっきまで和やかで楽しい雰囲気だったのに……なんか変な事聞いて失敗しちゃったなぁ。


 ソフィはそう思い、なんとも居心地が悪い沈黙が続いた。


 だが、この重い空気を簡単に破壊する音が鳴り響く。


 ぐぅ――


 おなかの音?


 ソフィが音の鳴った方を見るとステラがおなかを押さえながら言う。


「しゃるー、おなかすいた」


「そういえば昼食の事を忘れてたな……」


 そもそも薬草採取はさほど時間はかからないと聞いていたので、シャルルは魔術の基礎授業をやったあと、午後から行くつもりだった。


 だが、お出かけという事でステラがそわそわしていて集中できなさそうな事や、午後からだと暑くなるから午前中に行った方が良いと言うソフィの提案を受け、授業はやらずに出発している。


 そんな経緯もあって昼食の事はすっかり忘れていたのだ。


 荷車においてあった道具袋から懐中時計を取り出し確認してみると、現在の時刻はもうすぐ午後1時半といったところ。


 いつもなら昼食を既に済ませている時間だ。


「しゃるー、ごはんはー?」


 道具袋をいじりだしたシャルルを見て、何か食べ物が出てくると思ったステラは不満そうな顔でシャルルを見る。


「んー、マギナベルクに戻るまでは我慢だな。非常食の干し肉ならあるけど食べるか?」


「えー……たべるけど……それだけー?」


 口を尖らせ明らかに不満顔のステラ。シャルルとしてもなんとかしてやりたいところだが、無いものはどうしようもない。


 とりあえず干し肉を出すか……と道具袋をまさぐっているとソフィが言った。


「あ、あのっ。お弁当! 私お弁当作ってきました!」

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