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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード2 希望の星(エトワール)は遺跡に眠る
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薬草採取の依頼 その1

 マギナベルクの商業地区に店舗を構える薬屋、風水堂かざみどう。この店は商業ギルドの直営で、店長夫婦は家から通っている。


 だが、店員であるエリスは妹のソフィと共に店舗二階の部屋を借りて住み込みで働いていた。


 薬師でもあるエリスは今日も在庫を補充すべく調合室で調合し、材料の在庫を確認する。


 そして調合室を出るとカウンターに立っているやや小太りの男性に言った。


「店長! ちょっとこれ高すぎません!?」


 手に持っているのは注文書。問屋で扱いのある薬の材料と単価が書かれているものだ。


 店長と呼ばれた男性はエリスの指す項目を見て頷く。


「ああ、水月草みづきそうか」


「こんなのその辺の池にいっぱい生えてるじゃないですか!」



 水月草。止瀉薬(下痢止め)の原料になる植物で、夏場に池や川など水源のそばに群生する草。三日月のように見える花が咲く。



「それがねぇ……」


 薬の調合に使う水は清潔である事が求められる。そのため基本的に魔法で出した水を使う。


 なのでエリスたちが来るまでは、調合に使う水は魔法道具を使って出していた。


 だが、今はソフィがいるので生活用水も含めすべて彼女が魔術で出した水を使っている。


 そういう理由もありエリスはここで働くようになってから、水を汲みに行った事が無い。


 そのせいで知らなかったのだが――店長いわく、都市内の池などに生える草は水源管理の一環として定期的に刈られてしまうため、まともに育ったものを採取するのは無理との事。


「じゃあ、都市の外に取りに行けば良いじゃないですか」


「そりゃエリスちゃんの住んでた村とかなら近くに池とかあったかもしれないけど、この辺だと街道から結構離れないと無いから危なくて一般人には無理だよ」


 一般人には――それを聞いてエリスは思い出す。


 ソフィが今度機会があったらシャルルさんと薬草採取の依頼でも一緒に受けようって事になったと言っていた事を。


「じゃあ、ハンターに依頼を出しましょうよ」


「あのねぇ……」


 店長は言う。


 薬草採取はある程度の知識が必要な割には報酬が安すぎて受けてくれるハンターは滅多にいない。


 だから、それなりの価値がある薬草を、いつでも良いから何かのついでにとって来て欲しい。という感じで依頼を出すのが一般的。


 したがって水月草のように単価が安くその辺に生えている薬草を大量に採取してきて欲しいなんて依頼は、受けるハンターがまずいないので出しても無駄だと。


「大丈夫。『あて』はありますから」


「それってソフィちゃんかい? 確かにあの子なら薬草の知識もあるけど一人じゃ危ないし、一緒に行ってくれるハンターなんて……」


 心配そうに言う店長にエリスは笑顔で言う。


「大丈夫。『あて』にはそれも含まれてますから」





 真夏の太陽が照りつける良く晴れた日。シャルルたちはソフィと共に薬草採取のため都市外に出て南にある池を目指していた。


 南門から真っ直ぐ続く旧街道。草原に侵食されつつも一応の道としての機能を残すそこをゆっくりと馬車が進む。


「う~ま~がひ~くひ~く……うまのばしゃ~。おひさま~にこにこ……んー……そらのしたはしるよ~」


 御者を務めるソフィの隣に座ったステラは、ぬいぐるみを抱きしめつつ楽しそうに謎の歌を歌っている。


 ちょくちょく引っかかるのと語彙の乏しさから、即興で考えた歌なんだろうなぁとソフィは思う。


「あ、この辺ですよね。シャルルさんがドラゴンと戦ったのって」


「そうだったか?」


 荷台に座っていたシャルルはそのままの姿勢で頭だけ動かして周りを見る。


 しかし当時は生えていなかったそこそこ背の高い草に隠れているのかそれらしき跡は見当たらない。


 だが遥か後方に見える南門の位置を考えるとそうなのかもしれないなとシャルルは思う。


「そうですよ」


 ソフィがそう言うとステラは体を反らして荷台に顔を向け、上下さかさまになったシャルルを見ながら言った。


「しゃるーはどらごんやっつけたの?」


「ん? ああ。マギナベルクに向って来てたからな」


「おおー! じゃあ、すてらもやっつける! そうすればみんなしあわせになるでしょ?」


 体の反りを戻しつつ、ずれた麦藁帽子をかぶりなおしたステラはそう言って嬉しそうに笑う。


 みんなを幸せにするためにドラゴンを倒す……か。純粋な子だなぁ。


 そんな事を思いつつソフィはステラに微笑みかける。


 だが、そんな純粋なステラの気持ちをシャルルは特に気遣いも無く否定した。


「駄目だ。私がやるからお前はやらんでよろしい」


 もうちょっと言い方が……とも思うが、よその家の教育方針に口を出すのは良くない。そう思いソフィは言葉を飲み込む。


「えー、すてらもしゃるーといっしょがいー」


 不満そうに返事をするステラ。だが――


「マギナベルクに帰ったらアイス買ってやるから我慢しろ」


「んー、じゃあがまんする」


「あははは」


 二人のやり取りにソフィは思わず声を出して笑う。


 ソフィは思った。


 みんなを幸せにしたいって気持ちはもちろん嘘じゃないんだろうけど、シャルルさんと一緒が良いって思いの方が強くてそれ以上にアイスの方が強い。


 そんな自分の気持ちに正直なこの子は私が思った以上に純粋なんだろうな。


 シャルルもフッと笑うが、ステラは二人がなぜ笑ったのかわからないらしく不思議そうに首をかしげていた。




 都市の近くにある池や川などの水源は災害などの緊急時に使用できるようあらかじめ調査されており、その所在はある程度一般にも知られている。


 シャルルたちの目指す池もその一つで、かつては都市外まで広がっていた農業地帯で使っていた水源の一つだ。


 だが農業地帯があったのはラーサーがドラゴンを倒すよりもずっと前の事。


 そのため一切の管理がされておらず、池があるという事がわかっているだけで安全かどうかは不明だ。


 とはいえ草原にあるため見通しが良く、森の中のそれよりは比較的安全な場所と言えなくもない。


 現地に到着するとソフィは荷車を外した馬を木陰に結ぶ。


 そしてシャルルに背負いカゴと草刈り鎌を渡すと言った。


「黄色い三日月みたいな花がついている草だけを刈ってカゴに入れてください」


「これで良いのか?」


 シャルルは近くに生えていた草を一つ刈るとソフィに見せる。


「はい。花が咲いていないのだと見分けがつきづらいと思うので、花が咲いているのだけでお願いします」


 辺りを見ると池に近いほど多く、池から離れるほど少なく見える。


 見た感じ脅威となるような獣はいそうもなく気配も感じないので、ここは比較的安全な場所であろう。


 だが池の中には何がいるかわからないし、そういう場所では自分は大丈夫でも他人を助けるのは難しい状況も考えられる。そう考えシャルルは言った。


「私は池の近くで刈るから、ソフィはステラとこの辺で刈ってくれ」


「あ、はい。わかりました」


 水辺は危ないからステラをそこから遠ざけたいというシャルルの意図をなんとなく理解したソフィはそう答えたが、ステラは不満げに頬を膨らませる。


「えー、しゃるーといっしょがいー」


 あーやっぱり……そう思いソフィは苦笑するが、シャルルはフッと笑うと言った。


「これからどっちがいっぱい取れるか競争するんだぞ? 私に勝ったらパフェをご馳走しようと思っていたのだが……私と一緒にやるなら私に勝つ事はできないからステラの分は無しになるが良いのか?」


「えーやだー! すてらもぱふぇたべたい!」


「じゃ、一緒にがんばろうか」


「うんっ!」


 ソフィの言葉にステラは大きく頷く。


「よし、スタートだ」


 そう言うとカゴを背負いシャルルは早速刈り始める。


「あー! ずるい! そふぃはやく!」


 ステラに手を引かれ、ソフィも背中にカゴを背負うと薬草の採取を始めた。

いつもお読みくださっている方、初めての方、ここまでお読みくださりありがとうございました。

引き続きお付き合いいただければ幸いです。


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