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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード2 希望の星(エトワール)は遺跡に眠る
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ぬいぐるみ その3

 ハンターギルドに到着しシャルルが扉を開けると、ステラは受付カウンターまでてくてく駆けて行く。


 そしてパメラとルーシーに向って自慢げにぬいぐるみを掲げた。


「おはよー。ぱめら、るーしー」


「おはよう、ステラちゃん」


「おはよう。かわいいぬいぐるみね」


「えへへ、いーでしょー」


 笑顔で挨拶を交わす三人のところにおくれて現れたシャルルも挨拶を交わす。


「おはよう」


「あ、おはようございます」


「おはようございます。シャルルさん」


「この辺にいろよ」


「うんっ」


 シャルルはステラの麦藁帽子に軽く触れると受付の二人に軽く頭を下げ、依頼書が張り出されている掲示板に向う。


 パメラはそれを見送るとステラに話しかけた。


「その子、買ってもらったの?」


「うんっ! すてらがこのことねると、しゃるーがたまにならいっしょにってかってくれたの!」


「へー、そうなんだ」


「うんっ!」


 ルーシーはパメラにこっそり聞く。


「……今のわかったの?」


「全然」


 そう言うとパメラは笑う。


 パメラも当然意味不明なこと言ってるなぁ……とは思ったが、なんとなく買ってもらったという返事なのはわかったのでスルーしたのだ。


「その子のお名前は?」


「すてら?」


 首をかしげるステラにパメラは言う。


「いや、ステラちゃんじゃなくて、この子の名前」


 そう言ってパメラがぬいぐるみを指すと、ステラは首をかしげたあと掲示板前にいるシャルルのところにてくてくと駆けて行く。


 そしてぬいぐるみを掲げて言った。


「しゃるー、このこのなまえはー?」


 ステラを見てシャルルは思う。


 私が名前をつけろという事だろうか?


 だとしたら――


「シルフィ」


 シャルルにとって風の精霊といえば自分が育成していた課金ペット。


 そしてその名前は『シルフィ』


 元ネタは言うまでもないだろう。


「おおー!」


 名前を聞くとステラは嬉しそうに声を上げ、カウンターに戻ると再びぬいぐるみを掲げて言った。


「しるふぃ!」


「へー。良い名前ね」


「うんっ」


 ステラは嬉しそうに笑い、受付の二人も笑う。


「名前書くところあるし、無くさないように書いておく?」


「うんっ」


 足についたネームタグらしき部分を指しつつルーシーが言うとステラは元気良く答え、パメラがペンを渡すとしゃがみこんで書き込む。


 そしてぬいぐるみを誇らしげに掲げて言った。


「できたっ」


 それを見た受付の二人は同じ事を思う。


 ああ、自分の名前を書くんじゃないんだ……と。


 ぬいぐるみのネームタグにははっきりと『しるふぃ』と書かれていた。




 依頼のチェックを終えたシャルルはステラを連れ食堂スペースに移動する。


 そしていつも通りそこにいるソフィに軽く手を振りつつ近づいた。


「おはようソフィ」


「おはよー」


「あ、おはようございます」


 互いに挨拶を交わし、シャルルはステラをソフィの向かいに座らせる。


「じゃ、飲み物を買ってくるけど何が良い?」


「えっと、お任せします」


「すてらはつめたいのっ!」


「わかった、行ってくる」


 シャルルが頷きカウンターに向うと、ステラはぬいぐるみをテーブルの上に乗せ嬉しそうにちょこまかと左右に動かす。


 それを見てソフィは思う。


 たぶんぬいぐるみについて私がなにか言うのを待っているんだろうなぁ。


「その子かわいいね」


 待っていた反応が返ってきてステラは嬉しそうに笑う。


「うんっ! しるふぃ!」


「え?」


 ソフィが首をかしげると、ステラも首をかしげながら言う。


「しるふぃ?」


「いや……ソフィだけど?」


 だが、ステラは首を振ってもう一度言った。


「しるふぃ!」


 ここでようやくソフィは気づく。


 もしかして自分を呼んでいるのではなく、ぬいぐるみの名前なのではないかと。


「あ、シルフィってその子の名前?」


「うんっ!」


 元気良く答えると、ステラは足のタグをソフィに見せた。


 それを見てやっぱりそうなんだと納得しつつ、そこは持ち主の名前を書くところなんじゃ? とソフィは首をかしげる。


「シルフィって私とちょっと似てるね」


 ソフィはステラに向って笑顔で言う。


 もちろん、それは名前の事を言っていたのだが――


「確かに髪の色といい耳といい、ソフィと少し似ているかもしれないな」


 いつの間にか戻っていたシャルルはそう言いながら買ってきたジュースを各々の前に置く。


「そりゃ、エルフですから」


「エルフである事とぬいぐるみと似ているのは何か関係があるのか?」


 席に着きつつシャルルが尋ねると、ソフィは確認するように聞いた。


「それって、風のエレメンタルですよね?」


「店員にはそう聞いた」


「風と水のエレメンタルはエルフに、火と土のエレメンタルはドワーフに似てるらしいですよ」


 それを聞いてシャルルはゲームで見た課金ペットを思い返す。


 風がそっくりなのだから他も同じだろう。


 だとすると、確かにその傾向にある感じがする。


「それは何か理由があるのか?」


 ソフィは少し考える仕草をしてから言う。


「たぶんですけど……大体同じ場所で暮らしてるからじゃないでしょうか?」


「エルフやドワーフが飼っているという事か?」


 シャルルには『課金ペット』という感覚がある。


 そのため猫や犬と同じように『飼っている』という言葉が出たのだが――ソフィは明らかにむっとした表情で言った。


「家畜やペットじゃないんですから、飼っているなんて言わないでください」


「……すまん。あまり良く知らないもんでな」


 初めて見たソフィの表情に少したじろぎつつ、シャルルは店員が「エレメンタルは『人語を解する』不思議な生物なんですよ」と言っていたのを思い出す。


 人語を解するという事は意思の疎通が可能だという事で、ある意味人類四種族に準ずる存在と言えなくもない。


 もしかしたらソフィはエレメンタルと友人関係にあったのかも知れず、だとしたらソフィが怒るのも無理もない事だろう。


「あ、こっちこそすみません……」


「そふぃも、しるふぃと、いっしょにくらしてるの?」


 ぬいぐるみの影から覗き込むようにステラが聞く。


 ソフィはステラの言う『しるふぃ』とは、たぶん風のエレメンタルを指しているのだろうと考え答える。


「私は大陸北部の生まれだから風のエレメンタルは見た事ないの。でも、前に暮らしていた村には水のエレメンタルがいたよ」


「おおー」


「店員も北部にはあまりいないと言っていたが、やはりそうなのか?」


 ソフィは軽く頷くと言う。


「風と水のエレメンタルはエルフの国がある南部の大森林、火と土のエレメンタルはドワーフの国が多い南部の山岳地帯に住んでるんで、北部にいるエレメンタルは大体そこで仲良くなったエルフやドワーフが一緒に連れてくる場合が多いみたいです」


「なるほどねぇ」


 となると、やはりエレメンタルを連れていると目立つか……そんな事を考えつつ、シャルルはステラが楽しそうに動かしているぬいぐるみを見ていた。


「あのっ」


「ん?」


 シャルルがソフィの声に反応してそっちを見ると目が合い、彼女は目をそらしつつ言う。


「話は変わるんですけど、シャルルさんていつもどんな依頼やってるんですか?」


「少し前までは主に害獣狩りだな。ハンターレベルを上げたいから普通の依頼もやりたいんだが、所詮レベル2だから受けられる依頼も少ないし、それに今は――な」


 そう言ってシャルルがジュースを飲んでいるステラを見ると、ソフィも軽く頷いて答える。


「ああ、そうですよね」


「さっきも掲示板で依頼書を見たんだが……できそうなのは薬草採取くらいだ。とはいえ私はそっちの知識に明るくないし、一人では無理だな」


「じゃ、じゃあ。良かったらでいいんですけど……私と一緒にやりませんか?」


「薬草詳しいのか?」


 ソフィは左右の人差し指同士をつんつんしながら言う。


「えっと、詳しいってほどじゃないんですけど……私の師匠は薬師で、お姉ちゃ――姉も薬師で手伝ったりしてるんで少しはわかります」


 シャルルは少し考える。


 確かにこの申し出はありがたい。


 今はまだ金銭的余裕もあり切迫した状態ではないが、ハンターレベルを上げない限り状況は改善されず、いずれ困窮するのは目に見えている。


 だからたとえ小さい一歩でも、少しでもレベル3に向って進みたい。


 だが――


「是非にと言いたいところだが……パーティメンバーはソフィが私と依頼を受けるのを許してくれるか?」


 ソフィはパーティで見習いをしている。


 もしパーティメンバーが外で他人と依頼を受けるのを面白く思わず、それでパーティを外されるような事になったら申し訳ない。


「えっと、一人で依頼を受けちゃ駄目だって言われてますけど、それは一人だと危ないからで、シャルルさんと一緒なら良いって言うと思います」


 本当に危険だからという理由なら、危険度の低い薬草採取をドラゴンも倒せるシャルルが一緒というのなら許可は下りるだろう。


「なら確認しておいてくれ。パーティメンバーの許可が出たら一緒に薬草採取の依頼を受けてみよう」


「はいっ!」


 ソフィが笑顔で返事をすると、話に入れず足をぶらぶらさせていたステラが言う。


「おべんきょーまだー?」


 シャルルたちはその言葉でだいぶ話し込んでいた事に気づく。


 二人は顔を見合わせて苦笑したあと言った。


「ああ、そろそろ始めてくれ」


「そ、そうですね。じゃあ、魔術の基礎授業を始めます」



 こうして本日のソフィ先生の魔術の基礎授業は始まっのだが――既にステラの集中力がまったくなくなっていたため、まともに授業にならずぐだぐだで終わった。

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