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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード1 マギナベルクの新英雄
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鉱山都市マギナベルク その1

 大陸。それはそこに住む者にとって世界と同意である。


 もちろんこの世界にある大陸はここだけではないのだが、そこに行くには途方もない時間が必要だ。


 もし仮にその時間がかけられたとしても、現在の航海技術でたどり着く事は不可能。


 ゆえにここに住む者にとってこの大陸こそが世界なのだ。


 大陸の北端には切り立った崖のような山脈があり、そこは人類では決して超える事ができない。


 なので大陸と呼ばれる部分はそこよりも南側の部分。


 その大陸と呼ばれている部分の中央にはさらにそれを分断する大河があり、人々は大河の北側を大陸北部、南側を大陸南部と呼ぶ。


 大陸北部のやや東、山脈の近くについ数年前までは廃墟だった都市がある。


 その都市の名は鉱山都市マギナベルク。


 現在復興中であるマギナベルクでは、復興のさまたげとなる都市の近隣や街道付近に出没する野獣や魔獣を駆除するため、ハンターと呼ばれるいわゆる冒険者的な者を積極的に誘致していた。





 ハンターが所属し依頼を受けるためのギルド、ハンターギルド。そこは今日も依頼を求めるハンターたちで賑わっている。


 そんなギルドの受付カウンターで、赤髪短髪で少年っぽさが残る青年アルフレッドと赤みがかった金髪を肩できれいに切りそろえたショートカットの女性ローザ、簡素な戦士風の装備を身に着けた二人が受けられる依頼がないか探してもらっていた。


 受付嬢のパメラは依頼書をめくりながら言う。


「うーん、あなたたちが受けられる依頼はないわねぇ」


「やっぱり今日もないかぁ」


「私たちはハンターレベル2だもの。しかたないわ」


「そりゃそうなんだけどさ……」


 ローザの言葉にアルフレッドはやや不機嫌そうに答える。



 ハンターレベル。それは強さと経験に基づき認定されるハンターのランク。


 レベル3以上からプロハンターと呼ばれ、依頼者から特に要望がなければ受けられる依頼に制限はない。


 だが彼らのレベル2というのは一応のハンターとして認められるという程度のランクで、受けられる依頼にはかなり制限がある。



「まあ、ないものはしかたないか」


「じゃあ、今日も害獣狩り?」


「そうね」



 害獣狩り。ハンターは依頼がなくても人類に害をなす害獣指定された獣を狩りその証拠をギルドに提出すると、狩った獣に応じて報酬がもらえレベル認定の実績にも加算される。


 通常の都市では依頼中に現れた関係のない害獣を金にならないからと放置されないための仕組みなのだが、都市周辺に害獣が多数存在するこの都市においては稼ぎの主力としているハンターも少なくない。



「あまり森の深くに行っちゃだめよ」


「わかってるって」


「いってきます」


 軽く手を振りながらギルドを出て行く二人をみながらパメラは心で祈る。


 今日も二人が無事に帰ってこられますように……。





 陽光のあまり届かない深い森の中。大きく枝を張る木々にさえぎられ薄暗いこの場において、その一画だけは陽光が直接降り注いでいた。


 美しい花が咲き誇るそこは、今まさに天使が降臨しているのではないかと思えるような神秘的な場所。


 その場所に、降り注ぐ陽光とは別の光が現れる。


 そしてその光が消えると――そこには天使ではなく、赤い竜を模したような装備を身に着けた騎士のような男が立っていた。


 竜の頭を模したような兜を外し、それを見て男はつぶやく。


「ゲームの中……なのか?」


 自室でゲームをしていてクエストをクリアしたらモニターから目を開けていられないほどの光が発せられ、次に目を開けたときには見知らぬ森の中。


 さらにいつの間にかかぶっていたなにかを見てみると、それはさっきまで使用していたキャラクターと同じ装備。


 ここまで条件がそろっているのだ。よほど勘の悪い者かあえて考えないようにしている者以外なら、そう考えるのが自然だろう。


 彼は特に勘が悪いわけではないのでやはりそう考え、そして次にこう思った。


 まるでVRMMOのようだな……。


 さっきまでやっていたアナザーワールド2というゲーム。これは特に説明が必要ないくらい普通のMMORPG。


 だがここがそのゲームの中だとすると、現実と同じような行動ができるここは彼がアニメで見た事があるVRMMOというものに酷似しているように思えた。


 誰に言うわけでもなく彼はつぶやく。


「そういえば、アイテムや魔法はどうなってるんだ?」


 アナザーワールド2の操作はマウスとキーボードを使う。


 だが操作していた自分は今ここにいる。


 外で操っている者がいない以上、あらゆる操作をここにいる自分自身でしなければならない。


 彼はVRMMOが出て来るアニメで視界の隅にあるアイコンに触れるというシーンがあった事を思い出し、目を凝らしてそれがないか探すが――


「ないな」


 となるとあとは音声で呼び出すとか不可視のアイコンくらいしか思いつかない。


 とりあえず不可視のアイコンの可能性を試すため、邪魔な兜を『アイテムボックス』にしまう。


 アイテムボックスにしまわれた兜はテレポーテーションでもしたかのように左手からスッと消え、彼は空いた両手を使い宙をまさぐった。


 だが、何もみつからない。


 彼はしかたなく咳払いを一つしたあと、もう一つの可能性を試す。


「ステータス、アイテム、魔法、スキル。えーとそれから……」


 思いつく言葉を適当に言ってみるが反応はない。


 あとはなにがあっただろうか?


 彼は腕を組み思考をめぐらせてみるが他の方法はいまいち思いつかなかった。


「うーむ。どうしたものか……あ、あれ?」


 ここで不意にさっきまで左手に持っていたはずの兜がいつの間にか無くなっている事に気づく。


 知らぬ間にかぶったのかと思い頭に手をやるが触れるのは長い黒髪だけ。


 足元を見ても落ちている様子はなく、周囲を見渡すがやはり無い。


 見えないくらい遠くまで放り投げるなんて事はあるはずもなく、忽然と消えたとしか思えない状況だ。


「くそっ。どこに消えた!?」


 彼は一瞬いらだつが、深呼吸をして勤めて冷静に考えようと努力する。


 こういうときはイライラしたらみつかるものもみつからない。まずはなくなったときの状況を振り返るべきだろう。


 こういう場合、なくなったときと同じ行動をしてみるというのも一つの手だ。


 まずは籠手を外し左手に持つ。そして視界の隅にアイコンがないかを探す。


 さっきもなかったのだから今回も当然ない。


 この時点までは持っていたような気がするな……などと思いつつ次の行動に移る。


 不可視のアイコンを探すのだから片手よりは両手で探した方が効率が良い。


 そこで左手に持っているものは『アイテムボックス』に――


 アイテムボックス!?


 意識した瞬間にそれの存在を理解する。


 それはまるでど忘れしていた事を思い出すような、久しぶりすぎてどうやるのか忘れていたゲームを少しやったら思い出したときのような、そんな最初から知っていたような感覚。


 そしてアイテムボックスの存在を理解した瞬間にその他の事もだいたい理解する。


 アイテムボックスは物理的に存在しているものではなく別次元に存在しているようなスペース。直接手を触れるわけではなく、意識する事でアイテムの出し入れができる。


 だが、中に入れられるものには制限があり、なんでも入れられるわけではない。


 装備品はアイテムボックスから直接装備する事も可能。


 これはアナザーワールド2だとショートカットに入れないとできなかった事だが、ここではショートカットが無い代わりにアイテムボックスから直でできるらしい。


 次に魔法。


 魔法は彼のキャラクター、レベル100ダークナイトが使えた魔法が全部使えるのがわかる。


 そしてスキル。


 スキルにはアナライズのようにどのプレイヤーでも使えるものと、戦士系が使う攻撃技などの戦士スキルがある。


 戦士と魔法使いの複合職であるダークナイトは当然どちらも使えるはずなのだが――


「戦士スキルがない……」


 覚えているはずの戦士スキル。もちろん彼自身はスキル名などを覚えてはいるのだが、魔法と違いなにが使えるかがわからない。


 では使えないのだろうか?


 もしかしたら剣を抜いた状態でないと出てこないのかもしれない。


 そう思いとりあえず剣を抜き、そして理解する。


「なるほど……そういう事か」


 抜いた剣が鈍く光りそしてそのまま一閃。これはアナザーワールド2のスキルだとスラッシュに相当する技。


 そう、ゲーム内の戦士スキルはスキルポイントという気のようなものを使うための型に過ぎず、ここでは型にとらわれずその力を自在に操る事ができるのだ。


 つまりゲーム内の技を再現する事も、アレンジする事も、まったく新しい技を作り出す事も可能。


 こうして彼は色々試し、なにができてなにができないのかの理解を深めて行く。


 そんな事をしばらくしていると、いつの間にか陽光の降り注いでいたその場所も日の傾きと共に木陰となっていた。


 それに気づき彼はかなり時間が経っている事に気づく。


「まずいな……」


 ここは見知らぬ森の中。どんな危険があるかわからないし、暗くなれば抜けるのが困難になる可能性も高い。


 色々試した結果、なんとなく自分は強いという感覚はある。


 ここがゲームの中だとすれば、それなりの敵が出たとしてもレベル100である彼がやられる可能性は低いだろう。


 だが、ここがどこだかわからない以上、ソロでは対処困難な高レベルモンスターがうじゃうじゃ出て来る可能性だって否定はできない。


 明るいうちに森を抜け、町などの安全だと思われる場所に移動した方が良いだろう。


 彼はアイテムボックスから兜を取り出しそれをかぶると、とりあえず歩き始める。


 森の中は薄暗く自分がどの方角に向っているかもわからないが、それはたいした問題ではない。


 なぜならどの方角に向えば森を抜けられるかなんてわからないのだから。


 とにかく彼は道なき道をひたすらに、同じ方角だと思われる方に向って歩いた。

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