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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード2 希望の星(エトワール)は遺跡に眠る
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魔法とスクロール その3

 正午の鐘が鳴り響き、昼食時を迎えたギルドの食堂スーペース。


 そこは混雑と言うほどではないがそれなりの人数がいて、それなりの賑わいを見せている。


 そこで授業のお礼と言う名目でソフィに昼食を奢る事にしたシャルルは、ひざにステラを乗せながらソフィと向かい合って昼食を取っていた。


「つまり、仕事に参加しなかった場合、午前中は暇なのか」


「そうですね。そういう時はお昼を食べたら帰って、午後は姉の仕事を手伝ってます」


「なるほど」


 見習いであるソフィを仕事に参加させるかどうかは、パーティのリーダーが決めるらしい。


 それは午前中には決まるので、ソフィは仕事に参加できるかの確認にギルドに来て参加できない場合は帰る。


 ちなみにその場合はハンター割引があるからギルドの食堂で昼食をとってかららしい。


 つまり仕事に参加しない場合、昼食の時間までは暇だという事だ。


「じゃあ、仕事に参加しなかったときの午前中に少しだけで良いから、今日みたいにこの子に魔術を教えてもらえないだろうか?」


「ええっ!? 私がですか?」


「もちろん。この子もソフィに懐いたみたいだしな。ステラもソフィに教えてもらいたいだろ?」


 だが、ステラはシャルルの方を向いて言う。


「しゃるーがいー」


「……私以外でだ」


 そもそもシャルルは教えられない。


「じゃー、そふぃーがいー」


 ステラはソフィににっこりと笑いかけるが、ソフィは少し困ったような顔をする。


「でも今日も大した事は教えられませんでしたし、それに……」


 ソフィはステラをちらっと見てからシャルルを見て苦笑した。


 それを見てシャルルは悟る。


 ソフィはシャワーや噴水を出したあとステラにイメージについて教えようとしたのだが、一度集中力を切らしたステラがまともに話を聞く事はなく、その後はぐだぐだで終わってしまった。


 それを気にして教える自信が無いという事なのだろう。


 シャルルはステラの頭をなでながら言った。


「子供は集中力が続かないからな。一回一時間程度、少しだけでも教えてくれれば十分だ。もちろん報酬は出す。一回につき銀貨2枚と昼食でどうだ? なんならジュースもつけるぞ?」


「すてらもじゅーすほしい」


「ああ、勉強をちゃんとするならいいぞ」


「やったー」


「でも……私じゃやっぱり……」


 そう言うと、ソフィは困ったような表情で下を向く。


「うーむ」


 ソフィの言動や表情は、嫌だというよりはやはり自信が無いという感じに見える。


 シャルルとしては自分が魔術の基礎と常識を知る事ができるのなら、ステラはまったく理解してなくても問題は無い。


 そんなのはシャルルが知っていれば、あとでいくらでも教えられるのだから。


 シャルルはハンター以外の魔術師が普段どこにいるのかを知らないし、他のハンターは依頼やらなんやらで魔術の基礎を教えてくれるような者はなかなかいないと思われる。


 それに他の魔術師にシャルルが魔術の基礎や常識を良く知らないという事を知られるのは避けたい。


 そういうのはなるべく少人数に留めておいた方が良いのだ。


 そういう点を考えても、やはりソフィに教えてもらうのが一番だろう。


 となると、やはりネックであるソフィの気持ちを何とかするしかないのだが……少し考えそしてシャルルは口を開いた。


「もっと気楽に考えてくれ。私もハンターの仕事をする事があるから別に毎日というわけじゃない。互いの時間が合ったとき、たまたまギルドで会ったらという条件でいい」


「うーん」


 ソフィは考える仕草をするが、その表情はさっきまでよりはかなり前向きに見える。


 もう一押しだな。そう思ったシャルルは言葉を続けた。


「そうだ。とりあえず一週間やってみないか? 一週間やってみて、続けるかどうかはそのあと決めよう」


「うーん」


 表情は更に前向きに見えるが、あと少し足りないらしい。


 どうしたものか……そうシャルルが考えていると、思わぬところから援護射撃があった。


「そふぃ、すてらのこと……きらい?」


 ステラがいくら小さい子でも、さすがに自分が関係している事を話している事くらいはわかる。


 その上でソフィが拒否しているのだから、自分が嫌われているのかもと考えるのは自然な事だろう。


 泣き出しそうなステラを見てソフィはあわてて言った。


「そんな事ないよ~。ステラちゃんの事好きだよ~」


 それを聞き、ステラは嬉しそうに笑う。


「えへへ。すてらもそふぃすき~」


 好機と見たシャルルはすかさず言う。


「じゃあ、お願いできるかな?」


 ソフィは観念したとばかりに苦笑して言った。


「わかりました。一週間で良いんですよね?」


「まあ、とりあえずな」


「でも、報酬はいりません。報酬をもらえるほどの事は教えられないと思うんで」


 きっぱりとした口調でソフィは言うが――


「いや、報酬は払うぞ? 大した金額じゃないし、これは私が気兼ねなく頼むためのものだからな。まあ、もしソフィが私に物凄く気を使わせたいと言うのなら受け取らなくても良いが」


「シャルルさんにはかなわないなぁ……」


 再びソフィは苦笑する。



 こうして、ステラ(とシャルル)はとりあえず一週間、ソフィに魔術の基礎を教えてもらう事になった。




 その日の夜。仕事を終えたソフィは姉のエリスと薬屋の二階にある、二人が間借りしている部屋で食卓を囲んでいた。


 簡素な木のテーブルの上には焼き魚にパン、ミルクと野菜のスープ、そしてサラダが並んでいる。


「でね、最初は魔術を口実にしたナンパなのかなぁって思ったんだけど、結局お話したのは魔術の事だけだったの」


「まあ、小さい子を連れてナンパは普通しないしね」


 エリスもお茶や食事に誘われる事はあるが、子連れの人にナンパされた事は無い。もっとも、それは商業地区にいる子供が少ないせいもあるかもしれないが。


「かなぁ」


「でも、憧れのシャルルさんといっぱいお話できて良かったじゃない」


「そうなんだけど、でも、これからステラちゃんに魔術を教えなきゃいけなくて……私にできるかな」


「きっと大丈夫よ。そう思ったからシャルルさんもソフィに頼んだんでしょ?」


「そうだよね! うん。がんばる」


 ソフィは両手の拳を握って頷き、それを見てエリスも微笑む。


「そうそう、がんばって助けてもらったお礼をしないとね」


 エリスの発言を聞いてソフィは声を上げた。


「あー! そういえば助けてもらったお礼言ってない!」


 これにはエリスも苦笑い。


 あれだけお礼を言いたいんだけど話しかけられなくって……って言ってたのに、向こうから話しかけてもらうと忘れちゃうんだ。


「まあ、これから機会はたくさんあるんだから」


「それはそうなんだけど……」


 ソフィは左右の人差し指同士をつんつんしながら言う。


「あー」


 そういうのって、機会を逃すとなんか唐突な感じになっちゃって言いづらくなるよね……とエリスは思い口に出しそうになったがつぐむ。


 聞くとソフィが余計に意識して言えなくなりそうだから。


「でも、憧れのシャルルさんとお近づきになれて良かったね」


「うん!」


 嬉しそうに笑うソフィを見てエリスは思った。


 ソフィが嬉しいのは私も嬉しいんだけど……シャルルさんの話、以前にも増して聞かされる事になるんだろうなぁ……。

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