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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード2 希望の星(エトワール)は遺跡に眠る
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魔法とスクロール その2

 この世界で普通の魔術師が魔術を使うには、使いたい魔術のスクロールを持っている必要がある。


 もちろんシャルルもその事は知っていたのだが、ラーニング(魔法習得スキル)がある彼には関係ない事なので、今の今まですっかり忘れていたのだ。


 そして――


 テーブルの上にある黄色いポシェット。小さい辞書くらいの大きさのそれに左手を置いたステラは、右手を指差す形にしてコップの上に持って行き言う。


「おみずでろでろ~」


 するとステラの声に反応するように、その指先からちょろちょろと水が流れ出た。


「でたー! しゃるー、そふぃーでたよー」


「おめでとう」


「よし、よくやった」


 シャルルが頭をなでるとステラは気持ちよさそうに目を細める。


 そんな二人を見ながらソフィは苦笑しつつ言った。


「それにしても、まさかスクロールを持ってきてなかったなんて……」


 結局ステラが魔術を使えなかったのはスクロールが無いせいだった。


 シャルルが今はスクロールを持ってないと言うと、ソフィが『スペルバインダー』を貸してくれたのでそれがはっきりしたのだ。



 スペルバインダー。魔法を使うには術者の近く(身体から30cm程度)にスクロールがある必要がある。


 したがって、魔術師や秘術師は自分が使う魔法のスクロールを何種類も持ち歩く必要があるのだが、ばらばらに持つのは不便なのでバインダーに綴じておく。


 ちなみにスペルバインダーは通常バインダーホルダーと呼ばれる専用のケースに入れて持ち歩き、ソフィの黄色いポシェットはそのバインダーホルダーである。



「ははは……」


 シャルルも苦笑すると兜を脱いでテーブルの上に置く。そしてソフィとステラの中間くらいを向いて頭を下げた。


「すみませんでした」


「いや、そんな……」


「よしよし」


 ソフィは恐縮し、ステラはシャルルの頭をなでる。そしてシャルルが兜をかぶると、ソフィ先生の授業は再開した。


「えっと、あとはひたすらマナが尽きるまで水を出して、マナが回復したらまた水を出すというのの繰り返しですかね。私は一日で樽一杯くらい出せるようになるまではそんな感じでした」


「なるほど」


 となるとスクロールが無いので今できる事はもうない。


 それにステラは飽きたのか、きょろきょろ辺りを見回しては、さっきは怖がっていたハンターたちと笑顔で手を振り合ったりしている。


「ほら、ステラちゃん。如雨露じょうろだよ~」


 ステラが余所見し始めたので、気を引こうとソフィは指先からシャワーを出すが――それに食いついたのはシャルルだった。


「それはなんの魔法だ!?」


「え? え? ウォーターですけど……」


「イメージ……というやつか」


「はい。本来の形と違うからちょっと弱くなっちゃいますけど、植物に水をあげるときとかはちょうど良いですよね」


「おおー」


 遅れて興味を示したステラにソフィが説明をしているのをぼんやりと見つつシャルルは考える。


 前にヨシュアと話した時も思ったが……やはり私にはこの世界の『常識』が足りないようだ。


 今回は魔術の常識が足りなかったためにステラに魔法を使わせる事ができなかったし、恐らくまだまだ知らない常識があるだろう。


 だが常識は他人に聞きづらいし、そもそも何を聞けば良いのかがわからない。


 しかし今回のように魔術の事を何も知らない者に教えるのを横で聞いていれば、魔術に関する常識をかなり知る事ができるのではないだろうか?


 となるとソフィ先生の魔術の基礎授業、今回だけで終わらせるのは惜しい。


 それに――


 シャルルが意識をソフィたちに戻すと、ソフィのウォーターはいつの間にかシャワーではなく噴水になっていた。


「ほら、噴水だよ~」


「すごーい! まほーみたい」※魔法です。


 コップ中央で立ち上る水柱に嬉しそうにはしゃぐステラを見てシャルルは思う。


 どうやらソフィに懐いたようだな。

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