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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード2 希望の星(エトワール)は遺跡に眠る
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魔法とスクロール その1

 魔法。それはマナ(魔素)を現象に変換させ発現する神秘の術。


 大陸には魔術と秘術という二種類の魔法があり、魔術を使うにはマギア(魔力)、秘術を使うにはミスト(聖気)という能力が必要である。


 それらの能力は根源を同じくするカオスマギア(混沌魔力)が変化したものであり、二者択一であるため両方使える者は存在しない。


 マナを現象に変換するにはスペル(呪文)が必要である。


 原初の魔法は口頭でスペルを唱えるというもので、それは覚えるのが困難な上に効率も悪く効果も低いものだった。


 しかし人類が発音できないスペルが発見された事をきっかけに、魔法は大きな進化を遂げる。


 そのとき開発されたのは、スペルを書いた呪文書、スペルスクロール(通称スクロール)をスペルの代わりに使用する技術。


 そしてこの方式の普及に伴い、口頭でスペルを唱えるというやり方は廃れなくなっていった。


 魔法はスクロールと術者のマギアやミストといった魔法力をリンクさせ、術者のマナを魔法という現象に変換したあと、その現象を術者のイメージで発現させコントロールする。


 スクロールと魔法力をリンクさせるには使用する魔法に見合うだけの魔法力が必要で、魔法力は自分に見合った魔法を使う事で強化されて行く。


 魔法の燃料ともいえるマナは魔法力に比例して保有できる量が増える。


 魔法を使用すれば減るが、マナは大気中に常に存在し術者はそれを吸収し続けているため許容量までは自然に回復し、逆に他に回復する方法は無い。


 魔法を使うにはイメージが重要となる。


 なぜなら魔法力をどのスクロールとリンクさせどういう形で発現させるかは、イメージでコントロールされるからだ。


 また、発現したい魔法の本来の形がイメージと近いほどその効果は上がり、逆に本来の形から離れるほど効果は下がる。


 そしてイメージが魔法の許容範囲を越えてしまうと発現せず霧散してしまう。


 そのため、魔法を使う者はいかなる状況下でも正確なイメージができるよう、イメージトレーニングや精神修行をする。





 ソフィが授業開始の宣言をすると、シャルルは軽く、ステラは大きく拍手を送った。


「よろしく」


「よろしくおねがいしまーす」


「はい、よろしくお願いします」


 二人は軽く、ソフィはやや照れ気味にお辞儀をする。


「えっと……最初はウォーターかな。私に魔術を教えてくれた人は、まず水をたくさん出しなさいって言ってました」


「ほう。それはなぜ?」


「魔術の才能があるならウォーターくらいは使えるからというのと、魔術の修行と水汲みを同時にできるからですかね」


「なるほど」


 この世界には整備された上水道が無いので水は井戸や池などの水源から汲んでくる必要がある。


 それと魔術の修行を兼ねる事ができるなら一石二鳥という事だろう。


 そしてソフィの言う通りなら、予想通り魔術は使う事で鍛えられるという事になるが――


「魔術の才能があれば必ずウォーターは使えるのか?」


「必ずかどうかは知りませんけど……魔術を使えるかを調べるときはウォーターを試すのが一般的みたいですよ」


「なるほど」


 シャルルは頷く。


 ウォーターは水を出すだけの魔術。そして各魔術にはその威力に上限がある。ウォーターの場合、シャルルが最大出力で使っても蛇口を目一杯開く程度の威力しかないので危険は少ない。


「じゃあ、ステラちゃん。私が先にやってみせるから良く見ててね」


「はーい」


 元気良く返事をするステラに微笑みかけると、ソフィはレモネードの残りを一気に飲み干す。


 そして空いたコップに魔術で水を注ぎ、半分くらい水が貯まるとステラの前にコップを差し出した。


「じゃあ、ステラちゃんもやってみて」


「うんっ。みずみずでろでろ~」


 コップの上に人差し指を持っていくとステラは嬉しそうに言葉を発するが――やはり水は出ない。


「でないよー?」


 首をかしげるステラを見て、ソフィも首をかしげる。


「うーん、イメージかな?」


「イメージ?」


「はい。慣れない魔術を使うとき、ちゃんとイメージできてないと発現しない場合があるじゃないですか。小さい子だとそういうのが難しいのかもしれません」


「そういうものか?」


「最初はそんなもんですよ。そういう場合は呪文を使うんです」


「呪文?」


「じゅもん?」


 シャルルとステラの声が重なり、同時に首をかしげた。


「イメージするための呪文です。ステラちゃん良く見てて」


「うん」


 ステラが頷いたのを確認すると、ソフィは右手で指差す形を作り言葉を発する。


「私の右手は魔法の水差し。傾けると水が出る。『ウォーター』」


 そしてソフィが右手を傾けると、さっきは水道の蛇口をひねったときのように出ていた水が、今度は水差しから流れ出るように緩やかに人差し指の先から流れ出た。


「イメージのための呪文にはいくつも種類があるのか?」


 シャルルの問いにソフィは首をかしげながら答える。


「えっと種類というか、呪文といってもあくまでイメージするためのものだから、定型文なんてないんじゃないですか? さっきの呪文だって私に魔術を教えてくれた人が考えたものですし」


「つまりイメージさえできればどんな呪文でも良いと」


「ですね。呪文自体に意味があるわけじゃありませんから。呪文じゃなくて身振り手振りの人や魔法名を言うだけの人、それらを組み合わせる人もいますけど、あくまでイメージのためですよね」


 呪文などはあくまでイメージのため。そしてイメージは魔法を成功させるためという事か……そこまで考えてシャルルはふと気づく。


「慣れていそうな魔術を使うときも呪文とかを使っている奴がいるけど、あれはなんでだ?」


 シャルルの問いに『え~』といった表情をしつつソフィは答える。


「だって、魔術の威力や制御ってイメージで変わるじゃないですか。より本来の形に近いイメージができれば威力も上がり制御もしやすくなりますけど、イメージが遠いと最悪、発現しなかったりしますよね? だから自分が今どの魔術を使おうとしているのかを強く認識するために最低でも魔法名くらいは言うんですよ」


「そうなのか?」


「そうですよ! 魔法名を言うのと言わないのじゃ結構威力変わりますよ? シャルルさんみたいにマギアが強い人ならそうじゃないのかもしれませんけど、普通の魔術師はそうなんです!」


 ソフィの言う通りならシャルルが今まで使っていた魔術は本来の威力を発揮していなかった可能性があり、問題なく使えたのはレベルのごり押しのおかげという可能性もある。


 仮にそうならレベル1のステラにそういうものは期待できないので、かなり正確にイメージする必要があるのだろう。


 という事は、ステラが魔術を使えない原因はここにあるのかもしれない。


「なるほど。じゃあ、ステラ。良くイメージしながらやってみろ」


「はーい」


 ステラは右手を指差す形にしてコップの上に持って行く。


「えっと……わたしのみぎてはまほーのみずさし? みずさしってなーに?」


「えっと、水入れ?」


 どう説明すれば良いのかわからずソフィは首をかしげ、それを見てステラも首をかしげる。


「水が入った小さいやかんだ。やかんの子供みたいなやつだな」


「おおー」


 ステラはなるほどといった感じで頷き、ソフィは子供に説明するためとはいえ『やかんの子供』という表現はちょっとかわいいなと思って微笑む。


「わたしのみぎてはまほーのみずさし。かたむけるとみずがでる~。『うおーたー』」


 だが傾けたステラの右手から水は出ない。


「でないよー?」


「うーん。ステラちゃんは魔術を使えるんですよね?」


「魔術の才能があるのは確かなんだが……」


「魔術が使えるのにウォーターが発現しないとなると、マナの枯渇か、あとは『スクロール』に問題があるとか……」


『あー!』


 シャルルは思わず立ち上がり、ステラは不思議そうにシャルルを見上げ、ソフィは驚く。


「えっ!? ど、どうしました?」


「いや……」


 シャルルは座り直すと思った。


 そうか、スクロールか。そんなものもあったな……。

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