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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード2 希望の星(エトワール)は遺跡に眠る
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ハンターの魔術師 その3

 ハンターギルドの食堂スペース。そこにあるテーブル席の一つに座っていた緑髪ポニーテールのエルフの少女――ソフィは、両手で頬杖を突きつつため息をつく。


 はぁ……今日もハンターの仕事は無しかぁ。



 駆け出しのハンターであるソフィはプロハンターの女性二人とパーティを組んでいる。だが、彼女はある程度慣れるまで、安全かつ魔術師が役に立つ仕事にだけ参加させてもらえる事になっていた。


 そのためいまだ数えるほどしか参加していない。


 一見条件が悪いようにも思えるが、見方を変えると案外そうでもなかったりする。


 そもそも経験の浅い魔術師を入れてくれるパーティは少ない。


 これはフォースを使う戦士に比べ体力が無いため雑用や荷物持ちとしても微妙だったり、火力は高いが誤射が怖いので戦闘にはあまり参加させられなかったりする役立たずだからだ。


 それに駆け出しの若い女を入れてくれるパーティも少ない。


 女のみのパーティなら問題ないが、男ばかりのパーティや男女混合のパーティにそういう者を入れるとパーティの絆が崩壊する危険があるからだ。


 特にソフィのようなエルフの美少女なんか入れた日にはパーティ崩壊待ったなしだろう。


 その点ソフィが参加しているパーティは女性のみなので問題ない。


 それに危険が少ない依頼を選んで慣れさせてくれているのだから、寝食の保障があり金銭的に困っているわけでないのなら破格の好条件とも言える。


 実際ソフィは姉と一緒に暮らしているので寝食に問題はない。


 暇な時は姉の仕事を手伝っているので多少ではあるがお金ももらえている。


 つまりソフィにとっては破格の好条件なのだが――やはりハンターなのにハンターの仕事ができないのだから、ため息をつくのも仕方がないだろう。



 ドラゴンのときは参加した事をほめてくれたんだから、もっと仕事に参加させてくれても良いのに……。


 確かにパーティメンバーの二人はソフィがドラゴン撃退に参加した勇気をほめたのだが――それと仕事に参加させるかはまったく別の問題だ。


 ドラゴン……か。


 ソフィは軽く目を閉じあの日の事を思い浮かべる。


 迫り来る魔力弾とそれを打ち消したシャルルの魔術。そして圧倒的な力でドラゴンを倒したその勇姿を。


 あれから何度も見かけているが話しかける勇気が無く、未だに助けてもらった礼を言えていない。


 せめて一言……お礼を言いたいんだけどなぁ。


 そんな風に思いに耽っていたソフィだったが、不意にかけられた声によって現実に呼び戻された。




「一杯奢らせてもらえないか?」


 エルフは見目麗しい者が多く、いまだ幼さの残る少女のソフィでも声をかけてくる男は少なくない。


 またかぁ……面倒だなぁ。


 そんな事を思いつつ声の主を見てソフィは驚愕する。


 え? シャルルさん!?


 優しく微笑みかけるシャルルにソフィは鼓動を早めつつ答えた。


「はっ、はひ」


 ソフィの返事にシャルルは軽く頷くと言う。


「とはいえまだ昼前だし、ジュースか何かで良いかな?」


「……はい」


 ソフィがそう返事をすると、シャルルの足元からも声が聞こえてくる。


「しゃるー。すてらも、じゅーすほしー」


「ん? ああ」


 そして、シャルルは足元にいた幼女――ステラをソフィの向かいに座らせると、カウンターの方に歩いて行った。


 ソフィはシャルルがカウンターに向うのを見送ってから、目の前の幼女に目を移し思う。


 シャルルさんの――娘!? 子連れでナンパ!?


 もちろんシャルルはナンパしているわけではない。


『一杯奢らせてもらえないか?』というのは『ちょっとお茶しない?』というわけではなく、ハンター同士で情報提供を求める時の合図でありマナーだ。


 普通のハンターなら知っていて当然の常識なのだが――何事にも例外は存在する。


 ソフィはまだ駆け出しなので、自分で情報収集をしたり情報提供を求められたりするような立場ではない。


 そしてあまり仕事にも参加していないせいもあり、いまだハンターの常識やマナーについては知らない事も多々ある。


 そのせいでそんな勘違いをしたのだ。


 そんなソフィの目の前に座り、テーブルに突っ伏して足をぶらぶらさせていたステラは急に顔を上げて言った。


「おみみ!」


「え?」


 急に発せられた言葉にソフィは思わず聞き返す。


「おみみながい」


 エルフを初めて見たステラはソフィの長い耳を見て目を輝かせた。


 そんな彼女にソフィは若干たじろぎながら答える。


「あ……うん。エルフだから……」


「かっこいい!」


「そ、そう? ありがとう」


 ますます興奮するステラにソフィはちょっと照れ笑い。


 そんな事をしている間にシャルルはお盆でストローのついた二つのジュース――レモネードとコーヒーを持って戻ってくる。


 そしてそれらを各々の前に置くとステラの隣に座った。


「知っているかもしれないが、私はシャルル。レベル2ハンターだ」


「え?」


「ん?」


「いえ、なんでもないです……」


 シャルルのハンターレベルを知らなかったソフィは思わず聞き返すが、そんな事で嘘をつくはず無いと思い口をつぐむ。


「この子はステラ。私の家族だ」


 紹介されステラはにっこり笑う。


「あ、私はソフィです。レベル1です。よろしくお願いします」


「ああ、よろしく」


「よろしくー」


 一通り挨拶が終わると、とりあえず皆、目の前の飲み物に口をつけた。


 緊張で喉が渇いていたソフィの喉をレモンの酸味と蜂蜜の甘みが心地よく抜けて行く。


 ステラは一口飲むと目を閉じ口をすぼめて言った。


「しゃるー、すっぱい」


「すっぱいの嫌いか?」


 シャルルの問いにステラは首をぶんぶん振って言う。


「おいしい!」


「そうか」


 ステラを見るシャルルを見てソフィは思った。


 思ってたイメージとちょっと違うけど……優しいお父さんって感じも素敵だなと。


 あれ? でもさっき、娘じゃなく家族って紹介してたよね? もしかして娘じゃなくて妹?


 確かにシャルルとステラはかなり歳が違うように見える。


 しかし魔族は寿命は長いが出生率は極端に低く、兄妹の歳がかなり離れていても特に不思議な事はない。


 娘かそれとも妹か。二人を見比べながらそんな事を考えていると、シャルルはソフィが思いもしなかった事を言った。


「そろそろ本題に入らせてもらうが、聞きたい情報は魔術についてだ」


「魔術について!?」


 シャルルの言葉にソフィは二つの意味で驚く。


 ナンパで話題に魔術!? というのと、高位魔術を使うこの人が私に魔術について聞くの!? という思いの二つだ。


「ああ。君は魔術師だろ?」


「そ、そうですけど、専門的な勉強をしてきたわけじゃないし、シャルルさんに教えられるような高度な知識はさすがに……」


 恐縮というか若干引き気味に答えるソフィにシャルルは言う。


「別に専門的な知識を必要としているわけじゃない。必要なのは一般的な知識だ」


「それって、どういう事ですか?」


 首をかしげるソフィにシャルルは少し身を乗り出して言った。


「ここだけの話だが……私は特殊な環境で魔術を鍛えた。そのせいで一般的な魔術の鍛え方を知らないんだ」


 そしてシャルルはステラの頭を軽くなでながら言う。


「実はこの子には魔術の才能があるんだが……私にはそれをどうやって鍛えれば良いのかを教えてやる事ができない。そこで、君が魔術の修行を始めた頃にやっていた事を教えて欲しいと思っている」


「は、はぁ……」


 ソフィは考える。


 つまりステラには魔術の才能があるが、シャルルの鍛え方は特殊なので教える事ができない。


 そこで普通の鍛え方を知っているであろうソフィにやり方を教えて欲しいという事らしい。


 確かにシャルルの異常な強さは一般的な魔術の修行で到達できるレベルとは考えづらく、特殊な環境で鍛えたというのも納得はできる。


 だが……ソフィも自分以外の魔術師がどんな鍛え方をしているかは知らないが、いくら特殊な環境で鍛えたとしても基礎から違うとは考えづらい。


 んー、やっぱりステラちゃんと魔術を口実にしたナンパかな?


 でも――シャルルさんならいっか。


「えっと、お昼くらいまででよければ……それで大丈夫ですか?」


「ああ、問題ない」


「すてらも」


 元気良く手を挙げたステラに微笑みかけるとソフィは言った。


「じゃあ、ソフィ先生の魔術の基礎授業、開始です」

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