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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード2 希望の星(エトワール)は遺跡に眠る
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ハンターの魔術師 その2

 シャルルたちを囲む屈強なハンターたち。彼らはニヤリと笑いながらその距離を徐々に詰めてくる。


 シャルルは特に気にする様子を見せないが、ステラはシャルルにぎゅっとしがみつき不安そうにハンターたちを見上げていた。


 そんな彼らの間に一人の女性が割って入る。


「こらこら、怯えてるでしょ。はい、解散~」


 そう言って集まったハンターたちを追い払ったのは、ウェーブのかかったロングの茶髪を髪飾りで一本にまとめている受付嬢のルーシーだ。


「ちぇ~」


 ハンターたちは軽く舌打ちしつつも、名残惜しそうに笑顔(ちょっと怖い)でステラに手を振ったりしながら食堂スペースに戻って行く。


「まったく」


 しょうがないなぁといった感じでルーシーは彼らを見送ると、ステラの前にしゃがんで言った。


「大丈夫? 怖かった?」


「んーん。びっくりした」


「まあ、ギルドに子供が来る事は普通無いからな。珍しかったんだろう」


 そう言ってシャルルが頭をなでると、ステラは気持ちよさそうに目を細める。


 そんな様子を優しい笑顔で見つつ、ルーシーは再びステラに語りかけた。


「うふふ。私はルーシーよ。お名前は?」


「えっとね。すてらのなまえはね――」


 名前を尋ねられ、ステラは首をかしげながらシャルルを見る。


 だが、既に『ステラ』と言っているので、名前を理解したルーシーはステラが言い終わるのを待たず返事をした。


「へー。ステラちゃんっていうのね」


「うんっ!」


 ステラは元気良く頷き、それを見たシャルルは思う。


 よし、うまくいってるな。


 ステラは名前を聞かれると『エトワール』と言いそうになる事が何度もあり、そのたびにシャルルがフォローを入れる必要があった。


 ステラと呼ばれた場合は自分の事だと認識できるようなのだが、名前を聞かれると一瞬『エトワール』という単語が出てきてしまうらしい。


 そこでシャルルは彼女の一人称を『わたし』ではなく『すてら』にさせ、自分の名前がステラである事を強く認識させようとしたのだが――これは思わぬ副産物を生み出した。


 まず、しょっちゅう「すてらは~」と言うようになり、その時点で名前を認識した人はいちいち名前を聞かないようになる。


 そして、さっきのように名前を聞かれても「すてらのなまえは~」みたいに言うので、その時点で「ステラちゃんね」みたいに言われて『エトワール』という単語が出る可能性が極端に減ったのだ。


「ステラちゃんはおいくつ?」


 ルーシーが軽く首をかしげながら聞くと、ステラはまず自分を指差し、次にシャルルを指差してから言う。


「ふたつ?」


 その場に居たステラを除く、ルーシー、シャルル、パメラの三人は同時に同じ事を思った。


『それはなんの数?』と。


 そして――


 ルーシーは思った。何かもらえると思ってシャルルさんの分も含めて二つ欲しいって事かな?


 シャルルは思った。家族の人数か? だったら二つじゃなくて二人だと思うんだが……。


 パメラは思った。2歳って事かな? でもさすがにそれは無いよね……5歳くらいに見えるし。


 ルーシーは聞いた。「それはなんの数?」と。


 ステラは答えた。「わかんない」と。


 うーん、聞き方が悪かったのかなぁ……。


 そう思ったルーシーは改めて聞きなおす。


「ステラちゃんは何歳?」


 すると、ステラは両手を見てから両手の五本指を大きく広げてルーシーの前に差し出して言った。


「じゅっさい」


『え?』


 ルーシーとパメラの声がハモる。


「えー! さすがにそれはないでしょ」


「10歳には見えないけど……」


 ルーシーとパメラは顔を見合わせてからステラを見て、ほぼ同時に同じ質問をする。


『本当に10歳?』


 すると、ステラは首をかしげながら言った。


「わかんない」


 二人はもう一度顔を見合わせてからほぼ同時にシャルルに聞く。


「ステラちゃんは何歳?」


「いくつなんですか?」


 それに対しシャルルは肩をすくめ、両手の平を上に向け言う。


「さあ?」


「えー、教えてくださいよ」


「なんで秘密なんですか?」


 そう言って二人は詰め寄るが、シャルルは頭をかくポーズ(兜をかぶっているので頭に手をあてているだけだが)を取りつつ言った。


「やれやれ……ハンターギルドの受付なのに、ハンターの不文律も知らんのか?」


 ハンターの事を詮索してはいけないというハンターの不文律。だが――


「いや、ステラちゃんはハンターじゃないし」


 ルーシーの言葉にパメラも頷くが、シャルルは軽く首を振りつつ言う。


「いや、ステラは私の家族だからな。ステラの事を聞くのは私の事を聞くうちに入るぞ?」


「え~」


 それくらい教えてくれても良いのに……と思った二人は、なんか納得がいかないというふうな表情を見せる。


 確かに年齢くらいは教えても特に問題は無いだろう。


 だが、実のところシャルルもステラの正確な年齢を知らないのだ。


 シャルルもステラに歳を聞いた事はあるが、そのときも最初は「じゅっさい」と答え「本当に?」と聞くと「わかんない」と答えている。


 見た目や精神年齢から考えるとさすがに10歳はありえないとは思うのだが、文字や計算の知識を考えると見た目通りの5~6歳というのもそれはそれで変だ。


 間を取って7~8歳くらいと考えると成長が遅くて背が低いだけと考えれば無理やり納得できなくもないが――結局正確なところはわからないのでなんの意味も無い。


 そもそも1000年以上寝ていたのだから1000歳以上とも言えなくもないわけで……そう考えると正確な年齢などどうでも良い事だろう。



 その後シャルルはこの前受けた依頼の成否を確認し、特に問題なく成功の認定と報酬の振込みがあった事を確認すると食堂スペースに移動した。




 食堂スペースにいるのは数組のパーティと一人でカウンターやテーブル席に座っているハンターが数人。


 朝食には遅く昼食には早い時間なので、食事のためにいるのではなく打ち合わせや待ち合わせといったところなのだろう。


 シャルルは食堂スペースを見回すと、一人の少女に目をつける。


 それはポニーテールで緑髪のエルフの少女。話した事は無いが、午前中ここにいるのを良く見かける。


 いつも目が合うとすぐそらしてしまうものの、その前に会釈をするので礼儀正しい娘なのだろう。


 彼女からは魔法の力を感じるので魔術師か秘術師だと思われるが、防御力よりは機動性を重視しているようなその格好は、どちらかといえば魔術師っぽい感じがする。


 あの娘に聞いてみるか。


 シャルルはそう考えるが秘術師である可能性も考慮し、一応アナライズを使う。


 そして彼女が『ソーサラー 16/37』である事を確認すると、ステラの手を引いて近寄り話しかけた。


「一杯奢らせてもらえないか?」

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