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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード2 希望の星(エトワール)は遺跡に眠る
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家族 その3

 朝食を終え部屋に戻ったシャルルは、ベッドでごろごろ左右に回っているステラを見ながら考える。


 そういえば、さっき奥さんだとか夫婦だとか言ってたな……あれはなんだったんだろう?


「なあ、ステラ。私とお前は夫婦なのか?」


 ステラは半身を起こすと元気良く頷く。


「うんっ!」


「……それはいつからなんだ?」


 シャルルの言葉にステラは不思議そうに首をかしげる。


「しゃるーがわたしに『かぞくになろう』ってゆって、わたしが『うん』ってゆったときからだよ?」


「そうなのか?」


「そーだよ? かぞくじゃなかったおとこのひととー、おんなのひとがー、かぞくになるのを『けっこん』ってゆってー、そーするとふたりは『ふーふ』になるんだよ?」


「……なるほど」


 シャルルは思った。


 なんか違う気もするが……間違っているとも言い切れないな。


 そして訂正すべきか少し考えたが、結局放置する事にした。


 子供の言う事なので普通はさっきの女将のように『へー、そうなの』的な事を言ってスルーされるだろうし、逆に養女であるという事をはっきりと認識させてしまうとそれを誰かに言ってしまう可能性があるからだ。


 とはいえあちこちで吹聴されるとそれはそれで厄介なので、シャルルはステラがそれを口にしづらくなるよう一計を案じる事にした。


「なあ、ステラ。結婚って本当は大人じゃないとできないんだぞ?」


「えっ!? そーなの?」


 シャルルの言葉にステラは動揺し、おろおろし始める。


「おこられちゃう?」


「んー、そうだな。怒る人もいるかもしれないな」


 シャルルがそう言うと、ステラは口元を押さえて涙声で言う。


「ぐすっ。どーしよ。さっきゆっちゃった……」


 それを見てシャルルはちょっとかわいそうになりフォローを入れる事にする。


「あー、でも。女将は怒らなかっただろ? だからさっきのは大丈夫だ」


 その言葉にステラは両手を胸にあて心底ほっとしたような表情をみせた。


「よかったー」


「でも怒る人もいるかもしれないからあんまり他人には言うんじゃないぞ」


「うんっ」


 ステラは大きく頷く。


 さて、この件はこれで解決だ。だがほかにもいくつか口止めする必要がある事がある。


 シャルルはこの機会にと、それらも言っておく事にした。


「あー、それから。エトワールの事とかステラがどこから来たとかは絶対に誰にも言うなよ」


「なんでー? あっ、もしかしておこられちゃう?」


 最初は首をかしげたステラだったがはっとして口元を押さえる。


 どうやらさっきの今なので、シャルルが言いたい事をなんとなく理解したようだ。


 この子にとってやって良い事といけない事の境界線は怒られるかどうかなのか。子供らしいな……そう思いシャルルは少し笑いながら言う。


「そうだな。ステラだけじゃなく、たぶん私も怒られる。だからそれは誰にも言ってはいけないぞ。エトワールの事やどこから来たのかとか聞かれた場合は『わからない』と答えるんだ。いいな?」


「うんっ」


 ステラは再び大きく頷いた。


 小さい子だからこれで安心とはいかないが、ほかに取れる対策があるわけでもないので今はこれで良いだろう。


 この件もとりあえずは解決だな。


 そう思い頷いたシャルルは、なんとなくテーブルの上に置きっぱなしだった懐中時計を見た。


 現在の時刻は10時半。宿は基本的に11時くらいには追い出されるが、シャルルは月極めで部屋を借りているのでその点は問題ない。



 この宿は月極めで借りる事ができる。


 メリットとしては一泊の料金に比べいくらか割り引かれる事や、一日中いても良い事、部屋に荷物を置きっぱなしにできる事などがある。


 デメリットは部屋の鍵(南京錠)を自分で用意しなければならない事(受付で購入可能)や従業員が部屋の掃除をしてくれない事、そしてシーツと布団カバーの交換を自分でやらなければならない事などだ。


 ハンターの場合、依頼で外泊する事も多いので月極めにすると逆に損をする場合がある。そのため怪我などで休養を取る必要がある場合とかでない限り月極めにする事はまれだ。


 だが、シャルルは依頼をあまりやらないので月極めにしている。



 さて、これからどうするかな……。


 いつもならギルドに依頼の確認にでも行くところだが、それはしばらくは良いだろう。


 とりあえず早急に済まさなければならないのはステラの服や日用品の用意だ。


 再びベッドで左右にごろごろ転がっているステラに近づきシャルルは言った。


「買い物に行くぞ」


「ごはん?」


「買い物のあとでな」


「うんっ」


 ステラの手を引きながらシャルルは思う。


 連れて行かない方が用事は早く済むだろうが、一人で留守番させるのは心配すぎる。子供を買い物に連れて行く親というのはこんな気持ちなのかも知れんなぁ。





 部屋を斜めに横切る洗濯物を干すために張られたロープ。そこにはライトの魔術が付与されたタオルが二枚かけてあり、部屋を明るく照らしていた。


 ベッドの上にはゆったりとした白いワンピースが置かれ、その前には色違いの黒いワンピースを着たステラがいる。


 先の曲がったとんがり帽子をかぶせれば、絵に描いたような魔女といった感じの服装だ。


 ステラに向ってシャルルが言う。


「ほら、ばんざーいだ」


「ばんざーい」


 両手を上げたステラから着ていた黒いワンピースをすっぽり取ると、シャルルはベッドの上に置いてあった白いワンピースをつかみすっぽりとかぶせて着せる。


 そして服の中に入ってしまった長い黒髪を出した。


「よし」


 シャルルは軽く頷きつつ思う。やはりこれにして正解だったなと。


 ワンピースを買ったのには二つの理由がある。


 一つは着せ替えさせるのが楽だから。


 買ってすぐ着せたので着せるのが楽な事はわかっていたが、予想どおり脱がせるのも楽だという事が今、確認できた。


 もう一つの理由は洗うのが楽だから。


 シャルルの服はアイテムボックスに入れる事ができ、アイテムボックスにこの世界のものを入れる事はできない。


 つまり服についた汚れはアイテムボックスに入れたときこっちに残り、アイテムボックスから出した服はきれいになる。


 そういう理由から彼が洗濯するのは精々タオルくらいなので洗いものを増やしたくなかった。ワンピースなら一枚だし楽だろうという事だ。


 嬉しそうにワンピースのスカートをひらひらさせながらステラが回る。さっきのが魔女ならこっちは羽のない天使といった感じだろうか。


「えへへ。にあう?」


「ああ、良く似合ってる」


 買ったのは黒2着と白1着。正確には黒ではなく濃い紫だ。


 黒は普段着で白はパジャマ用。普段着を黒にしたのは汚しそうだから。


 これを買ったのは着替えさせたり洗ったりするのが楽そうだと思ったからで、似合う似合わないは二の次だったのだが……嬉しそうなステラを見てシャルルは再び思う。やはりこれにして正解だったなと。


「さて、寝るか」


「はーい」


 タオルを一つにまとめその上に真紅のマントをかける。


 マントは光を通さないが、折り目からもれた光が豆電球のようにうっすらと部屋を照らす。


 ブーツを脱いでシャルルがベッドに横になると、ステラも靴を脱いで同じベッドに入って来る。


「お前のベッドは――」


 そこまで言ってシャルルは今朝の事を思い出す。


「ああ、家族は一緒に寝るんだっけ」


「うんっ」


 程なくしてステラは寝息を立て始め、シャルルは薄暗い部屋を見ながら思った。


 真っ暗だと嫌がりそうだからこうしたけど……私は明るいと眠れないんだよなぁ。

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