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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード2 希望の星(エトワール)は遺跡に眠る
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家族 その2

 朝食の時間にはやや遅い食堂。ここは宿泊客しか使わない食堂なので当然のように誰もいない。もちろん従業員もだ。


 仕方なくシャルルは無人のカウンターに向って言う。


「女将、いるか?」


 するとしばしの沈黙のあと、「はーい」と言う声が聞こえてくる。そして更にしばらくすると奥から中年のややふくよかな女性が出てきた。


「はいはい、おまたせしましたよっと」


「こんな時間に悪いな」


「いえいえ……あら? もしかして、あんたシャルルさんかい?」


 女将が首をかしげる。


「ん? そうだが?」


「あらやだ。いつもの格好じゃないから誰かと思っちゃったわよ」


「ああ……」


 昨日ヨシュアに言われた通りなんだな。そう思いシャルルは苦笑する。


「鎧はメンテナンスかなんかかい?」


「まあ、そんなところだ」


「じゃあ、しばらくは身軽で良いわねぇ」


「まあ、そうかもな」



 戦士系ハンターは普段から装備品を身に着けたままの者が多い。


 これは普段から装備の重さに慣れておけばオーラを張ったときにすばやく動けるからとか、体を鍛えるためなどの理由なのだが、シャルルの場合は事情が異なる。


 シャルルの装備――つまりアナザーワールド2のアイテムは、『使用者のレベルが装備に必要なレベル以上あれば』オーラを張らなくても重さをほぼ感じない。


 つまり、シャルルにとっては服を着ているようなものなので装備しっぱなしなのだ。


 ちなみに無理やりステラに着せている漆黒のローブは所詮ローブなのでレベルが足りてなくても大して重くはない。


 もっともステラは子供なのでやや重そうにはしているが。



「朝食を二人分頼む」


「二人分?」


 シャルルしかいないと思っていた女将は首をかしげるが、それを聞いて彼の後ろに隠れつつ女将を見上げていた女の子に気づく。


「あら、かわいい。お嬢ちゃん、お名前は?」


 女将の問いにステラは首をかしげながら答える。


「えと、えとわー……」


 まてい!


 シャルルはあわててステラの言葉に重ねて言う。


「この子はステラ。私の家族だ」


「まあ、ステラちゃんっていうのね」


「うんっ」


 微笑む女将に満面の笑みでステラは返事をした。


 女将はシャルルとステラを見比べて言う。


「へぇ、似てるわね。シャルルさんの妹さんかしら? あ、もしかして娘さん?」


 問われてシャルルは考える。


 引き取ったのだから娘だろうか? だが、それだと母親は誰かという突込みが入ったりして面倒な事になるかもしれない。


 となると妹というのが無難か? まあハンターに余計な突っ込みを入れる奴はあまりいないだろうし『さあな』とでも言ってごまかしておくか……と思ったが、シャルルが長考している間にステラは予期せぬ事を言い出した。


「ちがうよー。わたしはねー、しゃるーのおくさんなの。しゃるーとわたしはふーふなんだよー」


 は?


 シャルルは一瞬思考が停止するが、女将はステラの言葉を『お父さんのお嫁さんになる』みたいな事だと思い言った。


「あらまあ、かわいい奥さんね」


「えへへ」


 ステラは軽く頭をかきながら嬉しそうに笑い、女将も笑い返す。


 女将はこれ以上この件について突っ込みを入れなさそうな雰囲気なので、シャルルも余計な事は言わずスルーする事にした。


「で、朝食なんだが……」


「はいはい。あ、ステラちゃんの分は少なめが良いかしら?」


「ん? ああ、そうだな」


 言われてみれば子供は一人前も食べられないだろう。シャルルはそう思ったのだが、ステラは頬を膨らませて言った。


「えー、すくないのやっ。しゃるーといっしょがいー」


「そんなに食べられるのかい?」


「おなかぺこぺこだよ?」


 一人前で良いの? と訴えかけるように女将はちらちらとシャルルを見るが、シャルルには子供がどれくらい食べるのかがいまいちよくわからない。


「残さず食べられるか?」


「うんっ」


 まあ、食べられると言っているのだし、一度食べさせてみるしかないだろう。


「二人前頼む」


「はーい」


「やったー」


 嬉しそうにステラはシャルルに抱きつく。


 そして、シャルルはステラを持ち上げてカウンターに座らせるが――


「女将、この子にこのカウンターは高すぎる。イスに置ける台になるようなものはないか?」


「んー、適当なものだと危ないし、探しとくけどすぐには無理よ」


 確かに安定性の悪いものだとイスから落ちる危険がある。


 ちょっと食べづらいが今は仕方ないか……と考え、シャルルはステラをひざの上に座らせる事にした。




 シャルルのひざの上でステラは機嫌よくハムとレタスを挟んだパンをかじる。


 時々口に運ぶスープをすくう木のスプーンの持ち方がグーなのが気になるが、これは後々躾ければ良いだろう。


 このペースなら一人分くらい普通に食べられそうだなと思いつつシャルルも朝食を取るが――程なくしてステラの手は止まった。


「しゃるー。もう、おなかいっぱい」


「お前……食べられるって――」


 言っただろ。シャルルはそう注意しようと思ったがやめた。


 最終的に二人前の注文をする事にしたのはシャルルであり、ステラの責任だとは言い切れない。それなのにステラを叱るのもなんか違う気がしたからだ。


 次から気をつけようと思いつつ、シャルルはステラが残したものを見る。


 彼女が食べたのは出された分の半分程度。二つあったパンは一つと三分の一程度食べているが、スープは半分以上残っている。


 そしてスープの残りで目立つのはオレンジ色の野菜――人参だ。


「人参嫌いか?」


 シャルルの問いにステラは一瞬ビクッと動いた後、無言であさっての方を向く。


 その態度から彼女は人参が嫌いなのであろう事を察するが、好き嫌いは良くないな……と思ったシャルルは少しでも食べさせようとする。


 彼はスプーンで人参をすくうとステラの口元に持って行って言った。


「最後にこれだけ食べてしまおうか」


「んーんー」


 ステラは必死で口を閉じて首を振る。


 無理に食べさせると余計に苦手意識を持ってしまうかもしれん……そう考えシャルルは諦めかけるが――


「ステラちゃん。人参食べられたらこれ一個あげるわよ」


 そう言って、女将は木製の小さい容器に入った赤、青、黄といった色とりどりの飴玉を見せた。


 それを見てステラの目が輝く。


「きれー」


 ステラはそれに手を伸ばすが、女将はスッと容器を引っ込めて言った。


「人参を食べられたらよ」


「うー」


 ステラは人参と飴玉を何度も交互に見てから、意を決したように大きく口を開く。


 シャルルがその口の中に人参の乗ったスプーンを入れると口を閉じ、目を閉じながらもぐもぐと口を動かし、そして飲み込んだ。


「たべたよー」


「ふふ、偉いわね」


 女将がステラの頭をなでながら飴玉の入った容器を差し出すと、ステラはその中から赤い飴玉を一つとって口に入れる。


「おいしー」


「うふふ」


 ステラが嬉しそうに笑い、それを見て女将も笑顔をみせ、そしてシャルルも少し口元を緩めた。

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