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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード2 希望の星(エトワール)は遺跡に眠る
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家族 その1

 閉じられた木窓の隙間から、わずかに光が差し込む薄暗い宿屋の一室。


 ベッドで寝ていたシャルルは右頬をぐいぐいと押すなにかの圧力で目を覚ました。


 右頬を押していたのは小さな足。そしてその先には本体である幼女――ステラが見える。


 隣のベッドに寝かせたはずだが……寝ぼけてこっちに来たのか?


 そんな事を考えつつシャルルが半身を起こすと、少しベッドが揺れたからなのかステラも目を覚ます。


 シャルルは隣のベッドを指しながらステラに言う。


「お前のベッドはあっちだろ?」


 するとステラは寝ぼけ眼をこすりつつ答えた。


「かぞくはいっしょにねるんだよ?」


「そうかぁ?」


「そーだよ」


「そうか……」


 まあ、子供はそういうものなのかもしれないな。


 なんとなく納得してシャルルは頷く。


「あっ」


 ステラはなにかを思い出したように目を見開くと、立ち上がりシャルルの頬にキスをして言った。


「おはよー、しゃるー」


 そこはお前がかかとでぐりぐりしてたところだぞ……汚いだろ。


 そんな事を思いつつ、ステラの頭をなでながらシャルルも挨拶を返す。


「おはよう、ステラ」


 さて、今日はどうするかな? 腕を組みながら考えていると、シャルルはステラがじっと自分を見つめている事に気づく。


「どうかしたか?」


「しゃるー、ちゅーは?」


「ちゅー?」


「おはよーのちゅー」


 なるほど……この世界は全体的に洋風。子供との朝の挨拶はキスが普通なのか。


 再びなんとなく納得したシャルルがステラの前髪を上げおでこにキスをすると、彼女は満足そうな笑顔をみせた。




 朝の挨拶を終え閉まっていた窓を開けると、鳴り響く鐘の音が聞こえてくる。時を知らせる教会の鐘だ。


 教会の鐘は朝6時から3時間おきに鳴らされるが、街の雰囲気は早朝とは思えない。昼という感じでもないのでたぶん9時なのだろう。


 一応確認しておこうとシャルルはテーブルの上にある道具袋から懐中時計を取り出す。


 この時計、形こそ懐中時計だが、手のひらにはなんとか収まるものの小型の置時計くらいの大きさがある。


 カバーを開ききれば自立させる事も可能なので、懐中と言うよりは携帯時計といった感じだ。


 カバーを開けて文字盤を見ると時刻は4時ちょっと過ぎ。それを見て寝る前にねじを巻くのを忘れていた事にシャルルは気づく。


 まあ9時だろう……と考え文字盤の長針を指でぐるぐる動かして9時ちょっと過ぎに合わせると、時計の上部についているねじを回しながら二度寝しているステラを見て彼は思った。


 手術着みたいなあの服は目立つ――と言うか明らかに不自然だな。早急になんとかする必要がある。


 しかし……1000年以上寝ていたというのにまだ寝るのか。


 ステラは時間が止められていたのであって、その期間寝ていたわけではない。だが、昨日は夜9時には寝ていたので12時間程度は寝ている。


 子供とはいえ睡眠は十分だろう。


 とりあえず暫定処置として、シャルルはアイテムボックスから漆黒のローブを取り出し、道具袋から取り出した紐を使ってローブを折ったりまくったりして、半分寝ねがらふらふらしているステラに着せる。


 そして寝ぼけ眼のステラの手を引くと、木のコップと歯ブラシを持って一階の洗面所に向った。




 洗面所には数人が一緒に使えるコンクリート製っぽい洗面台があり、レバー式の蛇口がついた樽が二つほど置いてある。


 この樽は水道の代わりで、顔を洗ったり歯を磨いたりするのに使う。


 しかし、洗面の樽は頻繁には洗わないのであまりきれいだとはいえない。


 まあ飲用に適さないというだけで、さほど汚いわけでもないが。


 ステラと共に洗面所に来たシャルルは、樽の水は使わず魔術で出した水で顔を洗い首にかけたタオルで顔をぬぐう。


 そして辺りを見回して台になりそうなものが無い事を確認すると、洗面台に届くようにステラを抱え上げた。


「水出すけど自分で顔を洗えるか?」


「うんっ!」


 ステラは元気良く返事するが、合わせた両手は指が思いっきり開いている。このまま自分で顔を洗わせたらたぶんびしゃびしゃになるだろう。


 シャルルはステラを下ろすとまた水を出し、タオルをぬらしてから絞ってそれでステラの顔を拭いた。


「んーん、んー」


「よし、きれいになった」


 自分で顔を洗う気だったステラは『あれ?』といった感じで首をかしげる。


 続いてシャルルは歯を磨き始めるがステラには歯ブラシがない。


 コップはともかく歯ブラシを共用というのはさすがに嫌なので、とりあえず今回はうがいだけさせる事にした。


 シャルルはまず手本を見せる。


「いいか? こう、水を含んで……」


 ぶくぶくぶくぶく――ぺっ。


「わかったか?」


「うん」


 シャルルはコップに水を注いでステラに渡すと洗面台の高さまで彼女を持ち上げる。


 そしてステラはコップの水を含んで――


 がらがら。


「ちがう! こうだ」


 シャルルは頬を動かしぶくぶくの手本を見せる。


 ステラは頷くと――


 ぶくぶくぶくぶく。


「よし、最後はぺっだ」


 ぺっ。


 終わってステラを下ろすと、彼女はシャルルを見て誇らしげに胸を張っていた。


 まるで『できたよ! ほめて』と訴えかけているようだな……とシャルルが思うと――


「できたよー。えらい?」と言ってステラは首をかしげる。


 実際に言うのかよ……と思いつつも「ああ、偉いな」と言ってシャルルが頭をなでてやると、ステラは気持ちよさそうに目を細めた。




 歯磨きが終わり、コップと歯ブラシを置きに部屋に戻ろうとしたシャルルのズボンを引っ張りつつステラが言う。


「しゃるー、おなかすいた」


「言われてみれば……私もそうだな」


 シャルルは昨日の昼からなにも食べてなかった事を思い出す。


 混雑時ならともかく今ならコップはここに置いておいても問題ないだろう。


「よし、朝ごはんにするか」


「うんっ」


 コップはあとで持って行く事にして、とりあえず宿の食堂に向った。

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