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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード2 希望の星(エトワール)は遺跡に眠る
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希望の星(エトワール) その3

 シャルルが『メッセージを消去してエトワール・トロワジエムを起こす』を選択すると、カプセルについた緑のランプが消え赤いランプが点灯する。


 そしてモニターには『しばらくお待ちください』というメッセージと進捗状況のパーセンテージが現れた。


 カウントは1、2、3、4と一定の速度で進んでいたが30パーセントで停滞し、次はいきなり50パーセントになる。


「どこがパーセントやねん」


 シャルルは思わず突っ込みを入れた。


 パーセンテージはあくまで進捗状況であり、かかる時間ではないという事なのだろうが――なんか納得いかない気分だ。


 こうして95パーセントで停滞したり、100パーセントになってもしばらく終わらなかったりというお約束のあと赤いランプが消え、カプセルの上半分、透明な部分が溶けるように消える。


 そして中にいた女の子はゆっくりと目を開け、半身を起こすとシャルルを見て言った。


「おいしゃさん?」


 お医者さんとは恐らくここでエトワール計画を実行していた者の事だろう。


 だがシャルルは兜をかぶったままのいつのも格好だ。


 こんな格好の医者がいるかよ……と思いつつシャルルは答えた。


「違う」


 シャルルの答えに女の子は不思議そうに首をかしげる。


 さて、どうしたものか……シャルルはとりあえず名前を聞く事にした。


「私はシャルル。君の名前は?」


 女の子は再び首をかしげながら答える。


「えとわーる?」


「いや、それは名前じゃないだろ」


 もしかしたらたまたま本名もエトワールだという可能性もゼロではないが、疑問系で答えているのでたぶん違う。


「でもおいしゃさんはそーゆってたよ?」


 どうやらここにいた奴らはそう呼んでいたようだ。


 だが、ここにいた連中にとってこの子は『道具』でしかない。だから本名ではなくそういう呼称を使っていたのだろう。


「本当の名前はわからないのか?」


「えとわーる?」


「それ以外で」


 だが少女はしきりに首をかしげる。


「何か覚えている事はないのか?」


「えっと……わたしががんばってつよくなって、どらごんをいっぱいやっつけると、みんながしあわせになって、おとーさんとおかーさんにあえるようになるの。おいしゃさんがそーゆってた」


 エトワール・ドゥズィエムが言っていた通りなら、この娘はたぶん孤児でお父さんもお母さんもいないはずだ。


 まあ1000年以上経っているだろうから、孤児じゃなかったとしても、もういないだろうが。


「ほかに覚えている事は?」


「みんなは?」


 質問に質問をかぶせるなよ……と一瞬イラっとしたが、子供だから仕方ないかとシャルルは思う。


 そして考える。


 みんなとは一緒に連れてこられた孤児たちの事だろうか? だとしたら――


「いない」


 シャルルの返事に女の子はきょとんとした顔をする。


「おいしゃさんは?」


「いない」


 と言うか……たぶんここにはシャルルとこの娘しかいない。


「だれもいないの?」


「そうだ」


「じゃあ……わたしは……ひとりぼっち?」


 目線を下げ、自分の足の先あたりを見ながら女の子はさびしそうに聞く。


「……そうだな」


 シャルルがそう言うと一度がっくりと肩を落とし、次に顔を上げて大声で泣き出す。


「う、うぁーん。おとーさん、おかーさん、おかーさん、おかーさん」


 泣いている女の子を見ながらシャルルは思った。


 この娘は自分と少し似ているな……。


 1000年以上の時を越えて現代に目覚めたのだ。すべてが大きく変わっているはずで、それはもう異世界に飛ばされるのと大差ないだろう。


 それに黒髪長髪、やや褐色の肌、黒い瞳など容姿も似ているので、なんとなく親近感も沸いてくる。


「うぁーん。おかーさん、おかーさん」


 しかし……一番に言ってもらえたとはいえ、一回しか言ってもらえないお父さんが不憫だな。などと思いつつ、シャルルは女の子の頭をなでながら言った。


 お母さんにはなれないが――


「私と家族にならないか?」


 シャルルの言葉を聞くと、女の子は急に泣き止み濡れた瞳でシャルルの顔をじっと見つめるとつぶやく。


「かぞく……」


 そして女の子は少しだけ思い出す。それは霞がかかったような記憶。顔は思い出せないけど温かいお母さんとの想い出――



 お母さんはひざの上に乗せた女の子の頭を優しくなで、女の子は気持ち良さそうに目を細めながら言う。


「わたしはうまれたときから、おとーさんとおかーさんとかぞく?」


「そうよ。生まれたときから家族よ」


「おとーさんとおかーさんもうまれたときからかぞく?」


「お父さんとお母さんはね、最初は家族じゃなかったの」


 女の子の質問にお母さんは笑い、お母さんの答えに女の子は首をかしげる。


「じゃあ、いつからかぞく?」


「それはね。お父さんがお母さんに『家族になろう』って言って、お母さんが『うん』って答えたときからよ。そして私たちは結婚して夫婦になったの」


 そう言うとお母さんは嬉しそうに笑った。



 女の子は思う。


 これって『ぷろぽーず』ってゆーのだ。わたしが『うん』ってゆーと、ふーふになってかぞくになるんだ。


 女の子はゆっくり頷くとにっこりと笑って言った。


「うんっ」

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