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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード2 希望の星(エトワール)は遺跡に眠る
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希望の星(エトワール) その2

 部屋に入ったシャルルは驚愕する。


 そこは研究室といった雰囲気で、壁には巨大なスクリーンとコンピューターらしきものがあり、中央には手術着みたいな水色っぽい服を着せられた少女が入ったカプセルのようなものがあった。


 シャルルは思う。ついさっきまでこの世界はファンタジーだと思っていたんだがSFだったか……と。


 そして、どうせならカプセルの中は液体で満たされていて、体によくわからないコードがついた全裸の美女の方がもっとSFっぽいんだがなぁ……などと思いつつ少女を観察する。


 腰くらいまである黒髪。薄い褐色の肌とやや尖り気味な耳。年齢は5~6歳といったところだろうか? かなり幼い印象を受ける事から少女と言うより幼女といった感じだ。


 特徴から考えるに魔族なのだろうが、アナライズが効かない事を考えると生きてはいないのだろう。


 冷凍保存みたいな事をされている死体なのかもしれないが、それにしては顔色が良い感じもする。


 カプセルには『エトワール・トロワジエム』と書いてあり、赤と緑のランプがついていて緑の方が点灯していた。


「あーあー」


「うおっ!」


 気配のないところからの音声にシャルルは驚き振り返る。


 音声の出所は壁のスクリーンで、映っている銀髪の女性がゴホンと咳払いをした。


「私はエトワール・ドゥズィエム。『エトワール計画』二番目の成功例です」


 そして彼女は語りだす。かつてあった悲劇とそれを知った彼女がなにをしたのかを。



 彼女はドラゴンと戦う魔術師『エトワール』だった。仲間である魔術師『エスペランス』と共にドラゴンから人類を守る希望の星。


 ドラゴンを倒してみんなを幸せにしたい――そんな希望を抱いて彼女は戦っていた。


 だが彼女はあるとき知ってしまう。自分と仲間たちは禁忌の術によって生み出された者である事、そしてその術によって起きている悲劇を。


 エトワール計画は人類の潜在能力を飛躍的に上昇させる魔法技術でドラゴンに対抗できる魔術師を作り出す計画。成功率は極めて低く失敗すれば死亡する。


 そのため、それは集められた孤児で行われていた。


 そして彼女は自分と同じ境遇の孤児たちが今も犠牲になっている事や、そうやって作られた者たちを『戦いの道具』として鍛え戦場に送り出している者たちを守るために戦っていた事を知る。


 真実を知った彼女は賛同する仲間と共に、それを行っている施設を襲い孤児たちを救出して行った。


 ここもそういう施設の一つ。ここには『エトワール計画』三番目の成功例、エトワール・トロワジエムがいた。


 エトワール計画は成功しても状態を安定させるために最低数年は動かせない。


 まだその期間らしく、発見されたエトワール・トロワジエムは肉体の時間を止めるカプセルに入れられている状態だった。


 動かすのは危険すぎるため、彼女はやむなくそのままにして立ち去る事にする。


 自分が再びここを訪れるまで誰かに入られないように、この部屋の扉は自分と同等の力を持つ者でないと開かないように設定して。



「このメッセージを聞いている人がいるとしたら、私はここに戻って来る事ができなかったという事です。そしてこのメッセージを聞いているという事は、あなたは私と同じくらいの力を持つ人でしょう。そんなあなたに彼女の力は必要ないはず。お願いします。この子を『戦いの道具』にしないで。普通の……普通の人生を送らせてあげてください」



 メッセージが終わると画面には『メッセージを消去してエトワール・トロワジエムを起こす』『聴きなおす』という文字が表示された。


 留守電かよ……などと思いつつ、カプセルに入った幼女を見てシャルルは考える。


 ドラゴンを倒せるほどの潜在能力という事は、最低でもクラス3(上限レベル41~60)以上。エトワールはエスペランスよりも潜在能力が高いようなので、クラスは4か5(上限レベル61~100)なのだろう。


 この世界にドラゴンの脅威がある以上、権力者がそんな潜在能力がある者を手に入れて『戦いの道具』にしないという事はありえない。


 それが例え自分がドラゴンを余裕で倒せるラーサーであったとしても。


 まあ、ラーサーなら道具扱いはしないかもしれないが、ヨシュアの言う事が正しければゴーレムの排除を依頼したのはマリオン。


 奴が手に入れた場合、確実に『戦いの道具』としてこの娘には過酷な運命が待っているはずだ。


 シャルルが遺跡に入らなければこの扉は開かずにマリオンがこの娘を手に入れる事もなかった可能性もあるわけで……放置してそうなったらそれはシャルルのせいと言えなくもない。


 さすがにそれは気分が悪いなぁと思いつつも、連れ帰ったらそれはそれでトラブルの元。孤児院とかに預けても、どうせその後どうなったのかはずっと気になり続ける事になる。


 結局起こした場合は自分で面倒を見るしかないだろう。


 眉をひそめてシャルルはつぶやく。


「めんどくさい……」


 シャルルはもう一つの可能性を考える。すでに死んでいるという可能性だ。


 この遺跡は少なくとも1000年以上前のもの。アナライズも効かないし、SFでもよくあるように、カプセルを開けると体が崩壊して塵のようになる可能性だって――ないな。


 アナライズが効かないのは肉体の時間を止めているからだろうし、ここのシステムが生きている以上その可能性は極めて低い。


「あー、もう。しょうがない」


 起こさずに帰ったら永遠に気になり続ける。それをここで放置できる性格なら、そもそもこの遺跡に入っていないのだ。


 結局シャルルは覚悟を決め起こす事にした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 遂に冒頭の幼女の登場ですね。 またマリオンとは衝突しそうですね(笑) 続き楽しみにしてます。 [気になる点] 戦闘描写をもう少し書いてほしいです。 なんかいつの間にか倒してるようにしか 見…
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