表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード2 希望の星(エトワール)は遺跡に眠る
25/227

ゴーレム討伐 その2

 ハンターギルドの食堂スペース。向かい合って昼食を取りながらシャルルはヨシュアに聞く。


「さっき私の依頼書を見て『お前んとこに回された』と言っていたが、どういう意味だ?」


「そのまんまの意味だよ。その依頼、最初は俺んとこに来たんだ。もっとも俺らは達成できずこのざまだ」


 そう言うと包帯の巻かれた左腕を軽く上げる。


「つまり、あんたがキャンセルしたから私のところに回って来たと」


「そういう事だ。自慢じゃないがこの都市にいるゴールドハンターは俺だけだからな。俺に無理ならお前に回すしかないだろ。レベル2とはいえお前の強さはみんな知ってる。討伐にハンターの経験はあまり関係ないしな」


「なるほどね」


 という事は、やはりヨシュアはその『石のような怪物』と戦っているという事だ。彼に聞けばそれがどういうものなのかはっきりするだろう。


 だが、シャルルには気になる事がもう一つあったので、とりあえずそっちを先に聞く。


「ところでなんで怪我は完治させないんだ?」


「それは秘術師に頼んでって事か? そんな事をしたら寿命が縮むだろ」


「寿命が縮む?」


 シャルルは首をひねる。


 秘術師はゲームで言うところの聖職者系クラス。秘術こと神聖魔法を使えるクラスだ。


 ゲームとの違いはスキルポイントの回復魔法であるリカバリ系魔法がオーラ、つまりヒットポイントの回復になっている事と、ヒットポイントの回復魔法であるヒール系魔法が怪我の回復になっているところ。


 つまり怪我を治療する魔法(秘術)が存在する。


 低レベルでも時間をかければどんな怪我でも治りそうなものだが……。


「そりゃお前、秘術での回復には『受ける側の体力と生命力も使う』んだから、無駄に完治なんかさせたら体への負担がやばいだろ。生命力は減ると回復しないといわれてるし、大怪我を治したら『怪我のない死体』ができたって話だってあるからな。切り傷なら止血程度、骨折なら骨をくっつけるだけで痛みが消えるまでは安静にするのが『常識』だ」


「へぇ……そうなのか」


 これは非常に重要な情報だ。知らずに大怪我をして完全回復とかしてもらっていたらやばい事になっていたかもしれない。


 そして、『常識』はいちいち教えてくれる人がいないから気をつける必要があるな……とシャルルは思う。


「と言うか……一般人ならともかく、ハンターなら知ってて当たり前の事だろ。そんな事も知らずにお前は一体どこでその強さ――いや、なんでもない」


 シャルルのあまりの知識のなさに、ヨシュアは思わず過去を聞きそうになる。だが、それはハンターの不文律に反する事。ヨシュアは慌てて口をつぐむ。


「じゃあ、怪我を治す秘術って、高位のものでも回復にかかる時間が早いだけなのか?」


「いや、秘術師の能力と使う秘術によって受ける側の負担は変わってくるらしいから、当然高度な秘術を使える秘術師ほど受ける側の負担は下がり、回復にかかる時間も短いらしい」


 つまり魔法レベルが高い回復魔法なら完治させても大丈夫という事だろう。


 この世界にそんなものを使える秘術師は滅多にいないだろうが。


「なるほどね。ところで『石のような怪物』についてなんだが……」


「ああ、『ゴーレム』の事か」


 ゴーレムと聞いてシャルルは考える。


 それは確かにファンタジーにはよく出て来るが、どう考えても生物じゃない。強いて言うなら魔法生物といった感じのものだろうが、この世界にはそういうタイプも普通にいるのだろうか?


「それって、その辺によくいるのか?」


「いるわけないだろ。ゴーレムは『遺跡』のガーディアン(守護者)だ。遺跡やそれがあった場所のそばにしか出ない」


「遺跡って?」


 シャルルは聞き慣れない言葉に聞き返す。


「そこからか……」


 ヨシュアはやれやれといった表情をしつつ思う。こいつは世間知らずなところが結構ある気がするし今更だなと。


 そして、どうせわからないのだろうからと、なるべく詳しく説明する事にした。


「古代の魔族が遺したっていう遺跡だ。アーティファクト――まあ現代技術じゃ作れないすごい魔法道具とかだな。そういうものが眠ってたりする遺跡で、聖王暦前にはすでにあったという記録が残ってる」



 聖王暦。聖王教が作った大陸統一暦で、聖王が降臨した年を元年とする暦。リベランドが採用した事で事実上の大陸統一暦となった。


 ちなみに魔導帝国では初代皇帝が白竜王を討伐した年を元年とした魔導暦を使用しているが、聖王の降臨と同年であるため年数は同じである。



「今年は聖王暦1035年だから――1000年以上前のものって事か」


「最低でもな。聖王暦前どころか数千年から数万年前の文明なんて言う奴もいる」


 それを聞きシャルルはなんとなく理解した。


 ファンタジーでは古代文明の方が発達していたというのはよくあるが、たぶんその類だろう。いわゆる超古代文明という奴だ。


「となると、その遺跡を守るゴーレムも凄まじい強さなのか?」


「いや、確かにゴーレムは強いんだが……普通はゴールドハンターのパーティが倒せないほど強くはない。俺は前にほかでやった事があるが、そのときは問題なく倒せた。だが今回は段違いだ。大きさも俺の知っているのより大きかったし、最低でもゴールドハンターが数人は必要だろう」


「なるほど……なかなか厄介そうだな」


 シャルルの言葉にヨシュアは笑いながら言う。


「さすがにドラゴンを倒したお前なら問題ないと思うぞ」


「そうか? でもやるからには万全を期したい。何かアドバイスがあったらもらえないか?」


 ヨシュアは少し考える仕草をしてから言った。


「そうだな……ゴーレムはいきなり現れるから初撃に気をつけた方が良い。なんと言うか、最初は気配を感じないんだ」


「へぇ」


 これは重要だ。あらかじめオーラを張っておく必要がある。


「それから、ゴーレムはさっきも言った通り遺跡を守っているから、ある程度離れると追ってこない。そのおかげで俺たちは生きて戻ってこられたってわけだ」


 これは自分には関係なさそうだなとシャルルは思う。だが、一応知識として持っておいて損はない。


「なるほど。ほかには?」


「んー。ゴーレムについてはそれくらいだが……」


 ヨシュアはあごに手をあて考えてから言う。


「これは、ここだけの話だが――依頼人はたぶん『シーランの公子』だ」


「ん?」


 シャルルは意味がわからず首をかしげる。なぜなら依頼書に書かれた依頼人の名前はマリオンではなかったからだ。


 だが、ヨシュアはそれを察して続ける。


「俺のときも依頼人の名前は公子じゃなかった。さっき見えたお前の依頼書の依頼人とも違う名前だ。だが、恐らくどちらも公子の配下か何かだろう」


「よくそんな事がわかるな」


 マリオンの部下の名前を全部覚えているのか? こいつってもしかして、元マリオンの部下だったとか? などとシャルルは思ったが違った。


「遺跡調査ってのは普通領主がやるもんだ。だから遺跡を守るゴーレムの討伐なんかも普通は領主か都市の名義で依頼を出す。だが、依頼主はそのどちらでもなかった。だから何か裏があるのかもしれないと思い気になってツテを使って調べたんだが、依頼人はシーラン公子の配下だと思われる貴族だった。まあ、公子の配下が依頼人なら特に裏とかなさそうだけどな」


「なるほどねぇ」


「もっとも仮に裏があったとしても、こっちはハンターギルドに来た依頼を受けただけだから咎められる事はないけどな」


「なるほど」


 つまり……どうでも良い情報だ。


「ほかには?」


「昼食一回でずいぶん聞くな」


 ヨシュアは苦笑する。


「この依頼がうまく行ったら良い酒でも奢るさ」


 シャルルは笑う。


「でも、もう特に教えられる事はないぞ。あとは……知ってるかもしれないが、ハンターライセンスがあれば通用門が使えるから西門から行った方が早い」


「それは知ってた」



 そして、昼食を終えたシャルルはパメラに依頼を受ける事を告げ、華鳥を借りて早速現地に向った。




 森の中を進み目印である盛り上がった崖のような場所をみつけたシャルルは、少し離れた場所で華鳥から降り適当な木にそれを繋ぐ。


 近くに獣の気配は感じられないので、なるべく鳥が見える場所を散策すれば問題はないだろう。


 そして、ヨシュアの忠告どおりいきなり飛んでくるかもしれない初撃に備えオーラを張り崖のあたりを調べていると、それはいきなり飛んできた。


 薙ぐような巨大な手。


 それは確かに気配を感じなかった。だが風を切る音が接近を伝え、シャルルはそれを難なく避ける。


 少し離れた場所にいる鳥が騒いでいるが、きちんと結ばれた紐は鳥を逃がさないでいてくれた。


 立ち上がったゴーレムはずんぐりむっくりした頭のない石像といった感じで、この前のドラゴンの6~7割くらいの大きさがある。


 シャルルはこんなのになぜ気づかなかったのかと一瞬思ったが、崖の一部がなくなっている事に気づきそれに擬態していた事に気づく。


 シャルルは少し距離を取りアナライズを使う。


 それにより、そいつが『ハイクラスゴーレム 60』という事がわかった。


 ハイクラスというのがついているという事は、たぶん下位にノーマルなゴーレムも存在するのだろう。


 レベル60というとこの前のドラゴンと大差ない。さすがにヨシュアじゃ無理だなとシャルルは苦笑する。


 レベルに上限表示が無いという事をは、たぶん成長はしないのだろう。


 つまりそれは生まれたときからこの強さという事で、恐らくこいつは古代魔族の作った兵器か何かだ。


 だが、この程度ならシャルルの敵ではない。


 この前のドラゴンと同じようにダメージを与えても見た目は回復して行くが、そのマナ(マジックポイント)に似たオーラだか生命力だかそんな感じのものが小さくなって行くのを感じる。


 そしてそれがほとんどなくなった頃、見た目の回復も止まりゴーレムは沈黙した。


 シャルルはぼそりとつぶやく。


「なんか、ドラゴンのときと似てるな……」


 似てると言うかほぼ同じ。違うのは、この前倒したドラゴンの体は魔石でできていたが、ゴーレムの残骸はただの石にしか見えない事くらいだ。


 まあ、これで終わりなら楽な仕事だろう。


 敵がドラゴン並みの強さだった事を考えると報酬は激安だが、シャルルにとってはその辺の獣を狩るのと大して変わらない。


「さて、帰るか……」


 つぶやきながらゴーレムの体だった石を一つ拾い、帰路に着こうと思ったシャルル。その目に思ってもないものが映る。


 それはゴーレムが擬態していた場所だと思われる崖の削れた部分に見えた扉。


 その扉を見たシャルルは思った。『次元の扉』に似ていると。

お読みくださりありがとうございます。

プロローグ『異世界でのとある日常』は『ゴーレム討伐 その1』の冒頭に載せる予定の部分でした。

話のバランスとしてはそっちの方が良かったかもしれません。

ご意見等ございましたら、感想などでお教えいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この話と同一世界で別主人公の話

『小さな村の勇者(完結済)』

も読んでみてください

よろしければ『いいね』や『ポイント』で本作の応援もお願いします

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ