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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード2 希望の星(エトワール)は遺跡に眠る
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ゴーレム討伐 その1

 マリオン邸の執務室。マリオンが書類整理をしているとノックの音が響く。


「ルーカスです。入室のご許可をいただけますでしょうか?」


「入れ」


「失礼します」


 ドアノブがゆっくりとまわり扉が静かに開けられる。


 そして静かに閉められ、ルーカスはゆっくりとマリオンの前まで歩いて行く。


「マリオン様。残念なご報告をしなければなりません」


「ふむ。申せ」


「はっ。例のゴーレムの件ですが討伐は失敗です。案内人とハンターに負傷者を出し、ハンターは依頼を降りました」


 マリオンは顔をしかめて言う。


「使えん奴め……」


「申し訳ございません。しかし今回依頼したのはこの都市で最高レベルのハンター。もはやハンターに依頼するとなると、数パーティに及ぶ大規模なものにせざるを得ません。やはりシーランから戦力を呼び寄せるしかないかと」


「それだと時間がかかる。それになるべく大事にはしたくない。シーランから戦力を呼ぶのは最終手段だ」


「ではいかが致しましょう?」


 ルーカスの言葉にマリオンは腕を組み考える。


 なるべく少人数でゴーレムを排除できる存在、それもこの都市にいる者で。


 となると不本意ではあるが『ヤツ』を使うしかない。マリオンをラーサーより下だといったあの愚か者を。


「仕方あるまい。この前の『ヤツ』を使う」


「あの愚か者。『紅蓮の竜騎士』でございますね」


「そうだ。なんとかとはさみは使いようと言うしな。それでだめならシーランから戦力を呼び寄せる事も検討せざるを得まい」


 ルーカスは頷いてから言う。


「同行者はいかが致しましょう?」


「これ以上負傷者を出したくない。一人で行かせよ」


 ルーカスは優雅かつ丁寧に礼をしていった。


「仰せのままに」





 教会の鐘が鳴り響いてから少したった昼過ぎ。受けられる依頼がないかの確認と、ついでに昼食を取ろうとギルドに来たシャルルは受付で呼び止められる。


「あ、こんにちはシャルルさん。指名依頼がきてますよ」


「ああ、こんにちは。指名依頼? 私に?」


「はい」


 珍しい……と言うか初めてじゃないか?


 そんな事を思いながらシャルルは受付に行き依頼書を見た。


「どれどれ……」


 依頼内容は指定地点に出没する全身が石のような怪物の討伐。


 達成条件は今日を含めて三日以内に怪物の体の一部をギルドに提出し討伐完了を報告する事とあり、報告後、依頼主が現地にて確認完了で終了とある。


 報酬は行って倒して帰って来るだけにしてはかなり高額なので、恐らくその怪物とやらはかなりの強さなのだろう。


 場所はマギナベルク西の森。依頼書に書かれている地図を見た限りでは、日帰りで帰ってこられそうなくらいの距離だ。


 三日以内とか出没(つまり、出ない可能性もある)とか条件が厳しい上に不確定要素もある事から、達成できなくてもハンターギルドとしては依頼失敗とはしないとの記載もある。


 したがって、仮に依頼を達成できなくても時間が無駄になるだけで特に不利益はない。


「ふむふむ、悪くはないな。ところでこの石のような怪物って何だ?」


 シャルルが今までこの世界で狩ったのは、基本的に哺乳類や爬虫類といったいわゆる動物に類する存在ばかり。


 例外はこの前倒したドラゴンだが――これがそれならラーサーが行くはずだし、シャルルに依頼するにしてもドラゴンである事を隠す必要はない。


 石のようなというのは石そのものではなく、肌がそういう感じの動物という事なのだろうか。しかしパメラも知らないらしく、シャルルの質問に首をかしげる。


「さぁ? 私はあんまり詳しくないので……」


 すると、いつの間にかいたライオンのたてがみを思わせるような金髪の男がその依頼書を見て言った。


「ああ、やっぱりそれ、お前んとこに回されたか」


「あ、ヨシュアさん。だめですよ他人の指名依頼書を見ちゃ」


「別に覗き見したんじゃねえよ。見えちまったんだ」


 そのヨシュアと呼ばれた男を見てシャルルは思う。


 確かに感じる力、そして髪型や顔はヨシュアのそれと良く似ている。が――


「誰だお前?」


「ヨシュアだよ」


「いや、私の知っているヨシュアは全身金色で、もっと派手な格好のはずだ」


 そう。今日のヨシュアはそのトレードマークとも言える黄金の鎧とマントではない。仕立てはよさそうだが普通の服装で、帯剣はしているものの包帯が巻かれた左手を吊っていた。


「おいおい、俺の本体は鎧の方かよ! て言うか普段兜をかぶってない分、鎧を脱いだお前よりは遥かにわかりやすいだろ!」


「なるほど……確かにそうだ」


 そしてヨシュアはずいっとカウンターに近づいて言う。


「それ、まだかかるなら俺の用事を先に済まさせてくれないか?」


 パメラが視線を向けるとシャルルは軽く頷く。それを了承の意思と見てパメラは言った。


「わかりました。ヨシュアさんの要件はなんですか?」


 ヨシュアは包帯で巻かれ吊っている左手を指しながら言う。


「ご覧の通り怪我の療養中だ。パーティのメンバーには日常生活にも多少だが支障が出ている奴もいる。しばらくの間は休業するから指名依頼があっても断ってくれ」


 パメラはメモを取りながら答える。


「わかりました。期間はどれくらいですか?」


「一ヶ月はいらないと思うが――まあ、未定だな。大丈夫になったら俺かパーティの誰かが解除しに来るからそれまでだ」


「わかりました。ではそのようにしておきます」


「よろしく頼むわ」


 用事が終わったヨシュアはそう言うと、軽く手を上げその場を去ろうとした。


 それをシャルルは呼び止める。


「なあ、ヨシュア。一杯奢らせてもらえないか?」



 一杯奢らせてもらえないか? これはハンター同士で情報提供を求めるときの合図、そしてマナーだ。


 よほどの情報でない限り、ハンター同士で情報提供を求めるときは一杯の酒だけで情報を融通し合う。


 もちろん重要な情報の場合は金銭などの対価を払う事になるが、そういう場合でもまずは情報を欲しい側が一杯奢る。


 拒否する事も可能だが、自分が情報を欲しいときにも拒否される可能性が高くなるため、よほどの理由がない限り拒否する者はいない。


 ちなみに奢られるのは酒でなくても良く、同等以下のものであれば奢られる側が決められる。



 振り返りヨシュアは言う。


「まだ昼だ。飯でもいいか?」


「ああ」


 その後シャルルはパメラに依頼を受けるかは少し考えてから決めると伝え、ヨシュアと共に食堂スペースに向った。

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