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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード2 希望の星(エトワール)は遺跡に眠る
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公子の召喚 その2

 マリオンの屋敷に着いてからもシャルルは感心する。


 もしかしたら呼び出しの男だけが変なのかもしれないとも思ったのだが、屋敷にいる奴は基本的に変だった。


 番兵に鳥はどうすれば良いかと聞くと「そんな汚い鳥を敷地内に入れるつもりか!」といって入れてもらえない。


 結局、屋敷から結構離れた空き地にある木に繋ぐ羽目になった。


 まあ、貴族居住区だし盗まれはしないだろう。


 屋敷内ではメイドですら頭を下げるのは先を行く案内の男にだけで、シャルルに向けるのは冷たい視線のみ。そんな中を通りシャルルは広間っぽい部屋に通された。


 部屋はなんというか謁見の間風といった感じだが、城の謁見の間と比べるとゴッコ遊びをしているような感じにみえる。


 じゅうたんの左右に3人ずつ並ぶ騎士風の者たちは、装備は悪くないもののあまり強そうには思えない。


 シャルルの感覚が間違っていなければ、6人中2人がフォース使いで1人が魔術か秘術の使い手。その他の3人はそういう能力がないどころか、門にいた番兵より弱そうですらある。


 彼らがよほど実力を隠すのがうまくない限り、ベテランハンターくらいの実力者は一人だけだ。


 だが奥にいる屋敷の主人と思われる人物は、イジワルそうな顔はしているものの貴族らしい高貴さみたいなものは感じられる。


「早く礼をせぬか」


 案内の男に促され、シャルルがこの前と同じように兜を外し片ひざを突いて礼をするとマリオンが言った。


「貴様がグレンのなんとかとかいうハンターか?」


 いやいや、二つ名じゃなくて名前で呼べよ。しかも二つ名すらちゃんとおぼえてないし……などと思いつつシャルルは返事をする。


「自称ではございませんが、そのように呼ばれている事は存じております」


 シャルルの言葉を確認し頷くと、マリオンは案内の男に向って言った。


「良く連れて来た。下がって良いぞ」


「はっ」


 そして男が部屋の外に出てからマリオンは言う。


「では、グレンのなんとかとやら。そなたの実力を見せてみよ」


「と、申されますと?」


 マリオンが指を鳴らすと右列の一番奥にいた騎士風の男が剣を抜き言った。


「貴様の実力とやらをみせてみろ」


 同意も得ずにいきなり剣を抜くとか……この状況だと私に斬られても文句は言えんぞ? とシャルルは思ったが、本当に斬ったら文句どころでは済まないくらいヤバい事になるだろう。


 無論シャルルが斬られる分にはなにも起きないのだろうが。


「早く構えろ」


 仕方なく兜をかぶりシャルルは立ち上がる。


 一応確認した方が良いかと思いその男をアナライズで見てみると『ウォーリア 28/32』だった。ハンターでいえばレベル4~5くらいの実力なので、一般的に見ればかなりの実力者だ。


「早く抜かんか!」


 男は抜刀を促すが、シャルルはそれを躊躇する。


 訓練ならいざ知らず、恐らくは本気でかかってくるであろう相手。剣を使えばうまく加減できず、斬り殺してしまう可能性も否定できない。


 こいつが死のうが生きようがどうでも良い事ではあるが――そうなればかなりヤバい事になるだろう。


「このままでかまわない」


「ならば死ね!」


 男は何の躊躇もなく、上段からフォースを込めた剣を振り下ろしてきた。


 だがシャルルはフォースを込めた両手でそれを挟んで止める。


 いわゆる真剣白刃取りだ。


 見ていた者たちがざわめく。


「おお……」


「なんと」


「ほう」


 男は動かなくなった剣を押したり引いたりして何とか動かそうとする。だが剣はどの方向にもまったく動かない。


「ぐっ、ふんぬっ」


「アホか」


 シャルルは思った。動かなくなった剣にこだわってどうする。こういう場合は剣を放し、あるならセカンドウェポンを、無いなら体術を使うか距離を取るべきだ。


 それをしないと――こうなる。


 シャルルがフォースを込めた足で男の腹に前蹴りをぶち込むと、男は剣を残して壁まで吹っ飛んで行く。


 オーラを張っていた男にたいしたダメージはなく、すぐに立ち上がり鬼の形相でシャルルに向って来たがマリオンの一言でそれは止まった。


「もう良い。モーガンよ、剣を受け取り配置に戻れ」


 モーガンと呼ばれた男はマリオンに礼をして言う。


「閣下の仰せのままに」


 そしてモーガンはシャルルが差し出した剣を奪い取るように受け取ると、鞘に収め列に戻った。


「こんなものでよろしいでしょうか?」


 シャルルがそう言うと、マリオンはニヤリと笑う。


「ふむ、モーガンに対してあれか。なかなか使えそうだな」


「では配下に?」


 隣に控えていたルーカスの言葉にマリオンは軽く頷く。


「喜べグレンの何とかとやら。お前を私の配下に加えてやる。離れに部屋をやるから使うがよい」


 それを聞いてシャルルは思った。


 なに言ってんだこいつ……さっきの手合わせもそうだけど、なんでこいつは相手の同意を得ずにことを進めて行くんだ?


 さすがに『いい加減にしろ』と言いたいところではあるが――相手はこの国で最高峰の権力を持つ公子。そうは思いつつも勤めて冷静に答える。


「お待ちください閣下。私は誰の配下になる気もございません」


 これで『なら仕方ない』と言ってくれれば楽なのだが、さすがにそれは期待できないだろう。


『なぜだ?』と聞いてくるとシャルルは考え『自由を愛するから』とか『ハンターが好きだから』などの答えを用意しつつマリオンの言葉を待つ。


 だが、返ってきた返事は予期せぬものだった。


「遠慮は要らん。運がよかったのだ。下賎の身でありながら我が配下に加われる栄誉を受けよ」


 シャルルもさすがにこの言い草には驚く。


 三顧の礼のように身分が下の者に対し礼を尽くして配下に迎えるというのは聞いた事がある。しかし相手を卑下し自分を持ち上げながら配下に加わるのを強要してくるとか……ちょっと意味がわからない。


 だが、シャルルはマリオンの自分を持ち上げるという部分に打開のヒントがあると思った。


 たぶんこいつは自分の公子という身分に絶対の自信があるのだろう。しかし公子も所詮は大公爵の子。その権威は大公爵には及ばない。


 ならば――


「恐れながら申し上げます。私は先日マギナベルク大公爵閣下のお誘いを辞退しております。大公爵閣下のお誘いを受けずに公子閣下にお仕えするとなると道理が通りませんでしょう。何かご用向きがあるのでしたらハンターギルドの方に指名でご依頼ください。内容次第ではありますがお受けできると思います」


 これでも配下になれと言うのは『俺は大公爵より上だ』と言うようなもの。権威主義のこいつはさすがにそうは言えないだろうとシャルルは思う。


 そしてシャルルの思惑通りマリオンは、シャルルのその発言により彼を配下にしない事を決める。だが、その理由は彼の考えていたものとは大きく異なっていた。


 マリオンは顔を真っ赤にして震えだす。


「き、き、貴様! こ、この私を。栄誉ある真王リベリアスの血を引くこの私を。あの卑しい血の……出自もわからぬ平民出のラーサーよりも下だと申すのか!」


 え? 公子って大公爵の子だろ? 別の国ならともかく、同じ国なんだから公子より大公爵の方が上なんじゃないの? と思いつつも、ここでようやくシャルルは彼の価値観を理解する。


 マリオンは権威主義ではなく血統主義。つまり立場や能力よりも血筋を重視するという考え方。だから彼にとっては権威は上だが元平民のラーサーよりも、初代王の血を引いている自分の方が上だという事なのだろう。


 ここにいる騎士風の奴より門番の方が強そうなのは、恐らくここにいる奴の方が血筋が良いというだけの事。部下の態度も彼の価値観からきているものだと考えれば納得がいく。


 そしてそれは彼が無能で血筋しか誇るものがないという事を如実に表している。


 それを理解したシャルルは、思わずニヤリと笑う。


 それを見たかどうかはわからないが、立ち上がったマリオンはシャルルを指し怒鳴る。


「今すぐこいつを叩き出せ!」


 マリオンはそう言うが、ここにシャルルを叩き出せるような実力者はいない。


 並んでいた者の一人が前に出るとシャルルに言った。


「来いっ」


 そいつについて部屋を出て、屋敷の中を歩きながらシャルルは思う。


 叩き斬れとか言われなくて良かった……。


 もし言われていたら自衛のために何人か斬る羽目になっていたかもしれない。その場合、咎められるのは――


 屋敷を出て門まで来ると騎士風の男は言った。


「とっとと去れ」


 それにシャルルは片手を挙げ「じゃ」とだけ言って門を出る。


 門を出て空き地に行くと、鳥は盗まれる事なく木に繋がれていた。


 さすが貴族居住区といったところなのだろう。


 貴族居住区の門に行くと門番が声をかけてくる。


「おや? もうお帰りですか?」


「なんか追い出された」


 シャルルが笑いながらそう言うと門番は苦笑しながら言った。


「ああ、『あそこの方』に呼ばれてたんですもんね」


 それを聞いてシャルルは思う。


 ああ、やっぱりあそこは普通じゃないんだな。




 シャルルが去ったあとも怒りが収まらず、しばらくの間マリオンはぐちぐちと文句を言い続けていた。


「有名無実のラーサーと私を比べるなど、あの愚か者は大陸で最も尊き真王の血をなんだと思っているのだ……」


「マリオン様。だからこそ愚か者なのです。審美眼無き者に宝石とただの石の見分けがつかないのと同じ事でございます」


 ルーカスの言葉にマリオンは少し機嫌をなおす。


「なるほど。確かにお前の言う通りかも知れん。卑しい者にそれを求めるのは酷というものか」


 マリオンが鼻を鳴らしフンと笑うと、ルーカスは黙って頷く。


 そんなやり取りのあと部屋の扉がノックされ、番兵が顔を覗かせると言った。


「失礼します。遺跡調査隊の者が閣下にご報告したい事があるとの事です」


 それを聞いてルーカスが扉の外に出ると、部屋の中までその声が聞こえてくる。


「なんだと!」


 急いで戻って来たルーカスはマリオンに耳打ちした。


「遺跡で問題が起きたようです。怪我人も数名出ているとか……直接お聞きになった方がよろしいかと考えますが、いかが致しましょう?」


「ふむ。お前がそう言うのなら話を聞こう。通せ」


「仰せのままに」


 ルーカスは再び扉の外に出ると調査隊の隊員を中に招き入れる。


 そしてルーカスが再びマリオンの横に立つと、隊員はマリオンの前まで進みひざを突いて礼をした。


「わたくしの如き者の言葉、お耳汚しと――」


「前置きはよい。要点だけ申せ」


「はっ」


 マリオンに促され隊員は語り始める。


「恐れながら申し上げます。遺跡があると思われる場所を発見し調査していたところ、石の巨人――同行した遺跡学者いわく『ゴーレム』なるものが出現し、排除を試みましたが歯が立たず怪我人が……」


「死者は出たのか?」


「いえ、学者の指示ですぐに撤退したところ追って来ませんでしたので死者は出ておりません」


 マリオンはあごに手をあててうんうんと頷く。


「怪我人の対処は任せる。して、全員撤退したのか?」


「いえ、何人かは監視に――」


「すぐに撤退させろ。人がいると場所を特定される危険がある。行け」


「仰せのままに」


 そう言うと隊員はすぐに部屋を出て行った。


 マリオンはニヤリと笑うとつぶやく。


「ゴーレムがいるという事は『当たり』だな」



 ゴーレム。それは古代魔族が遺した遺跡を守るガーディアン(守護者)。発見された遺跡に必ずいるというわけではなく、重要なアーティファクトが眠る遺跡を守る事が多い。


 つまりそれがいるという事はその遺跡には重要なアーティファクトが眠る可能性が高く、それが排除されていないという事はその遺跡に誰も足を踏み入れていない可能性が高い事を意味する。



「いかが致しましょう? シーランから連れて来た戦力でゴーレムの排除は困難ですし、ラーサー殿に協力を要請するわけには……」


 マリオンの目的は遺跡に眠る生体兵器『エトワール』だ。


 だが、発見されたアーティファクトの大半をマギナベルクに渡すという条件で王から遺跡調査の許可を得ている。


 したがって分配が終わるまではその価値を知られるわけにはいかず、可能な限りラーサーを遺跡調査から遠ざけて置きたい。


 つまり彼に協力を求めるわけにはいかないのだ。


 マリオンは腕を組み少し考えて、ふとさっきの不快な男の『ハンターギルドの方に指名でご依頼ください』という言葉を思い出す。


 とはいえこの男に依頼するのも癪だ。となると――


「ハンターにやらせよ。無論さっきの愚か者以外の奴にだ」


「承知致しました。条件に合う中で最も優れたハンターにゴーレムの排除をさせます」



 こうしてルーカスはマギナベルクのハンターギルドで最もレベルの高い『金獅子』ことヨシュアのパーティにゴーレムの排除を依頼する。


 だが、ヨシュアたちはゴーレムに歯が立たず、パーティメンバーと同行した遺跡調査隊に負傷者を出してしまう。


 そして彼らは自分たちだけでは不可能だと、その依頼を降りてしまった。

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