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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エクストラエピソード
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伯爵令嬢の友達 後編 その4

 夜になるとルドルフはシャルルと共に戻ってくる。そして彼は出迎えたナスターシャに言った。


「ドラゴンはいなくなった。もう大丈夫だ」


「しゃるーがやっつけたんでしょ?」


 一緒に出迎えたステラがそう言うと、シャルルは肯定も否定もせずフッっと笑う。


 その後、ナスターシャは事後処理があるからと忙しそうなルドルフにはそれ以上聞けず、シャルルに聞いても『もうドラゴンはいないから大丈夫』という意味の言葉を聞く事しかできなかった。


 翌日、都市から『たまたまこの都市に滞在していた』新英雄、紅蓮の竜騎士によってドラゴンは討伐されたと発表される。


 ナスターシャは状況やステラとシルフィの言動から、紅蓮の竜騎士はシャルルなのだろうと思う。


 だが、それについて誰も何も言わないという事は、自分も何も言わない方が良いのだろうと察しそれを口にする事はなかった。


 数日後、事後処理もほぼ終わりドラゴンに関する問題はほとんど解決する。


 そして、それに関連して滞在していたらしいシャルルが再びこの都市を発つ事が決まった。


 ステラとまたお別れか……と意気消沈していたナスターシャだったが――予約できた乗合馬車の出発が二週間近くあとだと知る。


 そして、彼女はステラが出発するその日まで、一緒に精一杯楽しく過ごそうと決めた。





 以前同様ナスターシャは、午前中はステラと共に勉強し、午後はステラと一緒に遊んだ。


 ナスターシャとステラはナスターシャの祖父の書庫で植物や動物の図鑑を一緒に見たり星の魔女の話をしたりする。


 ほかには以前シルフィやカロリーネと約束したボール遊びやケーキ作りなんかもし、ケーキはティータイムにナスターシャの両親やシャルルと一緒に食べた。


 また、ナスターシャはルドルフに連れられ、ステラやシャルルたちと共に観劇に行ったり観光地巡りをしたりもする。


 それは彼女にとってもう見られないと思っていた夢の続きだった。


 ステラたちが戻ってから一週間以上が経ったある日のティータイム。ナスターシャは何気なく聞く。


「ねえ、ステラたちはどこから来て、どこに向かって旅をしてるの?」


「んとね。すてらは、あるとか、ろーざとか、そふぃとか……みんながいたとこからきたの」


「うん?」


「でね、しゃるーといっしょにいくの」


「そ、そうなんだ……」


 苦笑するナスターシャにテーブルを共にしていたシャルルが答える。


「ナスターシャ嬢。私たちは北の方、小都市ベルドガルトの方から来たんですよ」


 ベルドガルトは魔導帝国の中でも辺境と呼ばれる場所にある都市。当然行った事はないが、それなりの教育を受けているナスターシャは帝国にある都市の場所くらい把握している。


「わっ、すごく遠い……」


「目的地があるわけではないのですが、次は中都市ザルツァーフェンに行くつもりです」


「じゃ――」


 南部に行くんですか? そう聞こうとしてナスターシャは口をつぐむ。


 ザルツァーフェンは港町だ。その都市に行くという事は南部に行くのかもしれないとナスターシャは思った。


 だが、シャルルがそこまで言わない以上、それを聞くのはマナーに反する。


 だから彼女は質問を変えた。


「――またここにも来ますか?」


「しゃるー……」


 ナスターシャの質問を聞き、ステラがお願いするようにシャルルを見る。


 それに彼は優しく微笑み言う。


「確約はできませんが……また、ステラたちと一緒にここに来たいと私は思っています」


 そして――月も変わりやや汗ばむようになった6月の上旬。ナスターシャとステラに二度目の別れがやってきた。




 出発当日の朝。玄関の前には見送りに、伯爵令嬢ナスターシャ、グリュンバルト伯爵ルドルフ、伯爵夫人ユリアーネ、メイドのカロリーネと初老の執事ミルハルトといった前回と同じメンバーが集まる。


 そして皆が別れを惜しみつつ、旅の無事を祈り挨拶を交わした。


「おかげで楽しく充実した日々を過ごせました。ありがとうございます」


「恩義に報いたとは思ってないが、それなりにできる事をしたつもりだ。そう言ってもらえると嬉しいよ」


 ルドルフとシャルル。彼らの会話に以前のような社交辞令的な感じはない。ナスターシャとステラのように友達とまでは言えないが、だいぶ打ち解けた感じが見て取れた、


 そしてナスターシャとステラは――


「たーしゃ……すてら、またたーしゃとあそべてたのしかった」


「私も楽しかったわ。きっとまた遊びましょうね」


「うんっ」


 大きく頷くとステラはナスターシャに抱きつき、ナスターシャはそれを受け止め抱きしめ返す。


 前回と違いナスターシャの目に涙はない。


 もう会えないかもしれない――そう思っていた友達に、ステラにまた会えた。だから、すぐには無理かもしれないけど……またいつかきっと会えるはず。


 そう信じているから。


 そして馬車は出発する。


 前回同様、ステラは馬車の窓から手を振り、ナスターシャも馬車が見えなくなるまで手を振り返す。


 そしてナスターシャは思う。


 さようなら、私の友達。


 いつかきっと……また会える。


 だから――その日を楽しみにしてるわ。

ここまでお読みくださりありがとうございました。

『異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士 第二章 魔導帝国編』はこれで終了となります。


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今後の活力にもなりますので、まだの方はこの機会に『ブックマーク』と『評価ポイント』を、よろしければ『感想』や『レビュー』もいただけると嬉しいです。

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