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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エクストラエピソード
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伯爵令嬢の友達 後編 その1

 ステラたちが去った次の日。平日の午前中、ナスターシャはカロリーネの指導のもと勉強をしていた。


「――にて皇帝陛下は聖銀の勇者を討ち果たし、先帝の仇を討ったのです」


 今は歴史の勉強をする時間。ナスターシャは帝国史の教科書を読み上げるカロリーネの声を上の空で聞きながら思う。


 ステラがいたときはお勉強も楽しかったのに一人だとつまらないな……。


「お嬢様、聞いてますか?」


 呼びかけに答えないナスターシャにカロリーネは軽くためを息つく。


 ステラちゃんがいたときは、ちゃんと勉強もがんばってたのに……。


 そして彼女はナスターシャにそっと近づくと耳元で言った。


「お・じょ・う・さ・ま! 聞いてますか?」


「えっ!? あ、うん。聞いてたわ」


 慌てるナスターシャにカロリーネは苦笑する。


「本当ですか? なら、続きを読んでください」


「えっと、えーっと……」


「ステラちゃんがいなくなって寂しいのはわかります。でも、ちゃんとお勉強して伯爵令嬢に相応しい立派なレディにならないと、次にステラちゃんに会ったときに笑われてしまいますよ」


「うん……」


 だがナスターシャはそのあとの勉強も、どうにも身が入らないようだった。


 それを見てカロリーネは思う。


 何か気分転換でもした方が良いんじゃないかしら?


 そこで彼女は貴族の令嬢たちを招いてお茶会を開く事にする。


 だが、なるべく早い方が良いだろうと考えて急遽企画したお茶会であったため、あまり人数は集められなかった。


 もちろん領主の娘、伯爵令嬢主催のお茶会だ。その気になればいくらでも集められる。


 しかし、このお茶会はナスターシャを元気づけるためのものに過ぎないため、強権を使って集めては意味がなくなってしまうだろう。


 そこでカロリーネは、都合がつきそうで比較的ナスターシャと仲が良い数人の令嬢を招く事にした。


 当日の朝は勉強を無しにして、お茶会に出すお菓子作りをナスターシャに手伝わせる。


 作ったのはクッキー。


 一度作った事があるからやりやすいだろうと思ってそうしたのだが――それは失敗で、ナスターシャはステラと作ったときの事を思い出し、しんみりしながらそれを手伝っていた。




 午後3時のティータイムに合わせ、2時ちょっと過ぎくらいから招いた令嬢たちが到着し始める。


 それを出迎えるためナスターシャは迎賓館の前で待ち、お付きのメイドなどと共に馬車を降りる令嬢たちがする挨拶に笑顔で答えた。


「お招きいただきありがとうございます、ナスターシャ様。ご機嫌麗しく……」


「ええ、お越しいただけて嬉しいですわ……」


 互いにそんな定型文のような挨拶を、美しくも作られたような笑顔で交わす。


 そして招待客全員が集まると、カロリーネの案内で迎賓館のバルコニーに移動した。


「さあ、お嬢様方。とても香りの良いお茶と、甘いお菓子をたくさん用意してございますよ」


 テーブルには美しい食器の上にケーキやクッキー、色とりどりのマカロンなど、多種多様なお菓子が並ぶ。


 それを見て令嬢たちは思わず声を上げた。


「わぁ――」


「おいしそう」


「すてき」


 貴族の令嬢とはいえ彼女たちはナスターシャとそう歳が変わらない子供。やはり甘いものには目がないのだ。


「こちらのクッキーはお嬢様にお手伝いいただいて作りました。どうぞお召し上がりください」


 カロリーネの言葉を聞き、令嬢たちは次々にクッキーに手を伸ばす。


 そして――


「さすがナスターシャ様。お上品なお味ですわ」


「とても優しいお味です。ナスターシャ様のお人柄が表れてますね」


 などと、歳相応に少ない語彙を駆使しがんばってほめる。


 それに対しナスターシャは――


「うふふ。そう言っていただけて光栄ですわ」


 などと答えながら思った。


 ステラだったらなんて言うかなぁ……。



「おいしーけど、たーしゃのよりすてらのほーがおっきーから、すてらのかち!」


「形は私が作った方がきれいでしょ? 私の勝ちよ」


 ナスターシャがそう言うと、ステラは首を振って言う。


「でも、おっきーほーがいっぱいたべられるよ?」


「二枚食べれば良いじゃない」


「だって……しゃるーがなんまいもたべちゃだめって……」


 いっぱい食べたいステラは少ししょんぼりするが――


「大丈夫。秘密にしておいてあげるから」


「おおー!」


 その手があったかとステラは声を上げ喜ぶ。


 だがシルフィは言う。


「だめよ。わたしがごしゅじんさまに言いつけるわ」


「むー、しるふぃのいじわる」


 頬を膨らませるステラ。そこにナスターシャから助け船。


「別に悪い事するわけじゃないんだし、ちょっとくらい良いじゃない。だまっててくれるならシルフィには魔石をあげるわ」


「もう……ちょっとだけだからね」


「やったー!」


 買収に応じるシルフィに、ナスターシャはくすくすと笑いカロリーネも微笑む。


 そしてステラはもろ手を挙げ喜びクッキーを頬張る。



 たぶんこんな感じよね。


 気を使う必要のない対等なやり取りをしてくれたステラの事を思い、愛想笑いをしながらナスターシャはこっそりため息をつく。


 気を使われるという事は、それに対し相応の気を使わなければならないという事。気を使われるに値する格があると見せる事こそが最大にして最高、そして当然の返礼なのだ。


 お茶会はつつがなく終わり形式上は成功した。


 貴族令嬢の交流としては十分だっただろう。


 だが、本来の目的であるナスターシャを元気づけるという点で考えると成功とは言いがたい。


 カロリーネは思う。


 自分ができる事、思いつく事はやった。


 ステラちゃんと過ごした日々はゆめまぼろしで、お嬢様にとってこれが現実。これからもずっと続いて行くそれに慣れていただかないと……。




 その日の夜。屋敷の中が騒がしく、夕食にルドルフは現れなかった。


「お母様、お父様は?」


 不思議に思ったナスターシャは母に聞くが――


「お父様はお忙しいのです」


 とだけしか教えてもらえない。


 だが夕食後、お風呂に入りあとは就寝という時間。ナスターシャは偶然、使用人たちの会話から恐ろしい事実を知る。


「森でドラゴンが見つかったらしいな。なんでもこの都市に向かってるとか」


「ああ、早ければ明日にでも到達するらしい……」


 ナスターシャは実際にドラゴンを見た事があるわけではない。


 だが――例えば普通の日本人であれば幼い子でも台風や大地震、火山の噴火といった『災害』の恐ろしさをある程度知っているだろう。


 それと同様に大陸の住人は幼い子供でも『災害』であるドラゴンの恐ろしさを知っている。


 ドラゴンがこの都市を襲うかもしれない。それを知ったナスターシャは、部屋に戻るとベッドでシーツをかぶって丸くなり、恐怖にその身を硬くした。


 そして心の中で助けを呼ぶ。


 怖い――助けて――星の魔女――ステラ――

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