伯爵令嬢の友達 前編 その2
挨拶が終わったあと、ナスターシャはステラにいくつか質問をする。
そして彼女が魔術を使える事や、長い旅をしてきた事を知り思った。
小さいのに魔法が使えるなんてすごい! 小さいのに長い旅をしてきたなんてすごい! まるで星の魔女みたい! と。
もっとステラの話を聞きたい。
ナスターシャはそう思ったのだが、少しはしゃぎすぎたせいでユリアーネにたしなめられる。
そしてそれによりナスターシャとステラの会話が途切れると、ルドルフとシャルルの会話が始まった。
大人の話を邪魔してはいけないとしつけられているナスターシャは、お茶とお茶請けのお菓子を食べつつ一応は静かにする。
だが、いくらしつけられているとはいえ彼女はやはりまだ幼い。
小さな魔女……星の魔女……。
ステラの事が気になって仕方がなく、ナスターシャはちらちらとステラを見る。
すると、それに気づいたステラはナスターシャを見て微笑む。
ナスターシャが微笑み返すと、ステラは首をかしげたり軽く手を振ったりしてくる。
それに対しナスターシャも同じように首をかしげたり軽く手を振ったりした。
ナスターシャの動きに気づいたユリアーネは、やめさせようとじっと見てけん制する。
だが、ナスターシャはステラに夢中でそれに気づかない。
そんな娘の様子に彼女は軽くため息をつくと言った。
「ターシャ! おとなしくなさい」
ユリアーネのその言葉でルドルフは幼い子たちに我慢をさせている事に気づきメイドに言う。
「カロリーネ。ターシャと一緒にステラちゃんに庭園を案内してさしあげなさい」
こうしてナスターシャとステラとシルフィは、メイドのカロリーネに連れられ庭園に向かった。
庭園に着いたナスターシャたちは、そこで互いのお付きであるカロリーネやシルフィの自慢合戦をしたり、一緒にお菓子を作る約束をしたり、ステラが花冠を作ってナスターシャにプレゼントしたりする。
そしてだいぶ打ち解けたナスターシャは花冠をもらったお礼に、ステラに両親しか言わない愛称であるターシャと呼んでも良いと言った。
ステラたちが屋敷の迎賓館に滞在するようになって二日目。ナスターシャは約束通りカロリーネの指導のもと、ステラたちと一緒に厨房でお菓子作りをしていた。
作っているのはクッキー。
作るといってもナスターシャもステラも幼いので、カロリーネは絶対に危険のない作業だけをさせる事にする。
具体的に何をしたかというと、既に用意してある材料を混ぜる、こねる、丸めるといった非常に簡単な作業だ。
「じゃあ、まずは手を洗いましょう」
カロリーネはそう言うと、厨房の洗い場にナスターシャたちを連れて行く。
そこには食器や手を洗う時に使うレバー式の蛇口がついた二つの樽があった。
早速ナスターシャがそれで手を洗おうとすると――
「すてら、おみずだせるよ」
そう言ってステラはまるで空中にある見えない蛇口から出るように水を出し、それで手を洗いだす。まあ、手を開いて洗っているので、水がめちゃくちゃ飛び散ってしまっていたが。
「すごい! それが魔法なのね!」
「うん」
そしてステラは、ナスターシャはもちろんカロリーネとシルフィの分も水を出し、みんなそれで手を洗った。
そのあとシルフィの風で濡れた手を乾かしたり、ステラがやや薄暗い厨房をライトの魔術で明るくしたりする。
こうして準備も終わりお菓子作りが始まった。
「それではお嬢様とステラちゃんは、この粉にちょっとずつミルクを入れながらかき混ぜてくださいね」
そう言うとカロリーネは、既に砂糖や小麦粉、ふくらし粉などを混ぜて準備しておいたボウルとミルクの入った軽量カップを二人に一つずつ渡す。
小さな二人に厨房の作業台は高すぎるが、事前にカロリーネが踏み台を用意していたのでそれに乗って作業をした。
「耳たぶくらいの硬さになるまでこねてください」
「わかったわ」
「はーい」
カロリーネの指示に従い、ナスターシャとステラはこねては耳たぶを触って硬さを確かめる。そのせいで二人の右耳たぶはまっしろだ。
そして丁度良い硬さになると言う。
「みみたぶになった!」
「私のもそれくらいになったわ」
いやいや、耳たぶにはなってないでしょ……と思いつつカロリーネは次の指示を出す。
「じゃあ、今度はそれを少しずつちぎって丸めてください」
「はーい」
「わかったわ」
そして二人は粘土状になった粉を適当にちぎって丸め、そしてそれらを月見団子の如くお皿に積んだ。
「終わったわ」
「すてらもっ!」
「では、それを少し潰して平らにしてください」
指示に従いナスターシャは優しく両手で挟んで潰し、ステラは勢い良くバンバン潰していく。
「これでいーの?」
ステラがそう尋ねると、カロリーネは苦笑しつつ――
「ええ、お上手ですよ」
と言う。
その後、ナスターシャたちがこねて形を整えたクッキーをカロリーネがオーブンで焼く。
そして出来上がったクッキーは、おやつの時間にルドルフやユリアーネ、シャルルはもちろん、屋敷の使用人や滞在者たちにも振舞われた。