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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エクストラエピソード
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伯爵令嬢の友達 前編 その1

 伯爵令嬢ナスターシャ。彼女には真に友達といえる存在がいなかった。


 別に性格が悪いとか人見知りするとか、同じ年代の人と交流がないとか――そういう理由ではない。


 真の友達がいない理由は、彼女が小都市グリュンバルトの領主の娘だからだ。


 人は同じくらいの格同士で付き合う事が多く、同格であればあまり気を使う必要もない。


 だが、ナスターシャは領主、グリュンバルト伯爵家の一人娘。領主なのだから伯爵家はこの都市において最も格上の存在でこの都市に並ぶ者はいない。


 貴族の家では幼い子供でも自分の家の格や、格上の家にどういう態度を取れば良いのかを知っている。


 三つ子の魂百までという言葉があるように、そういう教育は幼い頃からやっておいた方が後々のためになるからだ。


 そのためまだ幼いナスターシャだが、同年代の子供からも気を使われてしまう。


 そんな状態で真の友達を作るのは無理というもの。


 もちろん他の都市に行けば同格の者もいる。


 だが幼いナスターシャはこの都市を出た事がなく、そのため同格の者と付き合う機会がなかった。


 彼女は大好きな星の魔女の本を読んでいつも思う。


 世界を旅する星の魔女。彼女は一国の王女から小さな村に住む少年まで誰とでも友達になっている。彼女がこの都市に来てくれれば、きっと私とも友達になってくれるはず。


 だから――星の魔女が私に会いに来てくれないかなぁ……と。


 でも星の魔女はお話の登場人物。実際にはいないからそんな事は起こりえない。


 それは幼いナスターシャでもわかっている。


 だが、ある春の日。まるで本から出てきたような――そんな星の魔女のような少女に彼女は出会った。




 四月下旬の平日の午後。その知らせは突然やってくる。


 それはナスターシャが自室のベッドで横になりながら、何度も読んでいる大好きな星の魔女の本を読み返していたときの事だった。


 ノックの音のあとに彼女の専属メイドであるカロリーネの声が響く。


「お嬢様、よろしいでしょうか?」


「はーい」


 返事をするとカロリーネに続き、ナスターシャの母、ユリアーネも部屋に入ってきた。


「え? お母様? どうしまして?」


「ターシャ、お客様にご挨拶します。支度なさい」


 家族そろって来客に挨拶をする。それは客にある程度以上の格がある場合は当然の事で、良くある事ではないが初めてでもない。


 とはいえそういう場合はいつ来るかわかっているのが普通なので、こんなふうに急に言われるのは初めてだ。


 ドレスを着せられながらナスターシャは聞く。


「お母様、どんな方がいらっしゃるの?」


「皇帝陛下の騎士との事です。この都市の視察にいらしたそうよ」


「騎士?」


 騎士とは一代限りの準貴族。その地位は平民よりは高いものの無爵位貴族と同等かそれ以下とされる程度だ。


 とはいえ貴族で騎士という人もいるため、騎士というだけでその地位のすべてがわかるわけではない。


 ただ、爵位を持っている場合は基本的にそちらで呼ぶ。爵位で呼ばれていないという事は、貴族であったとしても無爵位程度という事だ。


 通常その程度の客ならナスターシャまで挨拶に行く事はないのだが――皇帝陛下の騎士との事だし、たぶん何か特別な事情があるのだろう。


 そう思ったナスターシャは、それ以上は聞かず準備した。


 そして応接室で待つ事しばらく。ナスターシャがまだかしら……とそわそわし、落ち着きなさいとユリアーネに注意された頃、ようやくそのときがくる。


 そこに現れたのは黒いローブを着た男と風のエレメンタル、そして魔女風のワンピースを着たナスターシャとそう歳が変わらないくらいの少女だった。


「妻のユリアーネと娘のナスターシャだ」


 ナスターシャはグリュンバルト伯爵こと父ルドルフに紹介され、母ユリアーネと共に客人に挨拶をする。


「お初にお目にかかります騎士様。どうぞお見知りおきを」


「ご、ごきげんよう」


「ご丁寧にありがとうございます。私は帝国特務騎士シャルル。この子たちは――」


 ナスターシャたちの挨拶に対し、ローブの男は極普通に丁寧な挨拶を返したのだが――


「すてら! すてらはすてらってゆーの」


「わたしはシルフィ。ごしゅじんさまのいちのこぶんよ」


 そう言って連れの二人はどうだとばかりに胸を張った。


 幼い子やエレメンタルだ。そんな挨拶でも一般人相手なら元気があってよろしいみたいな感じになるだろう。


 だが、さすがに貴族相手にして良い挨拶ではない。


 あまりに場違いな挨拶にそこにいたほぼ全員が固まる。


 そんな様子にシャルルは苦笑いしながら頭をかいていた。

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