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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第一章 エピソード2 希望の星(エトワール)は遺跡に眠る
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公子の召喚 その1

 英雄祭から数日。ギルドの食堂で昼食を取り終ったシャルルは、アルフレッドたちと雑談していた。


 もう何日も経っているというのに二人はいまだにシャルルがラーサーの誘いを受けなかった事を話題にしてくる。


「でもさ、やっぱり貴族になれたかもしれないのにもったいなくない?」


「いや、別に」


 アルフレッドいわく「シャルルなら英雄公みたいに爵位をもらって都市の領主になれた可能性が十分にあると思う」との事なのだが、シャルルはさすがにそんなにうまくは行かないだろうと思った。


 まあ、それ以前に、今すぐ都市の領主になれるとしてもそんな面倒な事はやりたくないと思っているが。


 シャルル的には自営業で一般人の金持ちとかが最高の状態だ。いや、金さえあれば無職でも良いとさえ思っている。


「でも、ミスリルプレート(ハンターレベル9以上)を目指しているわけでもないのよね?」


 ローザの問いに、またかといった感じでシャルルは言う。


「前にも言った通り私はレベル3(ブロンズプレート)で十分だ。というか、ほかの方法で同等の権利が手に入るなら、それにすらこだわりはないぞ」


「ああ、この前言ってた家を買う権利ってやつ?」


「そう、それ」


 まとまった金が手に入った今、シャルルに一番必要なのは家を買う権利だ。


 豪邸は無理でも小さい家程度なら、この前の報奨金に少し足す程度で買えなくもない。


 とはいえ、どうせ買うならある程度の家の方が良いと思っているので急いではいないが。


「その権利って英雄公に頼めばもらえたんじゃない?」


「かもしれんが……借りは作りたくないしなぁ」


 シャルル理論では報奨金は仕事に対しての報酬なのでもらっても気にならないが、特別な権利をもらうというのは借りを作る感じがして気になる。


 時間さえかければ自力で手に入れられる権利なのだから、気にならない方法で手に入れた方が良いだろう。


「そういう事なら結局地道に依頼をこなしていくしかないわよね」


「だけどレベル2の俺たちにできる依頼はなかなかないんだよな」


「まあないものは仕方ない。ところで二人はこの後暇か? 久しぶりに一緒に害獣狩りでも――」


 シャルルが暇つぶしに二人を害獣狩りに誘おうとしたそのとき、受付の方からその声は聞こえてきた。


『紅蓮の竜騎士はいるのかと聞いているのだ!』




 昼食どきのギルドの受付。いつもは二人いる事が多い受付嬢だが、一人が食事に行っているため今はパメラ一人だけ。だがこの時間帯は暇なので、それでも特に問題はない。


 やる事のないパメラはカウンターに頬杖を突いた状態で、ぼーっと入り口の扉を眺めていた。


 しばらくはそんなのどかな時間が続いていたのだが、不意に入り口の扉が開き誰かが入ってくる。それを見てパメラは慌てて姿勢を正した。


 入って来たのは仕立ての良い服を着た男。その動きには気品が感じられ、開いた扉の向こうには乗って来たと思われる馬車が見える。


 それを見てこの人はたぶん貴族なのだろうとパメラは思う。


 ギルド前に馬車を止められると迷惑なんだけどなぁ……そんな事を思いつつも貴族相手という事でパメラはやや緊張する。


 その男は受付の前に立つと言った。


「紅蓮の竜騎士という者はいるか?」


 それを聞いてパメラは、ははーん。シャルルさんの名前(というか二つ名)はこの前の英雄祭で更に広まったし、それを聞きつけた貴族が指名依頼しに来たのね。となると詳しい話を聞かなきゃいけないから別室に案内しないと――と思い応対する。


「あの、指名依頼でしたら――」


 だが、男はパメラの言葉が終わる前に言葉を重ねてきた。


「馬鹿か貴様は。いるのかと聞いている」


 え? 直接本人と話したいって事?


 指名依頼でも、本人に話しを持って行くのはギルド職員が依頼内容を聞いてからというのが通例だ。


 しかしこの男にそれを説明すると、それだけで面倒な事になりそうな雰囲気がある。


 まあ、シャルルさんはちょうど今いるし、職員立会いなら良いかな? パメラはそう考え案内しようとするが――


「えっと、シャルルさんでしたら――」


『紅蓮の竜騎士はいるのかと聞いているのだ!』


「ひっ」


 男の大声にパメラは思わず小さな悲鳴を上げた。


 パメラの予想と男の目的は違う。


 彼はマリオンの部下で、ルーカスの指示によりシャルルをマリオン邸に呼び出すためここに来ていた。


 無爵位ではあるものの貴族である彼は、下賎なならず者の巣窟であるハンターギルドなど本来なら高貴な自分が足を踏み入れるような場ではないと思っている。


 だからとっとと用事を済ませて戻りたいというのに、受付の女はいるのかいないのかすらすぐに答えない。


 これだから平民は……男がそんな事を考えていると、後ろから声が聞こえてくる。


「紅蓮の竜騎士と呼ばれているのはたぶん私だが、何か用か?」


 不意にかけられた声に彼は振り向くと、そこにいたのは赤い竜を模したような装備を身に着けた派手な格好の男。


 それは彼が聞いていた紅蓮の竜騎士なるハンターの特徴と一致する。


 やれやれ、これで仕事は終わりだな。そう思って男はシャルルに言い放つ。


「お前が紅蓮の竜騎士だな? マリオン様がお会いになられる。ついてこい」


「は?」


 男の言葉を聞いてシャルルの頭の中が『?』でいっぱいになる。


 いきなりなに言ってんだこいつ? だいたいマリオンって誰だよ?


 だが、そんなシャルルを置いて男はギルドを出てしまう。


 それを見送ってから、シャルルはおどおどしているパメラに話しかけた。


「何あれ?」


「さ、さあ? シャルルさんの知り合い――ではないんですよね」


「ああ、知らん。なんだったんだろうな」


「なんなんでしょうかねぇ」


 そしてシャルルがアルフレッドたちのいる席に戻ろうとしたとき、顔を真っ赤にした男が戻って来た。


「貴様! なぜついてこない」


「いや、知らない人について行ってはいけないというのは常識だろ?」


 シャルルの言葉に男は激昂する。


「ふざけるな! シーラン公子マリオン閣下の召喚に応じぬと言うのか!? ただでは済まされんぞ」


 なに言ってんだこいつ的な反応していたシャルルとパメラだったが、受付の後ろで作業をしていたギルド職員の一人が男の言葉に反応した。


「シ、シーラン公子!? リベランド四大公爵家、公子様の呼び出しですか!?」


 男はようやく話の通じる相手がみつかったと思い、その胸につけたワッペンを見せながら言う。


「そうだ。私はリベランド『三大公爵家』が一つ、シーラン大公爵家公子、マリオン様の命令で紅蓮の竜騎士なるハンターを召喚に来たのだ」


 ギルド職員は男のワッペンをまじまじと見ると言った。


「確かにこれはシーラン大公爵家の紋章……シャルルさん、まずいですよ」


 騒ぎが気になり集まっていた何人かのハンターたちも口をそろえて言う。


「公子の呼び出しに応じないとなると、確かにまずいかもしれんな」


「リベランド最高峰の権力者だしなあ」


「素直に従った方が良いんじゃないか?」


 だがシャルルは渋い顔をする。


 シャルルにはそのマリオンとかいう奴に会う理由が無い。


 それでもこの前のラーサーのような、礼儀をもっての呼び出しなら会っても良いと思っただろう。


 だが、こんなふざけた呼び出しに応じる必要があるだろうか? そんな事をするくらいならアルフレッドたちと害獣狩りに行った方がよっぽど有意義だ。


 しかし周りの人たちは行くべきだという圧力をかけてくる。さっきのギルド職員なんか顔面蒼白だ。


 シャルルは考える。


 確か公子ってここでは大侯爵の子って意味だったよな。リベランドでは王のすぐ下に『四人の大侯爵』がいて、王に次ぐ権力を持っているという事だったはず。


 シーランの公子って事だから確かかなり東の、海の方にある大都市を領有している大公爵の子だ。


 遠くの都市の領主の子なんだからこの都市の一般人である私に対して何かできるとも思えないが……でも大公爵は王に次ぐ権力があるんだよなぁ。


 シーラン大公爵家がこの都市でどれだけの事ができるかわからない以上、行かなければこの都市で暮らしづらくされるかもしれないという憂いが残る。


 備えあれば憂いなし――はこういうときに使う言葉ではないような気もするが、後に憂いは残したくない。


 考えた結果、仕方なくシャルルは同行する事にした。


「わかった。行こう」


 しぶしぶ行くという返事をしたシャルルに男は余計な一言を言う。


「最初からそう言えば良いのだ。面倒をかけさせるな平民が!」


 やっぱり行くのやめようかな……シャルルは一瞬そう思ったが、ここまで変な奴を遣してくるマリオンという人物に、彼は少しだけ興味がわいてきた。


 アルフレッドたちに軽く「じゃ、行って来る」と言って男について行く。だが、外に停めてあった馬車に乗り込もうとすると男はシャルルの肩をつかんで言った。


「貴様何をしている」


「いや、だってこれに乗って行くんだろ?」


「馬鹿か貴様は。貴族と同じ馬車に乗れると思うな平民が! 貴様は自分で馬でも用意するか走ってついてこい」


 さすがにひっぱたいてやろうかと思ったシャルルだったが、それだとこいつを遣したマリオンという人物に会えなくなってしまうので我慢。ギルドで華鳥(カチョウ。通称『鳥』と呼ばれる馬の代わりに使うダチョウみたいな鳥)を借りてついて行った。

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