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ぐれぇのなんとか その3

 シャルルたちと別れて数日。セシルは買い付けの交渉も終わり、購入したザルツァーフェンの特産品である塩が入った袋をを荷車に運び込んでいた。


「がんばれ~」


「おうよ」


 馬の世話をしているケイトに応援されながら、セシルはせっせと塩を運ぶ。


 そして、シャルルがいたときはらくだったなぁ……などと思っていると、同じく塩が入っていると思われる袋を運ぶ男に声をかけられた。


「あんたも環状街道を回ってる行商人かい?」


「ああ、右回りだ」


 ジュグベール環状街道は一方通行ではない。そのため回っている行商人の行く方向は二通り存在する。


 環状街道の中心であるジュグベール山。それを見て右側に向かうのを右回り、左側に向かうのを左回りという。


「ってことはケルブリッツの方から来たって事か」


「そうだな。その前はエーアスタッドだ」


「そうか。俺は左回りだ。ところでグリュンバルトに新英雄が現れたって聞いたんだが……知ってるか?」


「新英雄がグリュンバルトに?」


 セシルも新英雄の噂くらい聞いた事はある。


 リベランドの英雄公と聖王連合の再臨の聖騎士。ドラゴンを単騎で討伐したと言われている二人の事だ。


 だが、英雄公はリベランド、再臨の聖騎士は聖王連合と、他国に属する人物。帝国領であるグリュンバルトに現れるとは思えない。


 セシルが首をひねっていると、男はもうひとひねりさせるような事を言ってきた。


「知らないか? グリュンバルトに出たドラゴンを、第三の新英雄、紅蓮の竜騎士が討伐したらしいんだよ」


「ぐれんの……何?」


 聞きなれない名称にセシルは聞き返す。


「紅蓮の竜騎士だ。元々はリベランドの鉱山都市マギナベルクでドラゴンを討伐して噂になってたんだが、最近グリュンバルトに現れてドラゴンを討伐したらしいんだよ」


「へー、そうなのか」


 セシルが感心していると、男は頭をかきながら言う。


「いや、割と最近の事らしいし、右回りならもっと詳しく知ってるかと思って聞いたんだが……なんで俺の方が教えてるんだよ」


「ははは、すまんな。商売に関係ない噂話にはちょっと疎いんだ」


「そうか。邪魔したな」


 そう言うと男は再び塩の入った袋を運ぶ作業に戻り、セシルも黙々と塩を運ぶ。


 ドラゴンを討伐した第三の新英雄、紅蓮の竜騎士……か。


 もしあの日、グロウサッカがドラゴンに襲われたあのときにそんな奴がいたら、俺はまだハンターをやってたのかな?


 そんな事を考えていたセシルの脳裏に不意にステラの言葉が浮かぶ。


 ――みんな、しゃるーがどらごんたおしたえーゆーだって、『ぐれぇのなんとか』だってゆってたもん!


 ぐれぇのなんとか……ぐれんのりゅうきし……いや、騎士っていうくらいだし、シャルルは魔術師だし……まさか、な。




 セシルが男と会話をするほんの少し前。無事チケットを手配できたシャルルたちは、出航前の船の甲板に居た。


 この船はザルツァーフェンと、大陸を南北に分断する大河の向こう側にある魔導帝国属国ジルヴァート王国の王都を定期的に行き来する船。大量の物資や人を運ぶため大型で、船内には食堂や風呂なども完備されている。


 天気は快晴。厳しい夏の日差しが照りつける中、肌をなでる潮風が心地よい。


「あ、しるふぃがいる。あっちにはあおいこも」


 ステラが指す方にはシルフィと良く似た(というかほぼ同じ)風のエレメンタルと、水色の髪を持つ水のエレメンタルが居る。


 水のエレメンタルは水色ストレートロングヘアーで色白の少女。エルフのように長く尖り気味の耳を持つ。


 服装は白っぽい水色のシンプルなワンピースドレスに白い靴を履いている。これはシャルルの良く知るアナザーワールド2の水の精霊とほぼ同じだ。


 彼女たちは風や潮の流れを読めるため、報酬(魔法燃料)を与え、船で使役しているらしい。


「んもう。シルフィは私だけ。風のエレメンタルを見るたびに私の名前で呼ぶのやめてよね」


 相変わらず風のエレメンタルを『しるふぃ』と呼ぶステラに、シルフィは立腹し頬を膨らます。


「ははは……」


 そんな二人にシャルルは笑い、そしてくしゃみをした。


「はっくしょん」


 冷えたか? いや、むしろ暑いくらいだし、誰かが噂でもしてるのか? そんな事を考えていたシャルルを、ステラが心配そうに見上げる。


「しゃるー、かぜー?」


「いや、も――」


 問題ない。そう言いかけたシャルルだったが――


「そうかもしれん。これは体を温めるために熱い風呂に入らねばならんな」


 と言って笑う。


 それに対しステラは顔をしかめ言った。


「えー、熱いのやー」


「じゃあ一人で入るか?」


「それもやー」


「じゃあわたしが一緒に入ってあげようか?」


 頼りになるでしょ? とでもいいたげにシルフィはすかさず助け船を出す。しかし――


「しるふぃはちっちゃいからだめ。すてらのかみあらえないじゃん」


 とあっさり振られた。


「100まで数えられたら冷たいジュースを買ってやろう」


「おおー! じゃあがんばる!」


「ごしゅじんさま! わたしも!」


「ははは。結構がんばってるし、お前には魔油を買ってやろう」


「やったー」


「いえーい」


 ステラとシルフィは小さな手と手をパチンと合わせる。


「しゃるーはやくー」


「ごしゅじんさま早くー」


 二人にローブを引っ張られシャルルは言う。


「え? すぐなのか?」


「うん!」


「はい!」


「まあ、出航前にひとっ風呂浴びるのも悪くないか……」


 そう言って軽く笑うと、シャルルはステラたちと共に船内に入っていった。



 異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士

 第二章 魔導帝国編 ――完――

ここまでお読みくださりありがとうございました。第二章の本編は終わりましたが、第一章と同様にエクストラエピソードがあります。


次回は『第二章』の序盤に出てきた辺境の行商人ニーナや、ステラにとって初めての同年代の友達ネリーの話『辺境の町とユニコーン』の『その1』を投稿予定。もう少しだけお付き合いください。

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