勘かフラグか その4
狩猟を主な生業とする者が暮らす小さな村、エーバ。
宿場町ダヴィンまでは二日とそう遠くはないものの、浅いとはいえジュグベール森林の中にあるので一般人が荷物を運ぶには少々危険が伴う。
そのためダヴィンから荷物を運ぶ場合、セシルのような元ハンターや腕に自信のある行商人に頼む事が多い。
それを知っているセシルは、ダヴィンに行くと毎回エーバへ荷物を運ぶ仕事がないか聞いている。
そのため彼がここに来るのは初めてではない。
村に到着したセシルたちは村人の指示で指定場所に積んできた荷物を降ろし、指示された荷物を荷車に積み込む。
ちなみに村人との応対はすべてホルガがやった。
名目上は手伝いだが、彼は依頼主側の人なので当然といえば当然だ。
夏で日が長い事もあり、日没前に作業は終わる。そして今日は村長の家に泊まる事になった。
村長の家は広い土間と一段上がった場所にある板の間という作り。
土間の中央には囲炉裏があり、それを見てシャルルは帝国に来て――いや、大陸に来て初めて行った村、ゾフの事を思い出し思う。
行商人は村長の家に泊まるっていうのもそうだけど、家の作りもどこも似たようなものなんだなぁ。
夕食はさすが狩猟を生業とする村だけの事はあり、狩りで仕留めた猪を使った鍋だった。
人参や里芋、ごぼうなどもふんだんに使われ、味付けは味噌。鍋というより豚汁みたいな感じだ。
老人というには若く、中年というには年を取りすぎているといった感じの髪に白いものがふんだんに交ざる村長夫妻と共に囲炉裏を囲み、シャルルたちは敷かれたござの上に座る。
ちなみにいつも通りステラはあぐらをかいたシャルルの上だ。
村長夫人は囲炉裏にかけた鍋のふたを開けおたまでたっぷりと猪鍋をすくうと、お椀に入れて一人一人に「どうぞ」と言いながら渡す。
それをみんな「どうも」とか「ありがとうございます」と言いながら受け取っていく。
そして全員に行き渡ると村長は言った。
「では、いただきましょう。おかわりもありますのでご遠慮なく」
そしてみんなもそれぞれに『いただきます』に類する言葉を発してから食事を始める。
お椀で猪鍋とくれば当然使う食器は箸。食べ始めてからそれに気づいたケイトは言う。
「あ、ステラちゃんにはフォークを――あれ?」
だが、そう言いながらステラを見ると、普通に箸を使って食べているのが見える。正直、ケイトよりずっときれいな持ち方だ。
「ん? ああ……この子、スプーンやフォークはグーで持つが、箸は使えるんだ」
シャルルがそう言うと、ケイトは恥ずかしそうにうつむく。
「そ、そうなんですか……」
「ケイトは箸が使えるようになるまで結構かかったもんな」
セシルがそう言うと、ケイトは顔を赤くし頬を膨らませるが――そんなとき、頭をかきながらホルガが言った。
「すみません、僕、箸は苦手で。フォークを貸してもらえると助かるんですが……」
その後、人参を残すステラに、シャルルがデザートに出た皮が分厚く彼女にはむけない夏みかんを人質に少しだけ食べさせたりして夕食は終了。それからシャルルが魔術で出したお湯を使って風呂に入ってから寝た。
そして翌日の早朝に村を出ると、特に問題なく二日後にはダヴィンに到着。ホルガの指示に従いエーバで積んだ荷物を下ろすと、セシルが請け負った運送の仕事はすべて終了する。
「お疲れ様でした。報酬は事務所で受け取ってください」
「わかった。じゃ、お疲れ」
「お疲れさん」
ホルガの労いの挨拶に、セシルとシャルルは首や肩を回しながら答えた。
「お疲れ様」
二人に対してケイトも労いの言葉をかける。
すると、特に何もしてなかったステラとシルフィも、なぜか首や肩を回しながら言った。
「おつかれー」
「おつかれ。けっこうたいへんだったわね」
「ねー」
そんな二人の様子にシャルルたちは笑う。
「お前ら見てただけだろ」
そして、報酬が入ったのでその日は割と良いもの(当然誕生日パーティほどではないが)を食べ、翌日には再び中都市ザルツァーフェンに向け出発。そのあとも特に問題なく旅は順調に進む。
それからもう一度だけ街道沿いの宿場町に立ち寄ると、シャルルたちのセシルの馬車での旅は終盤に差し掛かった。
もう立ち寄る町や村は無い。次はこの旅の目的地、中都市ザルツァーフェンだ。
『エピソード11 環状街道の行商人』はここまでで次回は『第二章 エピローグ』ですが、次の話は第二章のエピローグでもあるので分けているだけで、実質的にはエピソード11の最終話です。