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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード11 環状街道の行商人
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勘かフラグか その2

「何か気になる事でも?」


 森の入り口で「何かが出そうな気がする」と言うセシルにシャルルがそう聞くと、セシルは真剣な顔で答える。


「俺は昔から勘が鋭くてな。何かが起きたり敵が潜んだりしてるときは、なんとなくだがわかるんだ」


「そうなんですか。さすがは元プロハンターですね」


 ホルガは感心しているが、シャルルは笑いながら言う。


「そうやってフラグを立てるから出るんじゃないのか?」


「フラグってなんだ?」


 セシルは首をひねると、知ってるか? と問うようにホルガを見る。だが彼も知らないらしく首をひねっていた。


 ここではフラグじゃ通じないんだな……と苦笑しつつシャルルは説明する。


「フラグとはフラッグ、つまり旗の事。フラグを立てるというのは――そうだな。神にだけ見える言葉の旗を立て、それを見た神がその言葉通りの事を起こしたくなるきっかけを作ってしまう事……かな」


「ほう。なんか面白いな。宗教の教義か何かか?」


「そうじゃないんだが……まあ、私の故郷に伝わる伝承みたいなものさ」


 感心したように話を聞くセシルたちに、そんな大層なものでもないんだが……とシャルルは再び苦笑した。


 それはそうと勘というものも馬鹿にはできない。一応は警戒しておいた方が良いだろう。


 そう思いシャルルはセシルたちに聞く。


「ところで、この森にはどんな獣が出るんだ?」


「野犬とか、ゴブリンやコボルトですかね」


「そうだな。俺もここには何度か来た事があるが、ジュグベール森林の中でも浅い場所だからあまり強い獣は出ないと思う。厄介そうだったのは一度だけ見たキラースパイダーくらいかな」


「それって、巨大蜘蛛の事ですか?」


 ホルガの質問に、セシルはあごに手をあて少し考える。


「巨大蜘蛛って犬くらいの大きさのベージュの奴か?」


「はい」


 頷くホルガにセシルは笑う。


「ははは、そいつじゃねえよ。そいつはビッグスパイダーだ。俺が言ってるのはもっと上位の、全身が真っ黒でそいつよりだいぶでかい奴だ」


 セシルがそう言うとホルガは青くなる。


「うげっ。そんなのが出るんですか!?」


「見たのは一度だけだけどな。それにまあ、一匹だけならたいした事ないぞ」


 シャルルはビッグスパイダーもキラースパイダーも知らない。


 そういうとき、彼は主にマギナベルクのハンターギルドで見た指定害獣表の駆除報酬を参考に強さを測る。


 だが、マギナベルク近辺ではあまり出ないのか、どちらも載ってなかったのでさっぱりわからない。


 まあ、セシルが厄介そうと言いつつも一匹ならたいした事がないと言うのだから、キラースパイダーでも精々ワイルドウルフくらいだろうとシャルルは思う。(実際はワイルドウルフの方がずっと強いのだが)


「なるほど……」


 森で普通に遭遇する獣がシャルルの脅威になるとはちょっと考えられない。とはいえ、ここに居る全員を守りきれるかどうかとなると話は別だ。


 例えば大群で押し寄せてきた場合など、特殊な状況では難しい場合もある。なので本当に獣が出るのなら、早めに察知し対処した方が良いだろう。


 そう考えたシャルルは悪いな……とは思いつつも、ステラやケイトたちと共に寝息を立てているシルフィを起こし命じる事にした。


 シャルルはステラに寄りかかるようにして眠るシルフィの頬を軽くつつく。すると彼女はうっすらと目を開けて、あくびをしながらシャルルを見る。


「ふぁ……ごしゅじんしゃま……」


「寝ているところすまんが、村に着くまで獣の気配に警戒してもらいたい」


 シャルルの指示を聞いたシルフィは一度大きくあくびをし――


「おまかせください、ごしゅじんさま!」


 そう言うと『ビシッ』という音が聞こえてきそうな敬礼をした。




 森に入って数時間。馬車は何事もなく順調に進む。


 昼食のあとだからなのかステラはうつらうつらとし、抱きかかえられているシルフィも同じくうつらうつらとしていた。


 それから更にしばらく。半分寝ているような状態だったシルフィの目がカッと見開かれる。


 そして彼女はステラを起こさぬよう静かに飛び立つと、シャルルのもとへ行き耳元でささやくように言った。


「……ごしゅじんさま。すこし先でこどもくらいの大きさのいきものがまちぶせしてるみたい。ぜんぶで5匹だとおもう」


 それを聞きシャルルは考える。子供くらいの大きさで5匹くらいの集団。となるとゴブリンかコボルトあたりだろうか。


 もしその程度なら、シャルルはもちろんセシルやシルフィでも余裕で対処できるだろう。


 とはいえ接触して戦闘になれば何が起きるかわからない。それこそステラやケイトが怪我をする可能性だってあるだろうし、やはり憂いは取り除いておくべきだ。


 しかし本当に勘が鋭いのか、それともフラグが立ったのか……苦笑しつつシャルルは御者台のセシルに言う。


「ちょっと良いか?」


「どうした?」


「花を摘みに行きたいんだが……」


「ん? ああ……わかった」


 セシルの応答に、フラグは駄目でもこっちは通用するんだなぁ……とシャルルは再び苦笑した。

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