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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード11 環状街道の行商人
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適当な誕生日 その5

 ケイトの服についている星のバッジ。それは星の魔女の話に出てくるもので、劇を見に行ったときセシルに買ってもらったものだ。


 すべての話に出てくるわけではないが、星の魔女が倒したドラゴンの数だけ服や帽子に星のバッジをつけているという描写がある話もある。


 これはそれをもとに作られた星の魔女グッズの一つ。


 ステラもこれなら喜ぶだろう。そう思いケイトはバッジを外しステラに渡した。


「私からはこれ。星の魔女の星のバッジよ」


「おおー! ありがとー!」


 ステラはバッジを受け取ると、早速帽子につけようとする。


 だが、うまくできなくて四苦八苦していた。


「つけてあげる」


 そう言うとケイトはバッジを受け取りステラの持つ帽子につける。


 そしてそれを受け取ると、バッジのついた帽子をかぶって杖を持ち、嬉しそうに笑ったあと、ステラは再び二人にお礼を言った。


「せしる、けいと、ぷれぜんとありがと」


「ああ、どういたしまして」


「どういたしまして」


 笑顔で答えたあと、セシルはケイトに言う。


「あれ、お気に入りだろ? あげちゃって良かったのか?」


「そりゃ気に入ってたし大切にしてたけど……でも、特別な思い出の品ってわけでもないし、それにまた買ってくれるでしょ?」


 そう言って笑うケイトにセシルは笑い返す。


「ははは、まいったな」


 プレゼントをもらってご機嫌なステラやそんな会話をして和やかに笑うセシルとケイト。その間シャルルは必死で思考をめぐらせていた。


 まずいな……。


 シャルルはケイトと違い主催者側なので、当然パーティが開かれる事は事前に知っていたのだが――


 ケーキの用意に意識が集中していたため、誕生日プレゼントというものが思考から完全に抜け落ちていた。


 そのため何も用意していない。


 プレゼントがセシルからだけなら、後日ステラに欲しいものを買ってやるといった感じでも良かっただろう。


 だが、ケイトからもプレゼントがあったとなると、後日では旬を逃すというか今更感が出てしまう気がする。


 では、何をあげるか?


 旅人であるシャルルの持ち物は少ない。その中でプレゼントに適したものとなると――


 シャルルは自分の左手につけている二つの指輪を見る。


 一つは課金ペットである精霊を呼び出し使役するためのアイテム、エレメンタルリング。もう一つはHPの自然回復を2倍にするリング・オブ・リジェネレーション。


 どちらも貴重なアナザーワールド2のアイテムだが、ステラが独り立ちするときにはあげても良いと思ってる。


 だが渡すのは今ではないだろう。なくしそうな気がするし。


 となるとあげられるものは……シャルルは道具袋の中身をテーブルの上に並べる。


 出てきたのは懐中時計、方位磁針、干し肉、ただの紐などなど。この中からあげるとしたら……やはり懐中時計だろうか。


 この懐中時計、時計としては安物だが、シャルルがこの世界に来て初めて購入したもので、ある意味思い出の品。


 外装は鉄製で色は光沢の無い銀色。形はいわゆるねじ巻き式の普通の懐中時計だが、大きさは大人の手のひらより少し小さい程度なので結構大きい。


 カバーを最大まで開けると置時計代わりに使え、ねじを巻く部分のすぐ上には、つけてないが鎖をつけるところがある。


 文字盤はアナログで秒針は無く、時間の調整は長針を指で動かして行う。


 15時間程度で止まってしまうので、一日2回程度ねじを巻く必要がある。


「今度鎖も買ってやるから、とりあえずプレゼントはこれで良いか?」


 そう言ってシャルルは手に持った懐中時計をステラに見せた。


 すると――


「おおー! おおー!」


 彼女は両手を握って興奮し、シャルルの想像を遥かに超える反応を見せる。


 そして時計をワンピースのポケットにしまうとにこにこしながら言う。


「しゃるー、いまなんじってきーて」


「ん? ああ、今、何時だ?」


 一瞬、意味がわからず戸惑ったが、すぐさま気づきシャルルは時間を聞く。するとステラは懐中時計を取り出し、それを見ながら嬉しそうに言った。


「えっと、えっとねー。ごご、はちじよんじゅーごふん!」


「……そうか。教えてくれてありがとう」


 得意げに胸を張るステラをなでつつシャルルは思う。


 喜んでくれたのは良いが……これ、しばらくは何度もやらされるんだろうなぁ。


 そのとき、一連の流れを見てシルフィは困っていた。


 流れから考えるにここは彼女もステラに何かあげるべきところ。しかし服やティアラは離れると消えてしまうのであげられない。


 持っているもので唯一他人にあげる事ができるもの。それは大好きなご主人様、シャルルからもらった銀貨の入った巾着だけだ。


 中には銀貨が入っているのだから、それで何かを購入してプレゼントすれば巾着は手元に残るし中身の銀貨だけあげるという手もある。


 現金をあげるというのはどうかという問題はあるが。


 だが、彼女の思考は子供レベルなのでそこまで頭は回らない。意を決し悲痛な顔をしつつ、巾着を差し出してシルフィは言った。


「これ……ステラも持ってるけど……わたしがあげられるのってこれしかないから……」


 シルフィの表情から、それが彼女にとってどれだけ大切なものかわかる。


 これはちょっとまずいのでは? そう思いケイトは止めようとした。


「ちょ――」


 だが、セシルはケイトの肩に手を置きそれを制す。


 シルフィとて意を決し差し出したであろうもの。それをどうするか決めるのは本人たちであるべきで、他人が口を挟むべきではないと思ったからだ。


 シャルルの意見もセシルと同じ。


 ケイトもそれをなんとなく察し、三人はステラの行動を固唾を呑んで見守る。


 そのときステラの取った行動は――


「ありがとー」


 そう言って巾着を受け取ると、自分の首に提げていた巾着を取ってシルフィの首にかけ言った。


「じゃー。すてらのはしるふぃにあげるね」


「えっ!? いいの?」


 呆然とするシルフィに対しステラは笑顔で言う。


「だって、しゃるーがしるふぃとおそろいでくれたもん。すてら、しるふぃとおそろいがいい」


「ステラ……大好き!」


 大粒の涙をこぼしながらシルフィはステラに抱きつく。それを受け止めステラは言う。


「すてらも、しるふぃだいすき」


 どうするのが正解だったのかはわからない。受け取らないという方法もあっただろう。


 だが、これもたぶん間違いではない。


 そう思ったシャルルたちは、抱きしめ合う二人を見て優しく微笑んだ。

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