適当な誕生日 その3
「え? なになに? こんな豪華で良いの?」
テーブルに並べられた料理にケイトは目を白黒させる。
そんな彼女に笑いながらセシルは言った。
「ステラちゃんの誕生日パーティだからな」
「えっ、そうなの? わぁ、おめでとう」
そう言ってケイトはステラに笑顔を向ける。
だが、当のステラは首をかしげていた。
「たんじょーび? すてらの? そーなの?」
「え? 違うの?」
今度はシャルルを見るケイト。するとシャルルは言う。
「実はステラの誕生日はわからないんだ。この子が覚えていないからな」
それを聞き、ケイトは再びステラを見る。
「そうなの?」
「うん。しらない」
「だから、ステラと私が出会った日を誕生日にする事にした」
「へー、それが今日なんだ。それは素敵ね」
そう言って微笑むケイトに対し、ばつが悪そうにシャルルは言う。
「いや……実のところ正確な日にちは覚えてない。だいたい今くらいの時期だ」
「えー……それはちょっとひどいよ」
ケイトはそう非難するが、セシルは笑いながらフォローするように言った。
「ははは、そう言うな。俺もケイトと出会ったのが何月何日かなんて覚えてないぞ?」
「えー、ひどい」
「じゃあ、ケイトは覚えてるのか?」
「……覚えてないけど」
「まあ、そんなもんだろ」
とはいえシャルルたちとセシルたちでは事情が違う。
セシルはもちろん何年前の何月かくらいまでなら覚えてるし、ハンターギルドに記録が残っていれば正確な日にちを調べる事もできる。
だが、ケイトとの出会いは彼女の村がオークに滅ぼされた事とは切り離せない出来事。なので思い出したいとも思わないし祝う気も無い。
「ところでステラちゃんはいくつになったんだ?」
「それは――」
セシルの質問にシャルルは答えられずステラを見る。
すると彼女は両手を広げ嬉しそうに言った。
「じゅっさい!」
「えー!?」
声をあげ驚くケイト。セシルも声にこそ出さないが驚きの表情を見せる。
それを見てシャルルは毎度の事だなぁと思う。
「いや、この子は初めて会ったときから歳を聞くと10歳って言うんだ」
「じゃあ、11歳になったって事!?」
「そうじゃなくてだなぁ……」
ケイトの質問にシャルルは苦笑する。
「本当は何歳なんだ?」
セシルがステラにそう聞くと――
「えっと……わかんない」
いつも通り首を傾げながらそう答えてステラは笑った。
仕切りなおしとばかりにパンパンと手を叩くとセシルは言う。
「まあ、何歳になったのかはわからんが――とりあえず、誕生日おめでとう」
「ステラちゃん、誕生日おめでとう」
「おめでとう、ステラ」
「おめでとう」
セシルの言葉を皮切りに、ケイト、シルフィ、シャルルが次々に祝福の言葉を贈る。
しかしぴんと来ないのか、ステラはそれを口を半開きにしながらぼけーっと聞いていた。
「ほら、ありがとうは?」
「えっと、ありがと……」
本当の誕生日でもなければ実際の歳もわからない。シャルルに促されお礼の言葉は言ったものの、ステラは他人事のように感じているように見えた。
だが、それでも準備はできているのでパーティは始まる。
そして料理の味は自分が祝福されているという自覚とは関係ない。
みんなで『いただきます』の挨拶をしたあと、ステラにねだられシャルルは大皿に盛られた唐揚げを取り皿に取ってやった。
ステラは大口を開けると不器用にグーで持ったフォークに刺した唐揚げを頬張る。
それを数回そしゃくしてから飲み込むと、彼女は両手を頬にあてて幸せそうな表情で言った。
「おいしー!」
「ははは。そうか、良かったな」
「うん」
ステラは大きく頷くと、再び唐揚げを頬張っては幸せそうな表情をする。
それを見てシャルルは、ヴォルフのところや伯爵のところに居たときはもっと良い物を食べていたんだが、そのときよりもおいしそうに食べるなぁ……と思う。
パーティのメニューは三つの大皿と各席に置かれた骨付きチキンの照り焼き、コーンポタージュ、柔らかなパン。(シルフィの席には皿の上に魔石が数個)
大皿にはそれぞれ、山盛りの唐揚げとフライドポテト、これまた山盛りだが具は少なめのスパゲッティナポリタン、そしてレタスをメインとし、ピーマン、セロリ、トマトで飾り付けされ香草が混ざったドレッシングがかけられたサラダ。
シャルルとセシルの席にはグラスに注がれた赤ワインがあり、ステラとケイトの席にはぶどうジュースが置かれている。
どうやらステラは唐揚げが気に入ったらしく、何度もシャルルにねだっては次々と唐揚げを頬張った。