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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード11 環状街道の行商人
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適当な誕生日 その2

 ステラが起きた日を思い出すためシャルルは自分の記憶を探る。


 あれは確か……7月の中旬、いや下旬か? 7月なのは間違いないと思うが……まあ正確に覚えていたとしても、結局本当の誕生日ではないんだよな。(もちろん三百数十分の一の確率で本当の誕生日である可能性もあるが)


 ならばアバウトに7月中旬以降、8月前という事で良いだろう。


 そして今はまさにその時期。次の町に着いたらケーキでも買って祝ってやるか。


 ケイトたちとうちわで扇ぎあうステラを見つつシャルルはそう決める。


 そしてその日の夜。子供たちが寝静まったあと、見張り交代のタイミングでシャルルはセシルに相談する事にした。


 シャルルは焚き火の前で静かに燃える火を眺めていたセシルに声をかける。


「子供たちも寝たし、そろそろ代わろう」


「そうか。じゃあ、一眠りさせてもらうかな」


 そう言って立ち上がりかけたセシルにシャルルは言う。


「その前に少し相談したい事があるんだが……良いか?」


「ん? ああ、かまわねえよ」


 再び腰を下ろすセシルの横に座りシャルルは話し始める。


「実は次の町に着いたらステラの誕生日会を開いてやりたいと思ってる。そこでケーキが欲しいんだが、どこかで入手できないだろうか?」


「ほう。ステラちゃんの誕生日か。次はダヴィンだが……あそこに行くのはいつもこれくらいの時期だから、さすがにケーキを買った事はないなぁ。まあ、手に入らないという事もないとは思う」


「私は初めて行くところなので土地勘がない。だから君にケーキを売っている店か出してくれる店を探してもらいたいんだが……」


「わかった。あてがあるわけじゃないから確約はできないが、町に着いたら商売の交渉がてら探しておこう」


 そう言って笑うセシルにシャルルは軽く頭を下げ言った。


「ありがとう。そうしてもらえると助かる」




 翌日、昼食の休憩を終えてしばらく。御者台でいつも通り妙な歌をつっかえつつ歌っていたステラは歌うのをやめ、シャルルのいる荷車の方を見て言う。


「しゃるー! いえ、いえ」


「ん? いえーい?」


 風が通るよう開けられた幌の先、今まで通ってきた道をぼーっと眺めていたシャルルは振り向くと、両手の親指を立て適当に答える。


 だが、それはステラの望んでいた反応ではなかったらしく、彼女は不満げに体を揺さぶった。


「ちーがーうーの! いえなの! おうちなの!」


 どうやら先に見える何かの事を言っているらしい。


 家だのおうちだのと言っているのだから、たぶん建物があるのだろう。


 そう思いつつシャルルがステラが見ていたと思われるこれから進む道の先を見ると、遥か先に建物が密集しているような何かが見えた。


「あれは……町か?」


「宿場町ダヴィンだ」


 シャルルのつぶやきにセシルが答える。


「今日中に着けそうか?」


「ああ。この感じだと日が沈む前には着けると思う」


「じゃあ、今夜はベッドでゆっくり寝られそうだな」


 シャルルの言葉にステラは大きく頷く。


「うんうん。いっしょにねよーね」


「いや、それだと暑いしゆっくり寝られないだろ」


 シャルルがそう返すとステラは頬を膨らませる。


「かぞくはいっしょなの! いっしょにねるの!」


「いやいや、セシルとケイトは一緒に寝てないぞ?」


 シャルルがそう言うとステラはケイトを見て言う。


「そーなの? かぞくなのに?」


「私はもう子供じゃないから……」


「ちょっと前まで一緒じゃないと眠れないって言ってたのにな」


 セシルがそう言うと、ケイトは顔を赤くする。


「ちっちゃい頃でしょ! ずーっと前よ!」


「ははは。まあ、ちょっと前までちっちゃかったもんな」


「もー! 知らない」


 頬を膨らませそっぽを向くケイトを見てシャルルは思う。


 ステラもいずれはこんな事を言うようになるかもしれん。


 確かに今は一緒に寝たがるのを疎ましく感じる事もあるが……嫌がるようになったらそれはそれで少し寂しいな。


 そして夕刻。馬車は宿場町ダヴィンに到着する。


 夕刻と言っても夏なのでまだ日は高い。セシルは馬車の見張りをシャルルに任せると、商売の交渉に行くと言って出かけた。


 持ち主が馬車から離れる場合、ギルドや都市、町など、信用の置ける機関が運営する駐車場に預けるのが普通だ。


 しかし、短時間で見張りを任せられる仲間が居る場合、このように誰かが留守番をする場合もある。


 とはいえ馬車は行商人にとって生命線。したがって留守番は信頼できる者でなければ任せられない。


 セシルはシャルルに対し自分と似た境遇を持つという親近感も手伝って、ここまでの旅でケイトと馬車を短時間なら任せられるほど信頼するようになっていた。


 しばらくしてセシルが戻ると馬車を倉庫に移動させ、積荷を降ろしたり積み込んだりする。


 今回は主に衣料品や魔法道具、そして魔石を積み込んだ。


 そのあとは町営の駐車場に馬車を預け、セシルがさっき取っておいたと言う宿に向かう。


 そこは一階が食堂で二階は素泊まり専用の部屋という、この世界では割と良く見かけるタイプの宿。


 食堂もセシルが予約していたらしく、案内された席に着くと(一般人から見ればだが)それなりに豪華な料理が運ばれシルフィの席にも魔石が置かれた。

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