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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード11 環状街道の行商人
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適当な誕生日 その1

 小都市ケルブリッツを出て約二週間。特に問題もなくシャルルたちを乗せた馬車は順調に街道を進む。


 その間シャルルは明かりや水の供給だけでなく、野宿のときは食事の準備や夜間の見張りを手伝い、立ち寄った町では荷物の積み下ろしを手伝うなど色々と仕事をした。


 完全に客である乗合馬車のときは当然だが、行商人などの馬車に乗せてもらったときもここまでの仕事はしていない。だが、それでも今回の旅が一番楽だなとシャルルは思う。


 なぜならステラの面倒をケイトが良く見てくれたからだ。


 彼女はシルフィと共に、ステラと一緒に本を読んだりゲームをしたり歌を歌ったりしてくれた。


 もちろんシャルルも完全にノータッチというわけではない。ステラにねだられ一緒に歌ったりゲームに参加したりとある程度は彼女の面倒を見ている。


 だが、それでも今までと比べシャルルの負担はかなり少ないと言えるだろう。


 7月中旬、季節は夏。大陸最北端、竜の山脈の麓にある鉱山都市マギナベルクならまださわやかな暑さの初夏という時期。しかし今いるのは大陸北部最南端に近い場所。マギナベルクとは違い夏真っ盛りだ。


 相変わらず黒っぽい魔女風ワンピースを着ているステラはスカートの端を持ち上げぱたぱたと風を送りながら言う。


「しゃるー、つめたいおみずちょーだい」


「駄目だ。いっぱい飲むとお腹壊すぞ」


 ステラはシャルルの返事に頬を膨らませる。


「さっき、おうまさんもおみずのんだ。すてらものみたい」


「休憩のときだろ? そのときはお前も飲んでたじゃないか」


「けちー!」


 二人の会話にセシルが笑う。


「ははは。でもその服じゃ暑いだろ。ちょっと大きいとは思うが、ケイトの着替えを貸そうか?」


「ランニングのワンピースなんてどう? 少しは涼しくなるかも」


 そう言ってケイトは箱から服を出そうとするが、ステラは首を振る。


「すてらまじょだしー、しゃるーとおそろいがいーからこのふくがいーの」


「そういえばシャルルの服装も暑そうだな……」


 漆黒のローブの下は長袖とはいえシャツ一枚だしローブの生地はさほど分厚いわけでもない。とはいえ夏に相応しいとはさすがに言えない服装だ。


 しかしシャルルは涼しい顔で言う。


「私は別に暑くないな」


 シャルルは去年の夏にもマギナベルクでしていたように、風を出す生活魔術ウィンドを使ってローブの中から熱を外に逃がしている。だから夏でも涼しい顔をしていられる――というか涼しいのだ。


「すてらはあつい~」


 そう言うとステラはシャルルにのしかかるように抱きついてくる。


「あ、こら。暑いからくっついてくるな」


 風で熱を外に逃がしているとはいえ、さすがにこれではシャルルも暑い。


 一方、ローブの隙間から出る風にあたりステラは言う。


「あ、しゃるーはちょっとすずしー」


「なんとかしてくれ……」


 シャルルが助けを求めると、ケイトがうちわを取り出してステラを扇ぐ。


「ほら、ステラちゃん。扇いであげるから」


「はー、すずしー」


「わたしもあおいであげる」


 そう言うとシルフィもうちわでステラを扇ぎだす。


「じゃー、すてらも」


 こうしてステラ、ケイト、シルフィは互いに互いを扇いだ。


 それを見てシャルルは思う。


 シルフィは暑さ寒さを苦にしないから、扇いでやらなくても良いんだよなぁ。それに風を出せるんだから、うちわで扇ぐよりその方が絶対涼しいだろ。


 とはいえ微笑ましい光景なので無粋にそれを指摘したりはしない。


 そんなステラたちの様子を見てシャルルは思い出す。


 夏か……そういえばステラと出会ったのも丁度これくらいの時期だったな。


 去年の夏に受けたゴーレム討伐の依頼。それを果たしたあと、シャルルは遺跡に入りステラと出会った。


 永い眠りから覚めたばかりの彼女は自分の名前すら覚えておらず、それは今でも思い出してはいない。


 そもそも現在のステラを見ると、過去の記憶は物心つく前のものとも考えられる。


 だとしたら今後も永遠に思い出す事は無いだろう。


 そういうわけで彼女の本当の名前も年齢も、誕生日さえもわからない。


 とはいえ出会ってからそろそろ1年くらい経つ。


 となると恐らく誕生日はもう過ぎていると思われるが――わからないので祝ったりはしていない。


 子供のときに誕生日を祝ってもらえないってかわいそうだよなぁ。


 ステラは長い間寝てたんだし、起きた日を誕生日って事にしても良いんじゃないだろうか?


 うん、そうだ。それでいこう。


 そうシャルルは思ったのだが――残念な事に彼はステラが起きた日をちゃんと覚えていなかった。

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