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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード11 環状街道の行商人
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家族になるという事 その5

 夕食の準備をしていたセシルは、水を出してもらうために呼んだシャルルだけでなくステラやシルフィまで来たのを見て言う。


「ん? 飯はまだだぞ?」


「すてら、ここでまってる」


「そうか」


「水はどこに出せばいいんだ?」


「ああ、スープに使うからこの鍋に……」


 こうして夕食の準備が進む中、ケイトはそれを手伝いつつさっきステラが言っていた事を思い出していた。


 ステラちゃんはシャルルさんに『家族になろう』って言われて、『うん』って言ったから結婚して夫婦になったって言ってたけど……それって私もセシルに言われた事あるのよね。


 つまりステラちゃんの言う通りだとしたら、私とセシルも――そう考えると嬉しいような恥ずかしいような……なんとも言えない気持ちになる。


「ちょっと荷車からパンを持ってきてくれないか?」


 夕食の準備を進めるセシルはケイトに言う。


 だが、思いに耽っている彼女にセシルの声は届かない。


 不審に思ったセシルは何度も問いかけた。


「……ト、……イト、おい、ケイト!」


「え? あ、なっなっなに!?」


 肩をつかまれケイトはようやく現実に戻ってくる。そして心配そうに自分を見るセシルに顔を紅潮させた。


「荷車からパンを取ってきて欲しかったんだが……大丈夫か?」


「う、うん。大丈夫。と、取ってくるね」


 セシルと結婚、セシルと夫婦。そんな事を考えていたせいで彼の顔をまともに見られなくなっていたケイトは、慌てて荷車にパンを取りに行く。


 そして、戻ってからもケイトはセシルの顔をまともに見られず、ちらちらと見ては顔を紅潮させていた。




 夕食を終えてしばらく。ステラの相手をしていたシャルルは、あくびし始めた彼女を寝かしつける。


 そして眠るために来たケイトと入れ替わりで荷車を降り、焚き火の前にいるセシルのもとへ行った。


「子供たちは寝たか?」


「ああ、ついさっきな」


 セシルの質問に答えつつ、シャルルは焚き火の前のセシルの左隣に腰掛ける。


 そして二人は無言でしばらく燃え盛る炎を見つめていた。


 沈黙を破りシャルルは言う。


「ところで……私は昼間も寝られるし、夜間の見張りは基本的に私がやった方が良いと思うんだがどうだろうか?」


「ああ、そうしてもらえると助かる」


「では、そうしよう」


 そして再び沈黙が流れしばらく。今度はセシルが沈黙を破り口を開く。


「少し……昔話を聞いてもらっても良いだろうか?」


「昔話? まあ、かまわないが」


 シャルルがそう答えると、セシルは語り始める。


 自分がかつてハンターとして名を上げる事を目指していた事や、パーティが壊滅したドラゴンとの戦い。そしてオークに滅ぼされた村の奪還に参加し、ケイトと出会い引き取った事を。


 特に自慢になる話でもなければ楽しい話でもない。なぜセシルが急に自分の過去を語り始めたのかがわからずシャルルは首をかしげる。


 そんなシャルルにセシルは聞いた。


「ところで、ハンターの不文律って知ってるか?」


「ああ。ハンターの……いや、他人の過去を詮索してはならないという奴だな」


 シャルルが答えるとセシルは頷く。


「そうだ。俺も基本的に自分の過去を他人に話したり、他人の過去を詮索したりはしない。だが今日、偶然ステラちゃんがケイトと話しているのが聞こえちまってな。あんたも俺と同じように引き取った子の……家族のために生きる人なんだと知ってしまった」


 セシルの言葉を聞きステラが隠してたのはこれか……とシャルルは思う。


 まあ、引き取ったという事くらいなら知られたところでどうという事もない。


 だが、遺跡で眠っていた事や、自身がエトワールだという事まで話していたらちとまずい。


 その場合は何かしらのフォローと言うかごまかしをしておく必要があるだろう。


 そう思ったシャルルは慎重にセシルに尋ねる。


「なるほど……それで代わりに自分の過去を。ところで、ステラはどんな事を話してたんだ?」


「俺が聞いちまったのは、あんたがステラちゃんに『家族になろう』と言ったという事だけだな。その前に夫婦がどうのとケイトと話していたみたいだが……そこはあまり聞こえてこなかったから良くわからん」


「そうか……」


 それならたぶん遺跡やエトワールの話はしてないだろう。


 まあ、詳しくはシルフィに聞くとして――とりあえずセシルには当たり障りのない部分だけ話しておくか。その方が気にならなくなるだろうし。


 そう思いシャルルは語る。


「実は私も以前は君と同じでハンターをやっていた。そして……ある依頼で偶然、身内を失い一人になったステラと出会い引き取ったんだ」


「そうだったのか……なんか俺たちは少し似てるな」


「そうだな」


 セシルとシャルルはそう言うと、互いにフッっと少し笑う。


「俺はさっきも言った通りレベル3止まりだったんだが……あんたは?」


「私は――」


 ハンターの仕事中にステラと出会い引き取ったと言った以上、レベル2だったと言うと変に勘ぐられるかもしれない。とはいえレベル3以上だったと言えば嘘を教える事になる。


 さて、どう答えたものか……そうシャルルが思案していると、荷車の幌から顔を出してステラがシャルルに言う。


「しゃるー……おしっこ」


「はいはい」


 良いタイミングだ、たぶんこれでごまかせる。


 そう思いつつシャルルはステラを抱きかかえるとセシルに軽く会釈をし、ステラをトイレに連れて行った。

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