表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード11 環状街道の行商人
202/227

家族になるという事 その3

 しかし……さすがに同じ歌の繰り返しは飽きるなぁとシャルルが思っていると歌声が止まる。


 ようやく終わりかな? とシャルルは思ったのだが、ステラはシャルルの居る荷車の方を向いて言った。


「しゃるーもいっしょにうたおーよ」


「えー……」


 繰り返し聞かされたから曲も歌詞も覚えてはいる。だが歌いたくはない。


「うたって、うたって、うたってー」


「一回だけだぞ……」


 体を揺さぶり駄々をこね始めたステラを見て、このままだとセシルたちに迷惑がかかりそうだな……とシャルルはしぶしぶ了承する。


「やったー!」


 そしてステラが両手を上げ喜んでいると――


「じゃあ、セシルもね」


 とケイトは言った。


「おおー!」


「俺もかぁ?」


「シャルルさんだって歌うんだから。みんなで歌うの!」


「しょうがないなぁ……」


 苦笑するセシル。


 うかつに了承したばっかりに、結局セシルに迷惑をかける形になってしまったか……とシャルルも苦笑する。


「じゃ、歌うわよ」


「はーい!」


「わかった」


「一回だけだからな」


「やれやれ……」


 そしてシャルルたちの乗る馬車から、馬を除く全員の合唱が響いた。




 セシルの馬車は正午少し前の昼食時と午後3時過ぎに休憩をし、そのあとは日が傾くまで街道を進む。


 そして空が茜色に染まり始めた頃、セシルは馬車を道の端に寄せて停めると野宿の準備を始めた。


 馬車を降りたシャルルの目に映るのは広大な草原とそれを左右に分断する真っ直ぐに伸びたどこまでも続く道。


 道の先にもあとにもシャルルたち同様、野宿の準備をしていると思われる馬車が見える。


 それを見てシャルルは思う。少し進むか戻るかすれば合流できそうだが……しないんだな。


 以前に乗った馬車の中にはほかの馬車と合流して野宿をする人もいた。


 それは見張りの負担を軽減できたり、集団だと野盗に襲われにくく対抗もしやすいというスケールメリットがあるからだ。


 元々グループで行動している場合、あまり自分たちから持ちかけたりはしないようだが、今回のように少人数の場合は可能なら合流するという感じだった。


 ステラの手伝いという名の邪魔にもめげずがんばるケイトと共に、野宿の準備をテキパキと進めるセシルにシャルルは聞く。


「なあ、セシル」


「ん? なんだ?」


「ほかの馬車と合流したりはしないのか?」


 その質問にセシルは軽く笑う。


「キャンプ場ならともかく、ジュグベール環状街道を回ってる行商人は基本的にしないぞ」


「そうなのか。しかしなぜ?」


 シャルルが理由を聞くとセシルは教えてくれた。


 ジュグベール環状街道を回っている行商人はグループで行動している者が多く、見張りの分担は無理の無い形でできているので合流するメリットは少ない。


 むしろ逆に合流した者たちが一般人を装った野盗などである可能性を警戒する必要があるため、デメリットの方が多くなってしまう。


 そういう理由から合流を求めても受け入れてくれる人は少ないし、セシルとて合流した相手が本当に大丈夫なのかを警戒する必要がある。


 結局合流はしづらいし、できてもさほどメリットはないのでしないのだと言う。


 ちなみにある程度の距離を取って野宿しているのは、互いに警戒しつつ、それでいて警戒されないようにするため。


 これはジュグベール環状街道を回る行商人たちのいわゆる不文律らしい。


 もっとも、これは街道の途中で野宿する場合に限っての事であり、街道に点在するキャンプ場を使う場合は別だ。


 キャンプ場は国(というか近くの都市)の運営で、整備のため定期的に都市兵が派遣されている。


 だが、都市兵といっても整備のために来ているので、見ただけでそれとわかる格好をしている事はまれだ。


 そのため都市兵と一般人の判別が難しく、都市兵の前でだけ行儀良くするのは難しい。


 キャンプ場は都市の管轄なので、そこで問題を起こして都市兵に見つかれば都市の入場を禁止されるなどの処罰を受ける可能性がある。


 そんな事になれば行商人や運送業者にとっては死活問題だ。


 そんな理由からキャンプの利用者は自制する者が多く問題は起きづらい。


 それに利用者も多く常に多数の人が居て、キャンプ場はハンターなんかも利用するので野盗などに襲われにくいというメリットもある。


 なのでセシルもキャンプ場では他人と合流するらしい。


「なるほど」


「ちなみに俺もちょっと前まではグループで行動してたし、今でも知り合いと行き先が合えばそうしている」


「じゃあ、今回はたまたまそうしてなかったって事か」


 だとしたら、私は運が良かったのだな。そうシャルルは思ったのだが――


「まあ、最近じゃどっちかって言うと、グループで行動する方がたまたまだけどな」


 と言ってセシルは笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この話と同一世界で別主人公の話

『小さな村の勇者(完結済)』

も読んでみてください

よろしければ『いいね』や『ポイント』で本作の応援もお願いします

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ