家族になるという事 その2
良く晴れた空の下、力強く歩く馬を見ながらステラは上機嫌で謎の歌を歌いだす。
「みち~はつづくよ~♪ まっすぐに~♪ うま~はあるくよ~♪ ぱかぱかと~♪ そら~はあおくて~♪ くも~はしろ~♪ かぜ~は……えっと、かぜ~は……」
ステラの歌は即興で、語彙の乏しさから意味不明な場合が多く、そして良くつっかえる。
「えっと、えーっと……」
続きを考えるステラを見ながらケイトは思う。そういえば、昨日も歌ってたし歌が好きなのかな?
続きがなかなか思い浮かばないらしく、ステラの歌は当分再開しそうもない。
これなら話しかけても良いかな……と思い聞いてみる事にした。
「ねえ、ステラちゃんって歌が好きなの?」
「ん? んーっと……わかんない」
「そ、そっか」
「うんっ」
なぜか嬉しそうに笑うステラにケイトも笑う。
「星の魔女は好きなのよね?」
「うん。ねりーといっしょによんでー、たーしゃといっしょにみにいった!」
相変わらず説明不足なステラの返答にケイトは少し考える。
確か『たーしゃ』は友達の名前だって言ってたから『ねりー』もたぶん友達の名前よね。
『よんで』っていうのはたぶん本を読んだって事で『みにいった』は劇を見に行ったって事じゃないかしら?
単純に『うん』だけじゃなくてそれらを付け加えるって事は、たぶん大好きって意味よね。
「へー、そうなんだ」
「うんっ」
歌は――わかんないって言ってたけど、たぶん好きなんだと思う。じゃなきゃあんまり歌ったりしないと思うし。
そして星の魔女は大好き。それなら――
「ねえ、ステラちゃん。一緒に星の魔女の歌を歌いましょうよ」
「ほしのまじょのうた?」
帝国民なら覚えているかどうかは別として、聞いた事もないというのは珍しい歌。だが、知らないのかステラは首をひねりながら考え込んでいる。
星の魔女が好きなのに歌を知らないなんて……不思議に思ったケイトも首をひねっていると、そこにシルフィから質問が飛ぶ。
「星の魔女の歌って、劇で歌ってた歌かしら?」
「あー、うん。たぶんその歌ね」
シルフィの質問にケイトは頷く。
書籍同様、星の魔女に関する歌はいっぱいあるが、ずばり『星の魔女の歌』という題名の歌がある。
ケイトの言ってるのはその歌だ。
ケイトは何度かセシルに星の魔女の劇を見に連れて行ってもらった事があり、そしてどの劇でもその歌は歌われていた。
なのでステラたちが見た劇でも歌われていたはずだとケイトは思う。
聞けばわかるんじゃないかな? そう思ったケイトはとりあえず歌ってみる事にした。
「じゃあ、まず私が歌うから、歌えそうだと思ったら一緒に歌ってね」
「うん」
ケイトの言葉にステラは頷く。だが、シルフィは我関せずという感じでステラの近くでふわふわ浮いていた。
それを見てケイトは思う。
今まで会ったエレメンタルは好奇心旺盛な子が多かったけど、この子はなんだかクールというか他人に無関心な感じ。
でも旅は長いんだし、この子とも仲良くした方が楽しくなるはず。
「シルフィも歌えそうなら一緒に歌ってね」
「はーい」
そして、ケイトは歌いだす。
悠久の眠りから、目覚めし魔女は
空に輝く、希望の星
闇夜に迷うみんなのために
月より明るく大地を照らす
みんなの友達、優しい魔女は
今日も旅して、世界を回り
困った人に手を差し伸べて
みんなの幸せ守ってくれる
「おおー」
「なかなかじょうずじゃない」
ステラは嬉しそうに声を上げながら拍手し、シルフィはほめる。それに照れつつケイトは聞いた。
「へへ、ありがと。どう? 知ってる歌だった?」
「んー?」
ステラは首をかしげるが――
「んもう。劇できいたでしょ」
シルフィはそう言うのでステラが覚えていないだけだろう。
とはいえ覚えてないなら知らないも同然。ケイトは苦笑しつつステラに言った。
「じゃあ今から覚えましょ。私が先に歌うから、まねして歌ってね」
「うんっ!」
「悠久の眠りから、目覚めし魔女は~♪」
「ゆーきゅーのねむりからー♪ めざめしーまじょわー♪」
またしても我関せずといった感じのシルフィにケイトは言う。
「ほら、シルフィも」
「はーい」
こうしてしばらく三人の歌声が響く。
微笑ましい光景だな……と黙ってそれを聴いていたシャルルだったがふと思う。観劇中に聞いたときは気づかなかったが……この歌はエトワール、つまりステラの事を歌った歌なんじゃないかと。
悠久の眠りはステラが遺跡に安置され永い眠りについていた事と一致するし、希望の星というワードも聞き覚えがある。
かなり前の事なのではっきりと覚えてはいないが、確か遺跡でエトワール・ドゥズィエムがエトワールは『ドラゴンから人類を守る希望の星』だと言っていた。
そしてみんなの幸せ守ってくれるという部分。これはドラゴンから人類を守ってくれるという意味ではないだろうか。
やはりかなり前の事なので一言一句覚えているわけではないのだが、初めて会ったとき、ステラは『どらごんをいっぱいやっつけると、みんながしあわせになる』みたいな事を言っていた。
そもそもエトワールは星という意味だ。つまり星の魔女という名前を考えた奴やこの歌を作った奴はエトワールを、それもほかのエトワールではなくステラの存在をたぶん知っている。
星の魔女は昔からこの国にある話と聞く。なので建国時からこの国に居てエトワールの存在も知っているヴォルフに聞けば、シャルルの思った通り星の魔女がステラの事なのかはっきりするかもしれない。
とはいえ、まあ……それを確認するためだけに帝都まで戻りたくはないが。
しかし、星の魔女が私の予想通りステラの事だとすると――
ケイト、シルフィ、そして一際大きなステラの歌声を聴きながらシャルルは思う。
自分の事を歌った歌を大声で嬉しそうに歌うって……なんか恥ずかしいな。
その後も歌はしばらく続く。そして、すっかり覚えたステラは一人で歌ったりしていた。