家族になるという事 その1
小都市ケルブリッツの倉庫街。そこにある食堂でシャルルは行商人セシルと出会い、中都市ザルツァーフェンまで彼の馬車に乗せてもらえる事になった。
シャルルはセシルと連れの少女ケイトの食事が終わるまで待ち、改めて自己紹介をする。
「私はシャルル。家族と共に旅をしている。そしてこの子は……ほら」
シャルルは背中を軽く触りステラに自己紹介を促す。するとステラは一度シャルルを見てからセシルたちを見る。
そして帽子を取るとペコリとお辞儀をした。
「えっと、すてらはすてら。よろしくね」
その仕草にケイトの目がハートになる。
なにこの子、超かわいい!
「わたしはシルフィ。ごしゅじんさまの――」
ステラに続きシルフィも挨拶をするが、ケイトの耳には届かない。
ケイトはステラの前まで行くと、少し中腰になって目線を合わせて言う。
「私はケイト。よろしくね」
「うん。えへへ」
頷き笑うステラをなでながらケイトは聞く。
「あなたのその格好って星の魔女よね?」
ステラは首をかしげつつシャルルを見る。そして彼が軽く笑うのを見ると帽子をケイトに見せながら嬉しそうに言った。
「んとね。たーしゃがね。すてら、ほしのまじょみたいって、ぷれぜんとってくれたの」
「え?」
ステラの言っている事はナスターシャがステラの事を「まるで星の魔女ね」と言ったり、星の魔女の帽子をプレゼントした事を知っているシャルルにはわかる。
だが、説明が下手な上に言葉足らずなせいで、それを知らない者にとっては意味不明だ。
当然ケイトも意味がわからず首をかしげる。
それを見てシャルルは言った。
「服装がそれっぽいのはただの偶然だが、帽子はステラを星の魔女みたいだと言っていたこの子の友達からプレゼントされた星の魔女の帽子だよ」
「なるほど……」
「ははは」
シャルルの説明にケイトは納得して頷き、セシルは小さな子の意味不明な言葉も親ならわかるものだよな……と思い笑う。
そして自己紹介も終わり、明朝に倉庫街の入り口で待ち合わせる約束をして解散。シャルルたちは宿を探しに商店街の方に歩いて行く。
手を引かれながらもなんども振り返り手を振るステラに対し、ケイトも笑顔で手を振り返していた。
朝の倉庫街。これから出発する者たちは準備に追われ、準備ができた者は次々と門に向かう。そんなせわしない場所にシャルルたちはやってくる。
「あっ。おーい」
「ん?」
急に手を振り出したステラの視線を追うと、そこには幌馬車の前に立つセシルとケイト。二人もシャルルたちを見ると手を振り返す。
それに対して更に大きく手を振り出すステラの手を引きながら、シャルルはセシルたちのもとへ向かった。
「おはよーございまっす!」
「おはようございます」
「おはよう。よろしく頼む」
ステラは元気に大きな声で挨拶をし、シルフィとシャルルは普通に挨拶をする。
それに対し――
「ああ、おはよう。こちらこそよろしく」
「おはようございます」
セシルとケイトもやはり普通に挨拶を返した。
状況から考えてステラだけ浮いているのだが、なぜか彼女は自分の挨拶が一番大きかった事に満足し、鼻息荒く誇らしげに胸を張る。
そんなステラに微笑むと、御者台に座りながらセシルは言う。
「じゃ、とりあえず門に行くから荷車の方に乗ってくれ」
するとケイトは御者台の方から馬車に乗り込み、内側から閉じていた幌を開け後ろ側から入れるようにした。
「わかった。こっちからだな」
荷車には商品か何かが入っているのであろう木箱や、穀物類が入っていると思われる麻袋などが積まれている。
シャルルは荷車の端に軽く手をかけると、衝撃で荷物が動いたりしないよう魔術で体を軽くしふわりと飛び乗った。
続いてシルフィがステラをふわりと持ち上げ、シャルルが受け取る形で荷車に乗せる。
シャルルたちの一連の行動を見ていたケイトは何か不自然なものを感じながらも、何がおかしいかわからず首をひねっていた。
その後、門で退場の審査と手続きを終えたセシルの馬車は、ケルブリッツを出て街道を黙々と進んで行く。
馬車には本が何冊か積んであり、ステラはケイトと一緒にそれを読みながら静かに過ごしていた。
だが、しばらくすると飽きたのか、ステラは荷車の中を動き回る。そして、それも飽きるとセシルのいる御者台を指して言った。
「すてら、あっちいきたい」
「だめだ。こっちでおとなしくしてなさい」
シャルルはそう言うが――
「かまわねえよ。こっちなら動き回らないだろうしな」
そう言ってセシルは笑う。
そしてステラが行くならとケイトも御者台に座った。