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次元の扉 その1

 特になんの変哲もない殺風景な部屋。そこにはパソコンに向う一人の中年男性がいた。


 彼の見るモニターに映るのは画面いっぱいとも言える大きさの真っ赤なドラゴンと、対峙するこれまた全身が真っ赤な竜を模した装備に身を包む騎士。


 ドラゴンはその口から紅蓮の炎を吐き出し、騎士はそれをすんでのところで避けた――かに見えたが、ギリギリ判定に当たってしまったのか体力ゲージがぐんぐん減って行った。


「くそっ」


 彼は短く愚痴を吐き出すと、キーボードの1~3のボタンをすばやく押す。


 するとショートカットに入れられた三種の全回復薬が効果を発揮し体力ゲージは満タンに戻った。


 第三者がこれを見たら全回復薬なのだから三つも使う必要はないのでは? と思うだろう。


 だがこれには意味がある。


 全回復薬が回復するのは体力ゲージ一本分。だがこのドラゴンの攻撃は体力ゲージを二本分以上削る。


 正確には彼の使用しているキャラの場合、多いときで二本半、少ないときで二本に少し届かない程度。


 つまり全回復薬を一回使っただけでは回復しきれず一撃でやられてしまうのだ。


 全回復は連打できない仕様であるため、このドラゴンに挑む者の多くはドラゴンの攻撃を食らった時点で終わりだと考えていた。


 しかし種類の違う全回復なら連打でき、タイミング良くそれをやれば一撃死を回避できる。


 彼がこれに気づいたのはまったくの偶然だった。





 次元の扉。それは十数年続くMMORPGアナザーワールド2において、かなりひさしぶりに実装された新しいクエスト。


 このクエストは通常のクエストと違い公式発表も無く、『次元の扉』という名称もプレイヤーたちの通称で公式のものではない。


 初心者ダンジョンにひっそりとその姿を現したその謎のクエストは、いつ実装されたのか誰も知らず、運営にメールで問い合わせても『攻略に関する質問にはお答えできません』と返ってくるだけだった。


 発見後しばらくは中に入る方法もわからずただ白い扉があるだけだったが、プレイヤーたちが色々試した結果、現在の最高レベルであるレベル100のキャラクターがソロのときにのみ入れる事がわかる。


 そして扉の向こうにはディメンションルームという名の長方形の部屋があり、そこには部屋の半分程度を占める巨大なドラゴンと、その背後に入って来た扉と良く似た白い巨大な扉がある事がわかった。



 アナライズというスキルがある。


 敵の強さを見るスキルで、これを使うと敵の名前とレベルを見ることができるのだが――敵のレベルがスキルを使用したキャラクターより上の場合、レベルが見えず名前しかわからない。


 このスキルによってディメンションルームにいる白いドラゴンの名がドラゴンロードである事と、現在このゲームに実装されているどの敵よりもレベルが高いレベル100以上である事がわかった。



 ゲーム内に雀卓の騎士というギルドがある。


 ギルドマスターのラーサー、サブマスターのロン・スラットを筆頭に、元ネタがなんとなく推測できるような名前のプレイヤーが多く所属するこのギルド。


 なんでも学生時代の麻雀仲間と作ったギルドとの事だが――それはあまり重要な事ではない。


 このギルドはクエスト攻略に関してゲーム内トップクラスのギルドで、ギルドのブログは最も有名な攻略ブログでもあった。


 そのブログにはギルドマスターでブログの管理人でもあるラーサーの攻略日記というものがある。


 そして、そこには彼が挑んだ次元の扉の事も書かれていた。


 結果から言うと、ラーサーは次元の扉攻略に成功している。


 それが成し遂げられたのは次元の扉が噂になってから約半年、挑む事18回目の事だった。


 次元の扉に関する攻略日記。


 その要点だけ抜粋すると――


 デスペナルティのレベルダウンは、課金アイテムを使いつつ効率良く狩れば社会人でも一週間程度で戻せる。


 部屋に入る前にかけた強化魔法は中に入ると無効化されてしまう。


 回復を惜しみなく使い何度もチャレンジすればレベル100グランドナイトでもなんとか倒せた。


 ドラゴンロードを倒してもアイテムのドロップは無く、倒すと奥の扉が開くが部屋の前に戻るだけ。


 ドラゴンロードを倒したら次元の扉が白から金色に変化した。


 一度クリアしたキャラはもう扉の中には入れない。


 金の扉の中には同じような部屋があり、中のドラゴンがレベル不明なドラゴンロードからレベル100のゴールドドラゴンに変わった。


 ゴールドドラゴンには通常攻撃もスキルも魔法も効かない。


 ――などの事が書かれていた。



 新しいドラゴンが現れた事により、ディメンションルームにいるドラゴンは総称として次元竜と呼ばれるようになる。


 第二の次元竜ゴールドドラゴンはレベルこそドラゴンロードより低い100だが、攻撃が一切効かず戦闘場所も狭い空間である事から攻撃を避けるのも難しく攻略は困難を極めた。


 しばらくの間は何人ものプレイヤーがゴールドドラゴンに挑んだが、なかなか攻撃を通す方法は発見されない。


 そして飽きられほとんど誰もやらなくなった頃、次元の扉は金から赤に変わった。


 難攻不落のゴールドドラゴンは攻撃を通す方法を発見され倒されたのか? それとも一定の期間で扉が変化する仕様なのか……。


 もし倒されたのだとしても、前回のドラゴンロードと違い倒した者がつけていた攻略日記などがあるわけでもないので、結局どうなのかはわからなかった。




 扉の色が変わった事で、また新たな挑戦者たちが現れる。


 第三の次元竜はレッドドラゴン。


 名前だけ見ればドラゴンロードやゴールドドラゴンに比べ格下に思えるが、その凶悪さはむしろ上がったと言えた。


 まずアナライズでレベルが見えない。


 これによりドラゴンロード同様レベル100を超えている事がわかる。そしてゴールドドラゴンと違い攻撃が通る事もわかった。


 だがHPが多いのか攻撃が当たってもゲージはほんのわずかしか減らず、しかもプレイヤーは攻撃を食らうと即死。これは現在手に入る最強装備でも同じだ。


 ゴールドドラゴンに続き攻略不可能だと思われる敵の出現にプレイヤーたちのやる気は激減。


 こうして次元の扉クエストは誰もやらない放置クエストになったかに思われた――が、諦めず挑み続ける一人の男がいた。

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