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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード11 環状街道の行商人
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生きる目的 その4

 元気良く食前の挨拶を済ませると、ステラは席に置いてあった割り箸を数字の7に似た片側に多く残る形で割る。そしてやはり箸は得意らしく、上手に箸を使いながら特に問題なく食べ始めた。


 最初は黙々と食べていたステラだったが、しばらくすると謎の歌を歌いだす。


「しろいごはん~♪ つやつやごはん~♪ さくさーくかつに~♪ そーすをつけて~♪ ごはん~といっしょ~にいただき~ます♪」


 ステラの皿を見ると歌の通りご飯とカツは食べている。だが、小鉢のサラダはまったく減っていない。


「サラダも食べやさい」


 シャルルがそう言うと、サラダに箸を伸ばしつつステラは歌いだす。


「きみどりはっぱはれ~たす♪ へんなにおいのせ~ろり♪ ちょっぴりからいだ~いこん♪ きゅ~りはあんまりあじし~ない♪」


 レタス、セロリ、大根、きゅうり、歌の順番にステラは野菜を口に運んで行く。それを見てセロリはいけるのか……とシャルルは思う。


 だが、やはり人参は駄目らしく、まったく手をつけていなかった。


「人参も食べなさい」


 シャルルがそう言うと、ステラは箸で人参をつまみ歌いだす。


「にんじんはしるふぃ~に~♪ あーげる~♪」


「……いらないわよ」


「じゃ~♪ しゃるーにあ~げる~♪」


「駄目だ~♪ 自分で~♪ 食べなさ~い♪」


「おおー」


 シャルルが歌で返すとステラは嬉しそうに声を上げる。


 だが――


「いやよ~♪ すてら、にんじんきらい~♪」


「少し~で良いか~ら♪ 食べな~さい~♪」


 そんなやり取りをしていると、後方から笑い声が聞こえてきた。


「ははは、楽しそうだな。しかし、こんなところに子供とは珍しい」


 シャルルが声に振り向くと、そこには大盛りの定食が載った盆を持つ短髪の金髪で筋肉質な男と、普通盛りの定食が載った盆を持つ赤髪の少女が居た。


 男は20代後半、少女は12~13歳といったところだろうか。


「かもな。だが、あんたも子供を連れているようだが?」


 シャルルの言葉に少女はむっとした表情で言う。


「私は子供じゃないわ」


「それは失礼した」


 そんなやり取りを見て男は笑う。


「ははは。ところで、相席良いだろうか?」


 ぱっと見、いくつか席は空いている。だが、数人のグループで来る客も多く、二人で席をを占有するのは迷惑そうな感じだ。


 つまり自分たちのためではなく、ほかの客や店への配慮での相席願いという事。


 この男、なかなか気の利くできた人柄のようだな。


 そう思ったシャルルは快く了承する。


「どうぞ」


「どうも」


「ありがとうございます」


 二人は礼を言うとシャルルたちの対面に座る。そして食前の挨拶のあと、しばらくは黙々と食べていたが(その間ステラは歌っていたが)しばらくすると言った。


「ところで――もしかしてあんたがザルツァーフェン行きの馬車を探してる魔術師か?」


「そうだが……もしかして噂になっているのか?」


「少しだけな」


「まいったな……」


 まあ、片っ端から聞いて回ってるからなぁ……そう思いシャルルは苦笑する。


「で、乗せてくれる馬車は見つかったか?」


「いや、昨日、今日と聞いて回っているんだが、体力の無い小さな子を同行させたくないと断られている」


「なるほど。まあ、子供が一緒では大変だろうな」


 うんうんと男は頷く。


 そして――


「俺たちも丁度ザルツァーフェンまで行くところだ。条件つきにはなるが、良ければ連れて行ってやろうか?」


「ほう。とりあえず条件を聞こう」


「ああ。まず俺たちは――」


 男は自分たちがジュグベール環状街道を回っている行商人であると話す。


 そして、仕事の関係で街道沿いの都市はもちろん町や村にも寄る必要があり、そこで行商をしたり運送を請け負ったりする。だからストレートにザルツァーフェンに行くより時間がかかるので、まずそれを了承して欲しいと言う。


「具体的には?」


「ストレートに行けばザルツァーフェンまで一ヶ月ちょっとといったところだが、俺たちの場合は四週間ちょっとといったところかな」


 この世界の一ヶ月は三週間。一週間は10日なので、四週間だと40日。つまりこの場合、ストレートに行くのに比べて10日程度遅くなるという事だ。


「まあ、それくらいなら許容範囲だな」


 シャルルの返事を聞き頷くと男は続ける。


「では、同行の条件だが――」


 条件はこうだ。


 まず、あくまで同行者で客扱いはしない。なので運賃は請求しないが、その代わり色々と手伝ってもらう。


 具体的には魔術師であるシャルルには水と明かりの供給を求め、その上で荷物の積み下ろしや野宿のときは見張りの交代などを求める。給料は支払えないが、その代わり食費の請求もしない。


 それから、もしステラが(シャルルやシルフィでもだが)倒れたりした場合、最寄の村や町までは送り届けるが同行はそこまで。そして最後に、自分と身内の身は自分で守る事。


 条件を聞きシャルルは考える。


 好条件と言うほどでもないが悪くもない。それに、これを逃せば次にこれ以上の条件を見つけるのも困難だろう。


「わかった。お願いしよう」


 シャルルがそう言うと男は立ち上がり、右手を差し出し名乗る。


「オーケー。俺はセシル。小都市エルザラトの交易ギルドに所属する行商人だ」


 それに対しシャルルも立ち上がり、ステラを隣のイスに座らせると差し出された手を握り返して言った。


「私はシャルル。帝――旅の魔術師だ」

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