生きる目的 その2
乗合馬車で小都市グリュンバルトを出発したシャルルたちの旅は、途中で立ち寄った宿場町ランジュルングで浮遊速車を借りた礼を子爵に言ったりしながら、特になんの問題もなく順調に進む。
馬車でステラが謎の歌を歌いだして「うるさい」と他の乗客に怒鳴られ泣くなど以前にもあったちょっとしたトラブルはあったが、特に問題とするほどの事でもない。
こうしてシャルルたちは、おおむね順風満帆に小都市ケルブリッツまでの旅を終えた。
ケルブリッツに到着後、シャルルは早速次の目的地である中都市ザルツァーフェン行きの乗合馬車を申し込むため交易ギルドに向かう。
だが――
「9月下旬だと!?」
「はい。予定通りに行けば……ですが」
ケルブリッツからザルツァーフェンまでは片道一ヶ月以上。しかも隊商は到着後しばらく向こうに滞在するので、往復だと三ヶ月近くかかる。そして隊商は数日前に出発したばかりだ。
ザルツァーフェンからこの都市に来る隊商の帰りに同行する事はできないだろうか? とシャルルは尋ねてみるが、別の都市のギルドが派遣してくる隊商の事は来てみないとわからないと職員は言う。
それにもし同行できたとしても、予定通りにザルツァーフェンの交易ギルドが派遣した隊商が来た場合、到着は7月下旬から8月上旬なので一ヶ月程度は待つ事になるらしい。
つまりこのままだとシャルルたちは、運が良ければ一ヶ月、悪ければ三ヶ月間この都市に滞在する事になる。
安い宿に泊まり食費を削っても、乗合馬車の料金を考えるとさすがに三ヶ月も滞在できるほどの金は無い。となると何か仕事をする必要があるのだが、ステラを連れてできる仕事などあるだろうか?
こんな事なら伯爵から少し金をもらっておくべきだったか……そんな事を考え途方に暮れるシャルル。そんな彼を心配そうにステラが呼ぶ。
「しゃるー……」
「大丈夫だ。なんとかする」
そう言ってシャルルはステラをなでる。
とはいえまったくもってあては無い。何か良い手はないものかと、シャルルはギルド職員に尋ねた。
「乗合馬車以外にザルツァーフェンに行く方法はないのか?」
「安全面を考えるとお勧めはできませんが……ジュグベール環状街道を回っている行商人は多いので、そういう人に連れて行ってもらうという方法もあります」
「ジュグベール環状街道?」
耳慣れない言葉にシャルルが聞き返す。すると職員は地図を出して詳しく教えてくれた。
この都市から見て東に位置するジュグベール山。その山を中心に環状になった街道をジュグベール環状街道と呼ぶ。
そして自身の拠点である都市を出発し、その街道を時計回りや反時計回りで1年近くかけて行商などをしながら回っている商人が多数いるらしい。
行商人は拠点都市の交易ギルドに所属し、そこが発行している身分証で他の都市に入場している。したがってある程度は身元がはっきりしているので、同行させてもらってもそれほど危険ではないだろう。
無論、隊商と共に行く乗合馬車と比べれば危険度は段違いに高いが。
「なるほど、行商人か」
最近乗合馬車が続いたせいですっかり忘れていたが、シャルルも以前は行商人などの馬車に同乗させてもらっていたのだ。
それも悪く無いなとシャルルは思う。
そしてギルド職員に行商人が集まるという倉庫街の場所を聞き、そこに行ってみる事にした。
シャルルは倉庫街に行くと早速行商人らしき人に聞いて回る。そしてザルツァーフェンに行くと言う行商人を何人か見つける事ができた。
シャルルが自分は魔術師で水や明かりの供給が可能だと言うと最初は歓迎されるのだが、どの行商人も子供が一緒である事を知ると難色を示す。
この都市からザルツァーフェンまでは一ヶ月以上かかる。一週間程度ならともかく、長期の旅に体力の無い子供を連れて行くのはトラブルの元だからだと言う。
行商人は隊商ほどの規模ではないが、数人でグループを作っている場合が多い。そのためグループ内で一人でも反対意見が出れば断られてしまう。
同行の報酬もグループで山分けとなるため微々たるもの。もっと金を積めば乗せてくれるかもしれないが、それをするとしても最後の手段だろう。
以前のように最寄の町まで乗せてもらい、そこで次の馬車を探すという手もある。だが馬車がなかなか見つからず、かえって時間がかかるかもしれない。
やはり可能なら、一気にザルツァーフェンまで行きたいところだ。
その後も何人かの行商人と交渉したが結局乗せてくれる者は見つからず、暗くなってきたので今日は諦め宿を探す事にした。