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異世界大陸英雄異譚 レベル3倍 紅蓮の竜騎士  作者: 汐加
第二章 エピソード11 環状街道の行商人
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生きる目的 その1

 大陸北部の中央よりやや南東にあるジュグベール山。森林に囲まれたその山を囲むように、魔導帝国に属する都市が七つある。


 それらの都市を結ぶ街道は環状になっており、正式名称ではないが人々はそれをジュグベール環状街道と呼ぶ。


 港町で大陸有数の塩生産量を誇る中都市ザルツァーフェンや、帝国内における流通の中心地、交易都市ゼントルタッドを含むジュグベール環状街道。この街道では運送業や行商が盛んで、街道を回りながらそれらの仕事をする行商人も多い。


 そんな行商人の一人にセシルという男が居る。


 彼は、この仕事をする前まではハンターだった。




 フォースの才能があったセシルのハンター人生は、ジュグベール環状街道沿いにある都市の一つ、農業都市グロウサッカの付随都市、小都市エルザラトで始まる。


 尊敬できるリーダーと信頼の置ける仲間。そんな恵まれたパーティに参加できた彼は順調にキャリアを積む。そして彼がハンターレベル3、プロハンターになったのをきっかけに、パーティは大都市グロウサッカに移籍した。


 グロウサッカでも順調にキャリアを積んだセシルは、ハンターレベル4も目前というところまで行く。


 だが、この都市がドラゴンの襲撃を受けた事で状況は一変。都市防衛法の協力要請により都市の防衛に参加したセシルのパーティは――その戦いで崩壊した。


 尊敬していたリーダーは無残に死に、大怪我を負った仲間はハンターを続けられなくなり、無事だったメンバーもハンターを辞めてしまう。


 唯一残ったセシルは一人でハンターを続けたが、ドラゴンとの戦闘で足がすくみ何もできなかった自分がハンターを続けて行けるのだろうか……と悩み続けていた。


 新しいパーティに誘われる事もあったが、悩んでいた彼はそれを断りソロでできる仕事を黙々とこなす。そんなある日、彼はオークに襲われ占領された村を奪還するという依頼に参加した。


 奪還作戦は実力があるハンターが多数参加した事もありつつがなく終わり、多少の怪我人は出たものの死者は無し。オークは殲滅され村の奪還には成功する。


 だが、行ったときには既に村は壊滅状態で、生存者の発見はどう見ても絶望的。参加者たちは生存者を探して回ったが、発見には至らず撤収する事になった。


 皆が撤収の準備を始める中、セシルは最後にもう一度だけと入った民家で、地下倉庫に隠れていた幼い少女を発見する。


 少女の名はケイト。彼女は極度の恐怖と緊張、そして空腹という極限状態にあったためひどく衰弱していた。


 そんな状況から救ってくれた人物だからなのか、ケイトはセシルにべったりで離れたがらない。それはグロウサッカに戻ってからも続き、ケイトはセシルから離れる事を極端に恐れ嫌がった。


 通常こういう身寄りの無い子供は教会が運営する孤児院に引き取られる。だが、ケイトはセシルの服をつかんで離さず引き離そうとすると激しく泣いた。


「やー! せしるー! せしるー!」


「ほら、あなたと一緒だと、この方がハンターのお仕事を続けられないでしょ?」


 引き取りに来たシスターの言葉にケイトは首を振り、必死にセシルの服をつかんで離さない。そのときセシルはシスターの言葉にそれも悪くないな……と思う。


 そして彼は自分がハンターを辞めるきっかけを探していた事に気づく。


「せしる……おいてかないで……」


 涙目で懇願するケイトを見てセシルは思う。


 ハンターを辞める口実にこの子を使うのもなんだが――この子のためにもなるのならそれも良いか。


「じゃあ、俺と家族になるか?」


「う……ん……」


 ケイトは搾り出すような声で肯定すると、セシルにしがみつくように抱きつき声を殺して泣く。そんな彼女をなでながら、もうとっくに諦めていたハンターとして名を上げるという目標は捨て、今後はこの子のために生きて行こうとセシルは誓う。


 そして彼はハンター時代のつてと貯金を使い、馬車を買ってジュグベール環状街道を回る行商人を始める。



 それから――10年の月日が流れた。

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